増税前の「マイホームかけこみ購入」は吉か凶か

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今夏、都心では大規模マンションの分譲が相次いだ。いずれも坪単価300万円超と安くはないが、売れ行きは好調。400戸を超える住戸が即日完売となった物件もある。

この好況は物件自体の魅力もさることながら、2014年4月からの消費税の引き上げが少なからず影響している。

住宅購入の場合、新税率の適用は引き渡し日で決まる。14年3月末日までの引き渡しなら5%だが、それ以降は8%になる。ただし、13年9月末日までに(請負契約を含む)売買契約を結べば、引き渡し日を問わず5%に据え置かれる経過措置があったことが、夏の需要に結びついたと考えられる。

では、経過措置が切れた現在、増税前に買うのは得策なのか。

まず頭に入れたいのは住宅の消費税額だ。住宅は建物の価格にしか消費税はかからず、仮に建物分が3000万円とすると消費税は現行なら150万円。それが新税率では240万円になり、90万円の負担増となる。加えて、住宅ローンの融資手数料や司法書士報酬などにも3%分が上乗せされるので、確かに影響は小さくはない。

しかし、一方では増税による負担増の緩和策も講じられている。住宅ローン減税の拡大とすまい給付金がそれだ。

住宅ローン減税とは、年末のローン残高の1%が10年間にわたって所得税や住民税から控除される制度だ。対象となるローン借入額は現在、上限2000万円だが、14年4月以降は4000万円まで拡大される。つまり、10年間で最大200万円の控除額が、最大400万円にまで広がるのである。

これにより消費税の増税分が相殺できるばかりか、金銭上は得をするケースも出てくる。たとえば、年収800万円の人が、年収の6倍にあたる4800万円の物件を頭金2割で買ったとして試算すると、消費税による負担増は92万円。対して、ローン減税による還付額は10年間で144万円になり、差し引き52万円を受け取れる。年収1000万円の人が6000万円の物件を買った場合には、消費税分を引いても戻りは115万円と試算できる。増税後に買うと損をするとは、一概に言えないことがおわかりいただけるだろう(みずほ総研エコノミスト大和香織氏試算、フラット35利用者調査から自己資金は6分の1、標準的な土地つき注文住宅をもとに購入価格の建物分は64%と想定)。

もっとも、ローン減税は納税額以上に還付はされないため、所得税や住民税が少ない人にはメリットが薄くなる。そこで設けられたのがすまい給付金だ。これは一定の条件を満たせば10万〜30万円が給付される。対象は年収約510万円以下(実際は都道府県民税の所得割額で判定)に限られるが、増税の負担感は多少なりとも軽減されるだろう。ちなみに、すまい給付金は50歳以上の人が現金で購入した場合も利用できる。リタイア後に退職金を加えて家を買うようなケースにも有効だ。

どちらの支援策でも恩恵を受けにくいのは、年収500万〜600万円の中間層だ。先ほどの試算でみると、500万円では28万円、600万円は11万円の持ち出しとなった。

とはいえ、慌てて買うのは考えものだ。14年3月末までの引き渡しという条件がつくと、物件の選択肢が狭まるからである。増税を避けるために妥協した結果、通勤も生活も不満だらけ。入居後の値下がり幅も大きく、売却価格がローン残高を下回って売るに売れない――。自分や家族の安心と幸せのために買った家がそんな事態になったら、まさに悲劇ではないか。

入り口、つまり購入時のお金は惜しむのに、出口のお金には無頓着というのは日本人に多い金銭感覚だ。消費税にとらわれず、資産価値まで考慮した納得のいく住まいを探す。結局、これが1番得なのである。

(東京カンテイ市場調査部上席主任研究員 中山登志朗 構成=上島寿子)