デザイン界の巨匠、ディーター・ラムスがついにドキュメンタリー映画に

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「Less, but better」のデザインアプローチで、機能性と美しさが融合した幾多の製品を手がけてきたディーター・ラムス。84歳のいまなお活躍し続けるこのデザイン界の巨匠の人生が、ついにドキュメンタリー映画として描かれる。メガホンを取るのは、映画『ヘルベチカ』が高く評価されたゲイリー・ハストウィット監督だ。

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ディーター・ラムスに焦点を当てたモノグラフ(論文)や伝記、基調講演はこれまでにもあった。その機能的で美しいデザインによって家電メーカー・Braun(ブラウン)の名を広く知らしめ、アップルや良品計画といったデザイン重視の企業の可能性を切り開いてきた著名なドイツ人デザイナーだ。

そんなラムスの人生が、ドキュメンタリー映画となる。

メガホンを取るゲイリー・ハストウィット監督は、この映画に適任だ。彼は2007年に大成功したインディーズ映画『ヘルベチカ〜世界を魅了する書体〜』を撮り、その後も『Objectified』(2009)と『Urbanized』(2011)を発表。この2作品とも都市デザインや人間を取り巻くオブジェクトを描くドキュメンタリーであり、作品の展開はスローペースだった。「わたしの映画は、ゆっくりと進行するのです」とハストウィットは言う。「これが気に入っているのです」

だが、そのスローペースには目的がある。デザイナーでない人々にとってわかりにくいテーマについて時間をかけてひも解くことで、毎日当然のように目にするデザインになぜ関心を払うべきかをハストウィットは観客に伝えているのだ。

現在、ハストウィットはラムスのドキュメンタリー映画をつくために「Kickstarter」で資金調達を行っている

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人との交流があまり得意でないことで有名なラムスだが、2008年、彼も出演した『Objectified』の撮影を通してラムスとハストウィットは意気投合した。「ディーターは強い意志のもち主で、オーラがある人物だといわれています。でも実際に会ってみると、まったくその逆でした」とハストウィットは言う。「84歳のドイツ人なので、多少は気難しいところはありますけどね(笑)」

ハストウィットは、ラムスが働くロンドンの街で、そしてフランクフルトのラムスの自宅ですでに撮影を始めている。そしてインタヴューと制作のために、もうあと1年をかけて映画を完成させるつもりだ。

「彼は自身のデザインのなかに住んでいます」とハストウィットは語る。「そこはすべてが極めて秩序だっており、また、控えめな世界です」。それがラムスおなじみのアプローチであると思うのなら、それは彼のデザインのエトスが、すべての世代にまで浸透しているからである。「それこそが、彼とわたしがこのドキュメンタリーを制作したいと考える大きな理由です」とハストウィットは言う。「デザイナーたちが彼の行ったことから学べるものはまだまだたくさんあるのです」

ハストウィット本人も、ラムスのデザインの影響を感じているという。「わたしは(子どものときに)ブラウンの目覚まし時計をもっていましたし、キッチンにはブラウンのミキサーがありました」と彼は言う。「カリフォルニアのサーファー少年であったわたしの人生のなかのこれらのものは、どういうわけかフランクフルトにいたこのドイツ人がつくったものだったのです」

ほとんどの子どもと同じように、いや、子どもだけでなくほとんどの人々と同じように、彼は誰がこれらをデザインしたのかをほとんど考えなかった。ただ単に使いたいと思っただけだった。そうやってラムスのデザインに触れながら育ってきた彼がいま、その創作者のことを撮っているのである。

※『WIRED』VOL.23の連載「Meet the Legend」にて、ディーター・ラムスへのオリジナルインタヴューを掲載。

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