新幹線からローカル線まで、愛称が付いている列車は数多く走っています。しかしそのなかには由来が分かりにくかったり、ユニークだったりする列車名も。どのような背景があるのでしょうか。

JR九州のユニークな列車名

 列車の名前は、その列車の役割や行き先などを表すうえでも重要な役割を持ちます。特に観光列車なら、目的地や旅、サービスのイメージを列車名に託す例が少なくありません。


特急「ゆふいんの森」(左)と並ぶ特急「あそぼーい!」(児山 計撮影)。

 JR九州は「D&S(デザイン&ストーリー)」列車と称して、各線でユニークな列車を走らせていますが、名称もユニークなものがそろっています。

 たとえば豊肥本線を走る特急「あそぼーい!」は、熊本の「阿蘇」を走る列車、というイメージはつかめますが、さらに熊本弁の「遊ぼうよ」が由来になっています。かつて運行されていた蒸気機関車牽引(けんいん)の快速「あそBOY」の列車名を引き継いでいます。

 三角線を走る特急「A列車で行こう」の列車名は、音楽好きならジャズの名曲を思い浮かべるかもしれませんが、列車名の「A」は、そのコンセプトである「天草(Amakusa)」を行く「大人(Adult)」の旅の頭文字をとったものといいます。列車の終点、三角駅(熊本県宇城市)では天草方面への船に乗り継げます。

 珍しい例としては直方(のおがた)〜博多間を走る「かいおう」や、熊本〜人吉〜吉松間の「いさぶろう・しんぺい」。これらはそれぞれ、直方出身の大相撲力士(当時)・魁皇博之さんと、肥薩線建設・開業(1909年)当時の逓信大臣・山縣伊三郎、鉄道院総裁・後藤新平からの命名です。相撲や鉄道史を知らないと、何のことだろうと考えてしまいます。

 このようにJR九州には多数のユニークな名前の列車が走っていますが、これらを聞いてなんとなく「おもしろそうだな、乗ってみたいな」と興味を持ってもらえれば、JR九州としては大成功というわけです。

日本語以外のユニークな列車名

 JR九州以外にもユニークな名前の列車は走っています。

 JR西日本には「○○(まるまる)のはなし」という、まるでクイズのような名前の観光列車が登場しました。「○○」には別の言葉が入るわけではなく、そのままが正式な名称です。同社は列車名について、「山陰線には日本と西洋をひき合わせた志士達の歴史や文化、美味しい海の幸や地酒など、見て、聞いて、感じてみたいさまざまな『はなし』が息づいています」とし、さらに運転区間の萩(はぎ)・長門(ながと)・下関(しものせき)の頭文字を取って、「思い出に残る『はなし』の旅をお楽しみください」と説明しています。


博多〜大分間などを結ぶJR九州の特急「ソニック」(2012年2月、恵 知仁撮影)。

特急「サンダーバード」に使用されるJR西日本の681系電車(2014年7月、恵 知仁撮影)。

南海電鉄の「ラピート」はドイツ語で「速い」という意味(児山 計撮影)。

 列車名には、日本語だけでなく外国語や外来語、またはそれらを用いた造語も少なくありません。英語で「音速」の意味を持つJR九州883系電車の特急「ソニック」や、福井県の観光資源である恐竜の英語「dinosaur」と地元の期待を込めた「スター」を組み合わせたJR西日本の特急「ダイナスター」などが例に挙げられます。

 北陸本線を走るJR西日本の特急「サンダーバード」の名前の由来は、同社によると、アメリカ先住民族の神話に登場する鳥の名前がモチーフといいます。かつて同じ区間を走っていた特急「雷鳥」の英訳にも思えますが、冬に白い羽根になるライチョウの英語は「Ptarmigan(ターミガン)」であるため、実は「雷鳥」と「サンダーバード」はまったく異なる鳥なのです。

 英語以外の列車名では、JR北海道の特急「オホーツク」(ロシア語。オホーツク海に由来)、特急「カムイ」(アイヌ語)、南海電鉄の特急「ラピート」(ドイツ語)、JR西日本の快速「ベル・モンターニュ・エ・メール」(フランス語)などがあります。

誤乗注意? 乱立する「富士山列車」

 列車の数が増えると、似たような名前の列車も登場します。

 世界遺産に登録され、世界中から脚光を浴びている富士山の周りには、「富士山」を由来にした列車が多数運行されています。


世界遺産となった富士山の周りには「富士」を冠した列車が多い。写真は富士急行の「フジサン特急」(児山 計撮影)。

 JR中央本線から富士急行線に直通する快速「富士山」「ホリデー快速富士山」「山梨富士」、富士急行線内の特急「フジサン特急」「富士山ビュー特急」、観光列車「富士登山電車」。さらに小田急電鉄には「あさぎり」改め「ふじさん」が2018年3月のダイヤ改正から登場しました。

 このなかでもJRの快速「富士山」と小田急の特急「ふじさん」はいずれも東京の新宿を始発として富士山方面に向かいますが、「富士山」は山梨の河口湖行きで、「ふじさん」は静岡の御殿場行き。両駅は富士山を挟んで直線距離で約30kmも離れているため、乗り間違えると大変です。

 ちなみに特急「ふじさん」の前身である「あさぎり」は、かつて国鉄急行「あさぎり」と名前が重複したことがあります。ただしこのときの急行「あさぎり」は指定席のない九州内の急行列車だったため、乗り間違える可能性は低かったと考えられます。

 似通った列車名はきっぷの誤発券や誤乗の原因にもなります。1997(平成9)年10月に北陸新幹線が長野まで開業して長野行きの「あさま」が走るようになると、列車名が似ていて紛らわしかった上越新幹線の「あさひ」は、後に「とき」に改称されたということもありました。列車名は利用客へのアピールとともに、分かりやすさも大切なのです。

※内容を一部修正しました(5月27日12時29分)。

【写真】国鉄・JR唯一のロシア語由来の特急列車


特急「オホーツク」は国鉄時代から唯一のロシア語由来の列車名で運行されている(児山 計撮影)。