これで民間企業になれるのか

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 ヤマト運輸のクロネコメール便が、3月31日の受付分をもって終了する。

 原因は、「信書」の定義があいまいなこと。手紙などの信書は、日本郵政傘下の日本郵便が独占する。従って、メール便で手紙は送れないのだが、健康保険証、名刺、パスポートなどが、信書かどうかが分からない。

 だから、これまでにメール便の顧客が、郵便法違反容疑で警察の取り調べを受けたり、書類送検されたりするケースがあり、ヤマト運輸は、2015年1月22日、年度末でメール便を廃止することを発表した。

信書の独占を逆手に

 捨て身の問題提起だった。

 山内雅喜・ヤマト運輸社長は、こう訴えた。

「日本郵政グループは、この秋に上場します。本当の意味で民間企業になる。公平公正な環境で競って、結果的に良いサービスが生まれる。そんな環境を作るべきと訴えたかった」(日経ビジネスオンライン1月28日)

 ヤマト運輸といえば、元会長の故・小倉昌男氏が、規制緩和をめぐり、旧運輸省、旧郵政省を相手に、徹底抗戦したことで知られる。そのDNAが受け継がれていることを彷彿とさせる問題提起だった。

 だが、日本郵政グループには、そんな抗議など痛くも痒くもない。逆に、ヤマト運輸をせせら笑うようなサービスの開始を、3月6日に発表した。

 封筒型郵便の新サービス「スマートレター」を、4月3日をメドに始めるという。文庫本2冊入る専用の封筒は送料込で180円。都内の郵便局やコンビニエンスストアでまず販売し、秋までに全国に広げる。

 まさにクロネコメール便の分野への進出である。しかも、「信書の同封が可能」というのが“ウリ”。マスコミのインタビューに応じた日本郵便の物流商品サービス企画部幹部は、「信書が同封でき、送る際に迷わない」と、信書の独占を逆手にとった。

 日本郵政グループは、権益を残したまま上場するが、その最も分かりやすい権益が、信書の独占だった。

 全国20万ヵ所の郵便ポストを開放し、ヤマト運輸の利用者もポストに投函。その仕分け業務のコストをヤマト運輸に支払わせるという形で、利便性を向上させたうえで、「民」と「民」という立場で競うのが筋。ところが、独占にあぐらをかいて上場の果実だけを得ようというのだから虫がいい。

 日本郵政グループは、豪州物流大手を6000億円で買収することを検討、「上場を前に、グルーバル企業として国際競争に挑む準備をしている」(日経新聞・2月18日付)ということだが、グローバルの前提条件を欠いているとしか言い様がない。

伊藤博敏ジャーナリスト。1955年福岡県生まれ。東洋大学文学部哲学科卒業。編集プロダクション勤務を経て、1984年よりフリーに。経済事件などの圧倒的な取材力では定評がある。近著に『黒幕 巨大企業とマスコミがすがった「裏社会の案内人」』(小学館)がある