新魔球の正体を追え!

みなさんはSTFというプロレス技をご存知でしょうか。エーコラーでおなじみの蝶野正洋さんが得意とした技で、うつぶせの相手の片足を自分の両足で挟み上げるように極め、同時に顔をフェイスロックで締め上げるという技です。蝶野さんはこの技で多くのビッグマッチを制し、フィニッシュ・ホールドへと昇華させました。

さて「S」「T」「F」とは何であるか。最終的に僕は「ステップオーバー・トゥホールド・ウィズ・フェイスロック」という形で理解しています。確かにステップオーバーして、相手のトゥを極め、フェイスロックをしているのですから納得の略称です。

しかし、この技が広まり始めた頃、僕は別の一派と遭遇していました。彼らはこの技を「スピニング・トゥホールド・ウィズ・フェイスロック」と呼んだのです。スピニング・トゥホールドは文字通り、回転しながら相手の足を極める技。これを得意としたドリー・ファンク・ジュニア、あるいはテリー・ファンクは仰向けの相手の片足のひざ裏に自分の片足を差し込み、相手のつま先を持って足を折りたたむように極めていました。そのときに自分の身体を回転させることで、極めるチカラを高めていたのでそれが「Spinning」なワケです。

と、このように技の原理からすると、STFはスピニング・トゥーホールドとはまったく無縁のものであり、スピニング派は誤りであることがハッキリします。僕はこの結論を出すのに、一年近くもの時間を要しました(※当時のプロレス仲間が一年くらいずっと「スピニング〜」と言っていたの意)。

そんな僕の前につきつけられた新たな課題。それが「SFF」。

この球のことを何と呼ぶべきか、どうやら世間には「スプリット」派と、「スピリット」派がいるようなのです。両者は別物なのか、あるいは片方が間違いなのか、SFFを巡る激しいバトル。僕はその決着に乗り出す者なのです…!

ということで、スピリット派の急先鋒・野村弘樹解説者のコメントについて、まずは3日のフジテレビ「すぽると!」、TBS「サンデーモーニング」からチェックしていきましょう。


◆もし「スピリット」という球種があるなら、学ばなくては!

まずこの議論を始めるにあたり、「SFF」という球種についてスプリット派の解釈を復習しておきましょう。スプリット派は、このSFFという球種を「スプリット・フィンガー・ファストボール」というモノとして理解しています。スプリットは開く・離れるといった意味。つまり「開いた指で投げる速球」という名称です。

この球種は日本では桑田真澄さんあたりが言い始めだと思いますが、要は握りを浅くしたフォークボールです。フォークより落ち幅は少ない代わりに、ストレートに近いスピードが出ることから、真っ直ぐと思って振りにいった打者が空振りしてしまうわけです。

田中将大がシーズン24連勝という大記録を打ち立てたのも、上原浩治がワールドシリーズを制したのも、このスプリットがあればこそ。高速で落ちるボール、しかもそれが右打者の内角にシュート気味にえぐって来たりするのですから、これは厄介。現代野球の魔球と言えるボールです。

しかし、このボールは本当にスプリット・フィンガー・ファストボールなのでしょうか?

東北楽天ゴールデンイーグルス日本一の歓喜に沸く、11月3日の仙台特設スタジオ。そこに野村弘樹氏はいました。スピリット派の論客であり、スピリット派の急先鋒であり、スピリット派の理論派である野村氏。彼は主張します。田中将大らが投げるボールはスプリットではない。「スピリット」である、と。はたして「SFF」の真実はどこにあるのでしょうか?

↓野村氏はスタジオに駆けつけた田中将大に日本一のスピリットについてズバリ切り込んだ!
野村:「最後のボール、スピリットでしたけれども、ストレートではなくスピリット。迷いはなかったですか?」

田中:「あー、迷いは全然なかったですし、今日は真っ直ぐが思うように投げられてなかったので、自分の自信のある球で最後抑えようという気持ちでした」

マー様:「スプリット?スピリット?」
マー様:「迷いは全然ない…こともない…こともないが…」
マー様:「自分の自信のあるソレを投げたということで…」

ここから確かに言えることは「スプリット」にせよ「スピリット」にせよ、それはストレートではないということ!

すこし・ふしぎな・ボール!


↓野村氏はスタジオに駆けつけた嶋捕手にもスピリット談義を仕掛けた!


野村:「そして最後の球、僕はフォークでいくのか、スピリットでいくのか、ストレートでいくのか見てたんですけれども、田中投手は迷いなくスピリットだったと言ってましたけれども、嶋選手は当然そこは迷いなく」
嶋:「いや、巨人さんのリーグ優勝を決めた映像を見ていて、みんなストレート狙いできていたんで、あそこは確実にアウトにしなきゃいけない場面なので、迷わずスPIUリットを選びました」

ここから導き出せることは「スプリット」にせよ「スピリット」にせよ、それはフォークやストレートではないということ!

そして、嶋捕手は先輩にとっさの気遣いができる男であるということ!


↓野村氏のスピリット談義を受けて世間のスプリット派は騒然とした!








スプリット派よ待て!

あれは本当にスプリットなのか!?

スピリットではないのか!?


どうやら、マー様が最後に投げたボール、あれをして野村氏は「スピリット」であるとしているようです。多くのスプリット派は同じボールを見て「これこそスプリットだ」と思っているはずですが、ここにプロ視点からの別意見が提示されたわけです。球種というのはとかく見分けがつきにくいものですから、スプリット派も今一度襟を正して、再検討すべきところでしょう。

↓このボールがスプリットあるいはスピリットであることだけは確かです!


142キロのスピードで急激に落ち、打者の空振りを誘っている!

中継の字幕はスプリットだが、はたしてスプリットなのかスピリットなのか!


スプリットの原理は先にあげた通りですが、映像と野村氏のコメントからすると、どうやら「スピリット」もほぼ同様の変化をするボールである模様。どちらも高速フォークの一種のようですね。

もしや、これは同じようなボールにふたつ以上の呼び名があるケースではないでしょうか。こうした事例は「高速スライダー」にもよく見られます。たとえば俗に言うカットボール。こちらリリース時にボールを切るように投げることから、その名がついたボールですが、これもまた見分けづらいボール。

カットボールの変化は、ストレートに近い球速・軌道から右打者のアウトコース方向へ鋭く小さく曲がる、あるいは落ちるというもの。ストレートに近い軌道から変化することにより、日本では「真っスラ」と呼ぶケースも見られ、米国でも「カッター」「カット・ファストボール」などの複数の呼び名が存在しています。

同じボールでも複数の呼び名があり、実は世界では「スピリット」も普通に通用しているよ、ということであれば今回は一件落着です。スプリット派とスピリット派がガッチリ握手をして和合できるはず。スピリットはおそらく英語ですので、英語圏のウィキペディアをチェックするとよさそうですね。

↓さっそく英語圏のウィキペディアで「Split-finger fastball」と「Spirit、ball」を調べてみたぞ!
<ウィキペディア「Split-finger fastball」の項目より>
A split-finger fastball or splitter is a pitch in baseball. It is named after the technique of putting the index and middle finger on different sides of the ball, or "splitting" them. When thrown hard, it appears to be a fastball to the batter, but suddenly "drops off the table" towards home plate — that is, it suddenly moves down, towards the batter's knees.[1] It is used as an off-speed pitch.

http://en.wikipedia.org/wiki/Split-finger_fastball

<ウィキペディア「Spirit、ball」に類する項目>
存在せず

スピットボールは載ってるんだけどなぁ!

スピリットボールはちょっとなさそうです!

すわ、これは日本オリジナルの魔球か!?


まずこの調査から、「スプリット」と「スピリット」が同じ球種の別称であるという説はなさそうです。スプリットについて「Splitter」などとする別称は確認できましたが、「スピリット」とも呼ぶとする記述は見つけられませんでした。これは両派和合に暗雲が漂ってきました。

しかし、まだ可能性は残されています。発音の問題であるという説です。有名なミハエル・シューマッハというF1ドライバーがいます。彼はドイツ人なので、日本でもドイツ読みに準じた「ミハエル」が定着していますが、「Michael Schumacher」と書くことから英語圏では「マイケル」とする派閥が勢力を保っています。いや、むしろ本人の意向もあり、世界では「マイケル」が主流でさえあるのです。

ならば、これはMLBの動画を見て、現地アナの実況を確認する必要があるでしょう。上原浩治さんのスプリットと思しき球が、実は実況では「スピリット」あるいは「スピリッター」と呼ばれているかもしれませんからね。その場合は、見事一件落着です。

↓しかし、英語圏でも実況は「スプリッター」と言っているように聞こえる!(動画の5分20秒頃)


スプリットがスプリッターはあり得る変化なのだが!

さすがにスピリッターとは言っていない気がする!

すわ、これは日本オリジナルの魔球か!?


これらの調査から「スプリット」と「スピリット」は別種の変化球であると考えざるを得ないようです。「Spirit Ball」と言うくらいですから、ボールの変化には何らかの魂的要素が影響しているはずです。魂がボールに乗っかることで、その重み的なものが自由落下を超える下方向への加速度をもたらしウンチャラカンチャラ後方へボールを引きずる複数の白い手がムニャムニャウニャウニャみたいな話として、スピリット派はあの魔球を定義しているのではないでしょうか。

嶋捕手もスピリット談義においては、かなりスピリット派寄りの発言(発音)をしていました。プロの間にも、一定数のスピリット派が存在していることは間違いありません。今後は、ボールの変化について、魂部分の解明に取り組んでもらい、魂がどのように影響して落ちているボールなのかも世間に広めてほしいもの。マグヌス効果だの流体力学だのは無関係に、魂次第であの鋭い落差が得られるなら、僕ももう一度プロを目指してみたいですからね。

↓ちなみに、元楽天・中日の山崎武司さんも「スピリット派」です!


山崎:「上原クン、僕もジャイアンツ時代に何回も対戦しましたけど、真っ直ぐ・フォークで抑えちゃうんですよね」
山崎:「スピリットですか、今流行りの」
山崎:「彼はそのスピリットを2球種持ってて」
山崎:「ストライク取れるスピリット、そして三振取りにいくスピリット、持ってて」
山崎:「今年こんな好結果になったんですね」

スピリットも今流行ってるのか!

しかもスピリットにも何種類もあるのか!

気分が沈んでいると落差が大きく、ひねくれ者だとよく曲がるみたいな話かな!


僕も早くスピリットの使い手になり、メジャーに行きたいです!