柴崎が左足で決めた芸術ボレー弾の価値 “スーパーな利き足”を持つ者とは異なる称賛

写真拡大

各国メディアで取り上げられた、バルセロナ相手の美しいボレーシュート

 16日のバルセロナ戦(1-2)でヘタフェMF柴崎岳が決めたゴールは、各国のメディアで取り上げられた。

 力みのない美しいボレーシュートだったが、利き足ではない左足で決めたことも高評価につながっているようだ。

 両足で精度の高いプレーができるのは、日本人選手の特徴かもしれない。ましてや利き足でない足でボレーシュートを決めるというのは世界的に見ても難易度の高いものと見られており、2001-02シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ決勝でジネディーヌ・ジダンが決めた左足ボレーでの決勝ゴールなどは、その点でも例外として受け止められている。

 完璧な“両利き”と言える選手はほとんどいないが、古くは1966年イングランド・ワールドカップ(W杯)のヒーローだったボビー・チャールトンが、“両利き”として知られていて、どちらの足でもCKやFKを蹴っていた。

 また、右利きの左サイドバックの多くは「後天的左利き」である。このポジションは左足の側にボールを置き、左足でキックする必要があるからだ。利き足と同じことを、もう一方の足でもできれば有利ではある。日本に“両利き”が多いのも、幼少期からそういう指導がされているからだろう。

 ただ、史上最高クラスの名手でも、実はほとんど利き足しか使っていない。リオネル・メッシ、ディエゴ・マラドーナ、フェレンツ・プスカシュは完全な左利き。ペレ、アルフレッド・ディ・ステファノ、ヨハン・クライフは左足も時々使うが、やはりほとんど右足だった。

プスカシュが遊びで見せた“右足の精度”

 では、例えばメッシが右足を左足と同じくらい上手く使えるなら、現在の倍の得点をゲットし、より素晴らしいプレーができるのだろうか。たぶん、そうはならないと思う。利き足でのプレーが完璧だと、もう一方の足を使う必要が試合中にほとんどないからだ。たまに補助的に使うくらいで、利き足でない方の足は出番がない。

 こんなエピソードがある。

 1953年にウェンブリーで行われたイングランド対ハンガリーは、「世紀のゲーム」として有名だ。6-3で“マジック・マジャール”が大勝した歴史的な試合の前日練習のこと、ハンガリーの選手たちはクロスバーに引っかけたシャツにシュートを当てる遊びに興じていたという。

 ある選手がボールをシャツに命中させた。2回目もその選手がシャツを落とした。この他愛のないゲームに連勝したのはプスカシュだったのだが、いずれも利き足ではない“右足”のキックだったという。「左足の少佐」というニックネームのプスカシュは、試合では全くと言っていいほど右足を使わなかった。だが彼は、“使えない”のではなく、“使う”機会がなかったのだ。

 両足をそこそこ使えるより、スーパーな片足の方がずっと価値がある。両足がスーパーなら素晴らしいが、たいがい片方の武器は封印されたままになる。そういう意味で、昨年12月に行われたクラブW杯でレアル・マドリード相手に左足で2ゴールを叩き込み、今回のバルサ戦での美しいボレーと、柴崎は利き足ではない方の足でスペインの二大クラブ相手に決定的な仕事をした選手として、その名を高めたと言えるのかもしれない。

【了】

西部謙司●文 text by Kenji Nishibe

ゲッティイメージズ●写真 photo by Getty Images