半ニートから高額所得者まで、常識人から異世界に住む人々まで、幅広い層が飲みに来る下北沢を中心に、「一人飲み歴10年以上」の、きたざわ御神酒(おみき)です。

10年以上も一人飲み歴を更新し続けていれば、バーなどでの振る舞いもこなれて参ります。初めての店で、たとえ個性的でこだわり仕様が強い店の場合も「この手の店ではこう振るまえば問題ないだろう」という道筋を嗅ぎ取るテクニックも育ちます。

その結果、筆者はここ5年ほど飲みの席で「お店の人に注意される」という経験をしたことがありませんでした。理性を保てる酒量を超えたり、楽しめる話題のセレクトを間違えたり、合わないタイプと無理に語り合おうとしたり……などという「一人飲み初心者」がやりがちな問題はとっくに通過したからです。筆者自身がバーテンダーをしていた時期もあるため「お店側が喜ぶお客像」に自然と寄せるクセができ、結果、だいたいのお店で優遇されて参りました。

しかし!最近、まさかの間違いを犯してしまったのです。しかも大変プロトコルのわかりやすい、都内の高級ホテルのクラブラウンジで!

なぜそんな事に? という経緯から、一般の方が知っているようでご存知ない、特殊な友人関係についてご紹介いたします。

GWやお盆、年末などに都内で遭遇しがちな「ファッションや年齢があまりにもバラバラ、なのにやたら仲良しなグループ」の正体は?

読者の皆様は「いったいどんな関係なのかまったく想像がつかないグループ」を見かけたこと、ありませんか?

たとえば喫茶店で盛り上がる女性5人のグループ。一人は20代前半の男性ウケ狙い系ファッション、一人は40代後半の巻き髪コンサバ奥様風、一人は30代後半のショートカット&パンツルックのキャリア系、一人は30代のナチュラル森ガール系、一人はファッションに興味が無さそうな年齢不詳系……。その人達のつながりは、仕事関係にも、家族や親族にも、ママ友にも、カルチャースクールなど共通の趣味があるようにも、見えません。

……そんな構成のグループが、全員ものすごく楽しそうに、身を乗り出さんばかりの勢いで会話して盛り上がっているのです。会話のはしばしに、一般名詞とは思えぬ耳慣れぬ単語(隠語?)が飛び交っています。

こうしたナゾのグループが出没しやすい時期は、GW、お盆、年末などを中心に、それ以外の土日祝日、時には平日の夜なども、まま現れます。場所は、都内など人の多いエリア。喫茶店やファミレス、時にはホテルのクラブラウンジでも、遭遇の可能性があります。

はい、筆者が最近、高級ホテルのクラブラウンジで注意を受けてしまったのは、この手の「謎のグループ」で集まっている最中でした。話が盛り上がり過ぎて全員で笑いころげているところを「お客様、他のお客様もいらっしゃいますので、もう少しお声のボリュームにご配慮下さい」と言われてしまったのです!恥ずかしすぎます……!! 飲み慣れているはずの筆者がアラフォーにして、女子高生のギャルグループが受けるような注意を受けてしまったのです!

そこまで我を忘れて会話に夢中になるほどのグループ、一体、なんの集まりだったと思いますか?ちなみに5人グループのうち、2名は筆者とは初対面の方々でした。

初対面でも、幼馴染ほどの近さを感じられる特殊な関係を構築できてしまう文化

この集まりの正体は……「同じアニメ作品の同じキャラクター・カップルにハマった者つながり」です。端的に言えば「ヲタクつながり」ですね。何故、ホテルのエグゼクティブ・クラブラウンジで集まっていたかといえば、メンバーのうちの二人が当該フロアに宿泊していたから。西から来た女性開業医と、北から来た女性社長……二人がヲタクイベントに合わせて上京する際、高級ホテルのクラブフロアをリザーブし、「ラウンジにゲストを招いてOKだから、ヲタ仲間で会食しましょう」と声をかけてくれたのです。初対面のメンバーがいたのは、宿泊メンバーたちが別々なルートで親しくなった『同好の士』を集めたからです。

しかし、こうしたヲタク仲間が「一緒に会いたい」とセレクトするメンバーは、初対面であってもすぐに打ち解けられることがほぼ保証されています。同じアニメの同じキャラクターカップルにハマるという事は、人間としての信条や嗜好の方向性がすでにかなり似ている、という事だからです。いい大人がアニメのキャラクターに、文字どおり「ハマる」状態になるのは、その世界観と関係性の中に「個人的に胸に秘めている理想のパートナー観」を投影できるからです。いわば、大人として人様に明かしにくい「心のバイブルが同じ」という状態。そういう仲間と語り合い、共感しあう時間は「心のエステ」なのです。

「〇話のシチュエーションは、人間力を試されるよね」「〇〇(キャラ名)のこういう行動が素晴らしい!」という、アニメの元ネタにちなんだ話題で共感しあうところから始め、その後、各々の現実でのエピソードや悩み相談などを話題にしたりしても「わかる〜!」と、心底共感してもらえたり、求めていた「納得できるアドバイス」がバンバン出てきたりします。

勝手に生活を想像しても本人に迷惑がかからない架空のキャラクターは、大人同士の思想の情報交換ツールとして実は優秀

一昔前、アニメや漫画は子供のもの、という印象でしたが、実は大人の情報交換ツールとして、作品そのもの以上のポテンシャルを持っている、と筆者は思います。フィクションのキャラクターは実在の人間と違い、世の中に出ている情報のみで人物像が完結しています。ですから「こんな裏の事実が発覚して幻滅した」という事も起きなければ、こちらがどんなに血道をあげて性格や生活を妄想しても、実在の人物を傷つける恐れがありません。大人同士が「自分の考え方」をオブラートに包みつつ交換するのに、フィクション作品や登場人物は、非常に優秀なツールなのです。

というわけで同行のヲタ仲間との女子会はものすごく楽しいのですが、注意されてからはハッとして、ふるまいに気を付けました(笑)。

さて「ヲタ仲間」を得る事の特別な楽しさについてご紹介してきましたが……後編では、「ヲタ仲間」な上に異性、というお相手に遭遇!さらには、10年ごしのデートをした友人女性の衝撃的なエピソードをご紹介します。

バーでこんなグループを見てもスルーしましょう。彼女たちには見た目では計り知れない共通点があるのです。

〜その2〜に続きます。