航空機の技術とメカニズムの裏側 第107回 航空機の航法と管制(5)オートパイロットとFMS
今回のお題はFMS。といっても、アメリカ政府の武器輸出管理に関わる制度(Foreign Military Sales:有償海外援助)のことではなく、Flight Management Systemのほうだ。これは、オートパイロットと測位システムを組み合わせた自動飛行を、より安全・確実にする仕組みである。
○無人機に不可欠なオートパイロット
前回に、「ミサイルでもオートパイロットを使用している」という話を書いた。実は、同じ無人の飛び物である無人機(UAV : Unmanned Aerial System)も事情は同じだ。そもそも、無人機は人が乗っていないのだから、その代わりを務めるオートパイロットがなければ仕事にならない。
考え方は有人機のオートパイロットと同じである。INSやGPSで現在位置を把握して、エア・データ・コンピュータから速度や風などに関する情報を得れば、コンピュータが自律的に機体をA地点からB地点に飛ばすことができる。
ただ、無人機のオートパイロットがミサイルのそれと異なるのは、巡航だけでなく、離着陸も行わなければならない場合がある点だ。実際、軍用無人機の中には離着陸まで自動化している事例がある。興味深いことに、自動離着陸のほうがオペレーターによる遠隔操縦よりも事故が少ない、とする報告書が出たこともある。
もちろん、無人機が自動的に離着陸するからといって、ただ単に放っておいてよいというものではない。オペレーターが機体の動きを監視する必要はある。
通常、その監視は機体が離着陸する現場で行うものだが、ゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ社は2018年の初頭に、衛星通信を用いて無人機の自動離着陸を遠隔監視する実証試験を実施した。
現在は離着陸の操作や監視を行うために、機体と一緒にオペレーターを派遣しなければならない。だが、離着陸を遠隔操作・遠隔監視できれば、派遣する人員の所要が減る。つまり経費節減につながる。機体と整備員だけは、どうしても現地に派遣しなければならないが。
○ウェイポイントを間違えると……
前回に解説したように、慣性航法装置(INS : Inertial Navigation System)やGPS(Global Positioning System)による測位とオートパイロットを組み合わせれば、目的地、それと途中で経由する経由地(ウェイポイント)の緯度・経度を事前に入力しておくことで、目的地まで自動的に飛んで行くことができる。
ただし、これが成立するには前提条件がある。出発地、目的地、それとすべてのウェイポイントについて、緯度・経度を間違えずに入力しなければならない。機械は正直だから、間違った緯度・経度を入力すれば、間違った場所に向けて飛んで行ってしまう。
1983年9月1日に発生した大韓航空KAL007便撃墜事件では、このウェイポイントの入力ミスが、原因の1つとして取り沙汰された。また、INSで使用するジャイロを最初に安定化させる操作が必要になるが、それが完了する前に機体を動かしてしまった可能性も取り沙汰された。
機械式ジャイロを使用するINSでは、ジャイロスコープがスピンアップして安定化するまでに時間を要する難点がある。その点、リング・レーザー・ジャイロのほうが有利だろう。ではGPSはどうかというと、複数の衛星から電波を受信して測位するまでに、若干の時間を要する場合がある。
話を元に戻す。KAL007便がソ連(当時)の領空に入り込んでしまった原因は確定していないが、正しい経路を飛べるかどうかが、手作業による緯度・経度の入力に依存していた事実に変わりはない。
○PMSとFMS
といったところで、話はいったん、航法から外れる。
民航機では特に、経済性が重要視される。運航経費の中でも大きな比率を占めているのは燃料費だから、燃料効率を高めることは重要である。そこで登場したのがPMS(Performance Management System)。飛行条件に応じた最適な飛行諸元を割り出して、それに合わせてオートパイロットやオートスロットルをコントロールする。
例えば、燃料を消費して機体が軽くなるにつれて、高度を段階的に上げていく飛び方がある。最初に搭載した燃料の量と、その後の燃料消費量は把握できるから、燃料の残量や、機体がどれだけ軽くなったかも計算できる。そして、風向・風速の情報はエア・データ・コンピュータから得られる。そうしたデータをPMSに取り込んで、最適な操縦を行うわけだ。
そこに航法関連の機能も追加したのがFMS。中核となる機材が飛行管理コンピュータ(FMC : Flight Management Computer)で、キモは航法データベース。これには以下のような情報を組み込んである。
空港、滑走路、スポット(駐機場)
空港ごとの出発/進入方式
航空路、飛行ルート
計器着陸システム(ILS : Instrument Landing System)、VOR(VHF Omnidirectional Range)、DME(Distance Measuring Equipment)といった航行援助施設
これらのデータを活用すると、「A空港からB空港まで、この経路を通って飛行する」と指示する際の操作が楽になる。途中で経由するウェイポイントの情報は航法データベースから引き出すことができるから、いちいち緯度・経度を入力する手間が省ける。VOR/DMEの選局も、航法データベースからのデータに基づいて自動的に行える。
今の民航機ではFMSが標準的な装備品になっていて、コックピットに設けたCDU(Control Display Unit)を用いて操作するようになっている。旅客機の場合、CDUはセンターコンソール前端の左右に設けるのが一般的なようだ。左右にあるのは、機長席(左席)と副操縦士席(右席)のどちらからでもCDUを操作できるようにするため。
○無人機に不可欠なオートパイロット
前回に、「ミサイルでもオートパイロットを使用している」という話を書いた。実は、同じ無人の飛び物である無人機(UAV : Unmanned Aerial System)も事情は同じだ。そもそも、無人機は人が乗っていないのだから、その代わりを務めるオートパイロットがなければ仕事にならない。
ただ、無人機のオートパイロットがミサイルのそれと異なるのは、巡航だけでなく、離着陸も行わなければならない場合がある点だ。実際、軍用無人機の中には離着陸まで自動化している事例がある。興味深いことに、自動離着陸のほうがオペレーターによる遠隔操縦よりも事故が少ない、とする報告書が出たこともある。
もちろん、無人機が自動的に離着陸するからといって、ただ単に放っておいてよいというものではない。オペレーターが機体の動きを監視する必要はある。
通常、その監視は機体が離着陸する現場で行うものだが、ゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ社は2018年の初頭に、衛星通信を用いて無人機の自動離着陸を遠隔監視する実証試験を実施した。
現在は離着陸の操作や監視を行うために、機体と一緒にオペレーターを派遣しなければならない。だが、離着陸を遠隔操作・遠隔監視できれば、派遣する人員の所要が減る。つまり経費節減につながる。機体と整備員だけは、どうしても現地に派遣しなければならないが。
○ウェイポイントを間違えると……
前回に解説したように、慣性航法装置(INS : Inertial Navigation System)やGPS(Global Positioning System)による測位とオートパイロットを組み合わせれば、目的地、それと途中で経由する経由地(ウェイポイント)の緯度・経度を事前に入力しておくことで、目的地まで自動的に飛んで行くことができる。
ただし、これが成立するには前提条件がある。出発地、目的地、それとすべてのウェイポイントについて、緯度・経度を間違えずに入力しなければならない。機械は正直だから、間違った緯度・経度を入力すれば、間違った場所に向けて飛んで行ってしまう。
1983年9月1日に発生した大韓航空KAL007便撃墜事件では、このウェイポイントの入力ミスが、原因の1つとして取り沙汰された。また、INSで使用するジャイロを最初に安定化させる操作が必要になるが、それが完了する前に機体を動かしてしまった可能性も取り沙汰された。
機械式ジャイロを使用するINSでは、ジャイロスコープがスピンアップして安定化するまでに時間を要する難点がある。その点、リング・レーザー・ジャイロのほうが有利だろう。ではGPSはどうかというと、複数の衛星から電波を受信して測位するまでに、若干の時間を要する場合がある。
話を元に戻す。KAL007便がソ連(当時)の領空に入り込んでしまった原因は確定していないが、正しい経路を飛べるかどうかが、手作業による緯度・経度の入力に依存していた事実に変わりはない。
○PMSとFMS
といったところで、話はいったん、航法から外れる。
民航機では特に、経済性が重要視される。運航経費の中でも大きな比率を占めているのは燃料費だから、燃料効率を高めることは重要である。そこで登場したのがPMS(Performance Management System)。飛行条件に応じた最適な飛行諸元を割り出して、それに合わせてオートパイロットやオートスロットルをコントロールする。
例えば、燃料を消費して機体が軽くなるにつれて、高度を段階的に上げていく飛び方がある。最初に搭載した燃料の量と、その後の燃料消費量は把握できるから、燃料の残量や、機体がどれだけ軽くなったかも計算できる。そして、風向・風速の情報はエア・データ・コンピュータから得られる。そうしたデータをPMSに取り込んで、最適な操縦を行うわけだ。
そこに航法関連の機能も追加したのがFMS。中核となる機材が飛行管理コンピュータ(FMC : Flight Management Computer)で、キモは航法データベース。これには以下のような情報を組み込んである。
空港、滑走路、スポット(駐機場)
空港ごとの出発/進入方式
航空路、飛行ルート
計器着陸システム(ILS : Instrument Landing System)、VOR(VHF Omnidirectional Range)、DME(Distance Measuring Equipment)といった航行援助施設
これらのデータを活用すると、「A空港からB空港まで、この経路を通って飛行する」と指示する際の操作が楽になる。途中で経由するウェイポイントの情報は航法データベースから引き出すことができるから、いちいち緯度・経度を入力する手間が省ける。VOR/DMEの選局も、航法データベースからのデータに基づいて自動的に行える。
今の民航機ではFMSが標準的な装備品になっていて、コックピットに設けたCDU(Control Display Unit)を用いて操作するようになっている。旅客機の場合、CDUはセンターコンソール前端の左右に設けるのが一般的なようだ。左右にあるのは、機長席(左席)と副操縦士席(右席)のどちらからでもCDUを操作できるようにするため。