■オフィシャル誌編集長のミラン便り2014〜2015(24)

 土曜日(3月21日)の夜の試合、ミランはカリアリ相手にホームで3−1と勝利を収めた。約1ヵ月半ぶりの勝利にミランはほっと安堵の吐息をついた。今週末は代表戦があるためリーグ戦は小休止。その間の2週間を、インザーギと選手たちはどうにか心穏やかに過ごせそうだ。

 しかしいいことばかりではなかった。ミランの最も過激で熱いサポーター、ウルトラスは伝統的に南ゴール裏――通称クルバ・スッド――に陣取っている(ちなみに反対側の北ゴール裏――クルバ・ノルド――はインテリスタの場所だ)。ダービーなどのビッグマッチでは、このゴール裏で繰り広げられる応援合戦も見ものの一つになる。サポーターたちは毎回趣向を凝らした横断幕などをかかげビジュアル的にもすばらしい。

 ただこの日、ミランの応援をリードしていたのは、クルバ・スッドではなく、その反対側のゴール裏だった。この日はミランが毎年夏に世界各国で行なっているサッカースクール、ミラン・ジュニア・キャンプ・デーとされ、世界中からやってきた400人の子供たちが、選手たちに惜しむことない熱い声援を送っていた。

 しかし子供たちの熱気とは対照的に、熱いサポーターが集うはずのクルバ・スッドは空っぽだった。サポーターのサイト、www.curvasudmilano.itと、今流行りのSNS、#SAVEACMILAN.の呼び掛けで、ウルトラスたちはこの日ストに踏み切ったのである。選手たちを孤立させることで、今のチームの現状と不透明な今後のプロジェクトに対する抗議の気持ちを表明したのだ。

 特にベルルスコーニ(オーナー)の、ミランの未来に対する煮え切らないビジョンには多くのミラニスタが不満を感じている。昨日は「ミランのことは絶対に売らない」と言っていたのに、今日は「中国人に売る」と言い、その翌日には「タイ人に売る」と言う。今後チームがどうなってしまうのか、誰にも予測することができない。

 こうしたいつもとは違った空気の中で、選手たちはよく3ポイントを手に入れたと思う。ヨーロッパリーグ(5位以内)という目標に向けてラストスパートするミランにとって重要なものだ。

 実はゴール裏は空っぽだったが、普段そこに陣取るウルトラスたちの多くは、その両脇で観戦をしていた。しかし彼らはこの勝利にも喜ばなかった。いや、それだけではない、ウルトラスは選手たちにブーイングの雨を降らせた。

 我らが本田圭佑もその攻撃から逃れることはできなかった。後半25分、本田がチェルチと交代する際には、かなり激しいブーイングにさらされた。本田のこの日の出来は決して悪くなかったと思う。いつもと同様に攻守ともに積極的に参加し、チームに貢献していた。ただ本田が逃したボールがカリアリの同点ゴールにつながってしまったシーンがあり、どうやらそれが彼へのブーイングを促してしまったようだ。

 しかしこうしたチームへの抗議が、選手へのブーイングが、一体何の役に立つのだろう? 決してプラス効果にはならないはずだ。ましてシーズン終了まであと10試合となったが、最低限の目標のヨーロッパリーグ出場権まではまだ遠い(現在8位)。こんな時こそ我々サポーターがチームの力になるべきではないだろうか?

 ミランを心から愛する人々にとって、こんな状況のチームを見るのはかなり辛いことである。それはわかる。しかしロッソネロのユニホームをピッチの上で見るたびに、言葉では説明できない熱い気持ちと興奮が、我々を包んでくれるのもまた確かである。心から応援するチームを持っている者だけが感じられる高揚感だ。

 サポーターはその熱い気持ちを決して忘れてはいけない。自分の中にある情熱を解き放ち、ピッチの中の11人の1人になった気持ちになってほしい。時には批判し、議論し、怒りたくなることもあるだろう。その感情は決して間違ってはいない。しかしそれ以上に選手たちを応援して欲しい。それこそが本物のサポーターだと私は思う。

 確かに今のミランはかつてのミランとは違う。それでもミランはミラン。いつでも君たちサポーターの心のチームのはずだ。

ステーファノ・メレガリ(『Forza Milan!』編集長)●文 text by Stefano Melegari  
利根川 晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko