HTML5の標準を狙うGoogleの動画フォーマット「WebM」のこれまでまとめ
高画質かつ高圧縮の「H.264」がビデオフォーマットの主役の座についていますが、次世代のウェブフォーマットであるHTML5においては、H.264とともに主役として期待されているのがGoogleの開発する「WebM」です。WebMのこれまでの流れと今後の動画標準規格を巡る争いについてまとめてみました。
Google builds WebM patent pool of its own to fight back against MPEG-LA | Ars Technica
http://arstechnica.com/business/2011/04/google-builds-webm-patent-pool-of-its-own-to-fight-back-against-mpeg-la/
http://www.businesswire.com/news/home/20130307006192/en/Google-MPEG-LA-Announce-Agreement-Covering-VP8
WebMは、Googleが次世代のウェブ規格であるHTML5での使用を見据えて開発した、高画質・高圧縮率を実現するウェブ向けの動画コンテナフォーマット。ビデオコーデックにVP8/VP9、音声コーデックにVorbis、メディアコンテナにMatroskaを採用しているWebMは、オープンでかつロイヤリティフリーであるところが大きな特徴です。
現在のウェブサイトではFlashやSilverlightなどのプラグインを使うことで動画を再生することが可能になっていますが、HTML5ではプラグインが不要となり「videoタグ」という新たなタグを使ってウェブブラウザ単体で動画再生が可能となります。プラグインが不要になり動画の再生が容易になるHTML5ですが、ウェブブラウザはビデオコーデックのサポートが必須になるため、どのビデオコーデックが標準規格になるのかは、ウェブ開発者だけでなくネット関連企業全体の大きな注目を集めることになっています。
By David Martyn Hunt
現在、高品質・高圧縮率のフォーマットとして最も普及が進んでいるのはH.264(MPEG-4)ですが、H.264規格にはソニー・東芝・日立・Samsung・Apple・MicrosoftなどのIT企業が保有する特許が含まれるためライセンス料が発生するという問題があります。そのため、FirefoxやOperaなどウェブブラウザはH.264をサポートしていません。
H.264はオンラインの動画配信についてはロイヤリティフリーの方針を打ち出したものの、ハードウェア、OSやアプリなどのソフトウェア開発者にとってH.264の採用によって発生するライセンス料は少なからず負担であり、特にスタートアップ企業にとってはライセンス料は大きな問題となっていました。
このため、HTML5の標準規格になろうとするH.264に待ったをかけたのがGoogleの開発するWebMでした。Googleは、ビデオコーデック「VP8」を開発中のOn2 Technologiesを買収しVP8を採用するコンテナWebMを公開、ロイヤリティフリーで提供する方針を打ち出しました。
By Tsahi Levent-Levi
しかし、HTML5のビデオ標準規格に名乗りを上げたGoogleをH.264陣営が黙って見過ごすはずはなく、H.264の特許関係を管理するMPEG LAは、GoogleのVP8がH.264の特許技術を含んでおりWebMの利用は特許侵害にあたるとして提訴する構えを見せます。WebMを利用する開発者・サービス提供者は、WebM自体の利用についてGoogleから使用料を求められることはありませんが、仮にMPEG LAの主張通りVP8がH.264の特許権を侵害している場合には、WebMを利用することでMPEG LAから訴えられる可能性があるため、かかる潜在的リスクを前にしてWebMを利用する事は躊躇せざるを得ないという状況になりました。
また、すでにハイビジョン動画フォーマットのデファクトスタンダードとしての地位を確立しているH.264があるのに、果たして新たなWebM規格が普及するのかというWebMに対する懐疑的な見解もあり、一気にWebMが普及するということはありませんでした。
そんな中、Googleは2011年にYouTubeに新規アップロードされる動画をすべてWebMフォーマットで変換し、既存の動画についてもWebMフォーマットへと変換していく方針を発表、Google製ウェブブラウザのGoogle ChromeはもちろんH.264をサポートしていないFirefoxやOperaなどの主要ブラウザもWebMの正式サポートを表明しました。WebMの採用を巡って、AppleやMicrosoftなどのH.264陣営と、GoogleのWebM陣営のにらみ合いは続くことになります。
By webtreats
その後、GoogleとMPEG LAは2013年3月に「VP8が抵触するH.264技術特許のライセンスを提供する」という合意が成立し、晴れてWebMの使用によって特許侵害を訴えられるリスクが解消することになりました。こうして特許問題が解決したおかげで、H.264陣営とWebM陣営はHTML5の標準規格を同じ土俵で争うことになったのです。
現在のところ、すでにビデオレコーダーやスマートフォンのムービーなどで圧倒的に支配的な地位を固めているH.264陣営がHTML5のデファクトスタンダードの最有力であると言えそう。しかし、HTML5という舞台での本当の闘いは、H.264・VP8の次の世代の規格であるH.265・VP9になることは容易に想像できます。高画質・高圧縮かつデコードの軽さなどの点でVP9がH.265を圧倒できれば、動画フォーマットがWebM一色になることもあながち夢ではありません。
動画・写真を投稿できる掲示板4chが正式にWebMのサポートを表明するなど、WebMへの対応はようやく本格化する兆しが見える中、次世代の動画フォーマットの標準規格を巡る争いがますますヒートアップしていきそうです。