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人や荷物を載せて世界中の空を飛び回っている飛行機は、1つの胴体に大きな主翼と尾翼などの補助翼、そして複数のエンジンで構成されていることがほとんどですが、そんな常識を大きく進化させそうな機体の研究が進んでいます。スイス連邦工科大学ローザンヌ校で進められているプロジェクト「Clip-Air」は、羽根とエンジンだけの機体に客室や貨物室、さらには拡張燃料タンクなどのモジュール式カプセルを装着することで、従来とは異なる柔軟な運用が可能になるとされています。

Clip-Air's Rail-to-Sky Technology Could Revolutionize Air Travel

http://www.cntraveler.com/stories/2016-07-06/clip-airs-rail-to-sky-technology-could-revolutionize-air-travel

CGで描かれたClip-Airの概念イラストはこんな感じ。機体全体が翼になる全翼機のような本体の下に、3つのカプセルがつり下げられている様子がわかります。



下側から見るとこんな感じ。まるで大型魚の腹にくっつくコバンザメのように、大きな翼にカプセルがぶら下がっています。主翼にはエンジンの他に巨大な脚のようなものがありますが、これは非格納式のランディングギア(車輪)です。



さぞかし巨大な機体だろう……と思ったら、翼端幅はボーイング777型機と同レベルの約60メートルと、ごく常識的なサイズであることがわかります。ただし全長は約30メートルと、777型機の半分以下となっています。これは、小型機であるボーイング737型機やエアバスA320型機などと同レベルで、Clip-Airの概念は「777型機の翼に737型機の胴体を3つぶら下げたもの」と言えそうなもの。



全長が短いため、そのサイズ感は地上を走る列車と同じぐらい。そのため……



カプセルを、列車に搭載して輸送することも可能。こうすることで、空港とは別の場所でチェックインし、そのまま空港に乗り付けて機体にガッチャンコして飛んでいく、という運用が可能になるほか、貨物を搭載したカーゴであれば機体から取り外してそのまま列車に乗せ、迅速な物流を実現する、といった可能性をも秘めています。実際には、セキュリティ上の問題や通関手続きなど、課題となりそうなポイントもありそうですが、これまでには不可能だった運用方法が実現するというのは興味深いところと言えそう。



カプセルは用途に応じてさまざまなタイプを準備できる模様。乗客が乗る客室や、貨物を載せるカーゴタイプ、燃料タンクとして使うことで航続距離を伸ばしたり、緊急用なのでしょうか、救護設備を搭載した専用のカプセルとして運用するといったアイデアも出ているようです。



カプセルを機体に装着する際は、このようにカプセルを並べたところに機体を覆い被せるようにのせる模様。ただし、この方法は他にもいろいろなものが存在するはず。



さらに興味深いのは、Clip-Airはスケーラブルなシステムになりそうなところ。このように、カプセル1つから3つまでの機体タイプを用意することで、用途やニーズに応じた運用が可能になるのかも。つまり、同じカプセルを使い回して搭載個数を変えることで、小型機から大型機まで輸送容量を変化させることが可能になるというわけです。



気になる経済性におけるメリットですが、その点についてはまだ具体的に触れられていない模様。とはいえ、Condé Nast Tavelerの記事では、バイオ燃料や液体水素を燃料にすることも可能であることや、「1機でボーイング737型機を3機分と同等の乗客を輸送できる」として、燃料効率の良さがアピールされています。

なお、このClip-Airは2009年から研究が進められているプロジェクトで、実用化は2020年〜2045年ごろがターゲットになっている模様。まるで、海運業界が1950年代に海洋コンテナを実用化させ、その後の輸送を一変させたように、Clip-Airは空の輸送を一変させる可能性を秘めているのかもしれません。