メディアの矛先は本田圭佑からミランそのものに移った
オフィシャル誌編集長のミラン便り(10)
本田圭佑とミランにとってまたもや苦い1週間が過ぎた。この日曜日、ミランはホームのサン・シーロで連敗を4に更新してしまった(チャンピオンズ・リーグのアトレティコ・マドリ―ド戦も含めて)。奇しくもミランを破ったのは、80,90年代のミランの黄金期に中心選手として活躍したロベルト・ドナドーニ率いるパルマだった。
パルマはキックオフ数分後にして早くもアドバンテージを手に入れる。最後尾のDFだったクリスティアン・アッビアーティがパルマのMFスケロットをペナルティエリア内で倒し、そのまま一発退場。ミランはいきなり10人となってしまい、パルマにはPKが与えられた。このPKを決めたのが、これまたかつてミランの選手だったFWアントニオ・カッサーノだ。
この試合は始まる前からかなり難しいものになると、ある程度予想がついていた。パルマは強い相手だし、何よりミランの熱狂的なサポーター、ウルトラスが集うクルバ・スッド(南ゴール裏)から今の低迷に対する激しい抗議文がチームに対して出されていた。
彼らの怒りの矛先はおもに副会長のアドリアーノ・ガッリアーニとマリオ・バロテッリに向けられていたが、試合前には300人近くのサポーターたちがサン・シーロの外でミランのチームバスを待ち伏せし、非難の声を浴びせた。またウルトラスの幹部たちは、セードルフ監督や数人の選手たちと直接話をする場を設けることも求めていて、実際この試合後スタジアム内の部屋で会談が行なわれた。
こうして不穏な空気の中で始まった試合は、結局2−4でミランの完敗という最低の形で終わってしまった。ミランは1人少ない10人でよく戦い、一度は同点にまで追いついたものの、その後力尽きてパルマに追加点を許してしまった。残念ながらこれが今シーズンのミランだ。幸運の女神に見放され、結果が出せない。
本田もまだ移籍してきて何もできないうちに、ミランのこの不運に一緒に巻き込まれてしまった。パルマ戦でも本田はセードルフに使ってはもらえなかった。この日中国のスポーツ紙から贈られたアジア最優秀選手のプレミアムが唯一の慰めだったろうか。
このコラムでも何度も紹介してきたが、ミラネッロで見かける本田は、一日でも早くレギュラーの座を確固たるものにしようと、日々懸命に練習を頑張っている。監督のセードルフもそんな本田の様子には満足のようだ。セードルフが「セリエAのサッカーとはどんなものであるかを理解するための時間が必要だ」と言っているのはみなさんもよくご存知だろう。今はそれを待つしかない。
本田もそれをよくわかっていて、プロらしく、なんの不平も漏らさず自分の時が来るのを待っている。彼の頭の中にはまずミランを立て直すこと、そしてその先の代表としてのブラジルW杯があるのだろう。
しばらくはメディアの非難の的になっていた本田だが、最近では集中砲火を浴びせられることや、何でもかんでも批判されることは少なくなってきた。なにしろ本田ではなく、チームの方がひどい状態なのだ。メディアの興味は本田を叩くのではなく、ミランを叩くことに移ってきている。ミランの一員である本田にとってはそれもあまりいいことではないが、でも個人攻撃が多少やんだことで、本田はより平静を保って仕事に打ち込むことができるかもしれない。
それに相変わらず日本のファンからは熱狂的な支持を受けている。この日曜にも10番と本田のネーム入りユニホームを着た、わざわざ日本から来たと思われる日本人サポーターを数多くサン・シーロで見かけた。
あと数週間もすれば本田もイタリアに馴染み、ミランも彼をどのように活用したらいいかがわかってくるだろう。本田はイタリアでの飛翔の時を待っている。
ステーファノ・メレガリ(『Forza Milan!』編集長)●文 text by Stefano Melegari
利根川 晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko