現地時間で17日現在、アメリカンリーグ東部地区の最下位に沈むボストン・レッドソックス。首位を走るニューヨーク・ヤンキースとのゲーム差は17もあり、ケビン・ユーキリスジョシュ・ベケットエイドリアン・ゴンザレスといった主力選手も他球団に放出してしまった。

 そんな中でも気を吐いている選手の一人が、中継投手の田澤純一だ。
 今季中盤までは契約上、メジャーとマイナーリーグの行き来が多かったが、主力選手の移籍とともにメジャーに昇格。17日現在、30試合に登板。37回2/3を投げ、0勝1敗1セーブながら防御率1.43と高い安定感を見せている。

 田澤は2008年12月、レッドソックスと、3年総額400万ドル(当時のレートで3億8,000万円)で契約した。
 わが国のプロ野球を経ずにメジャー球団と契約したアマチュア選手としては、マック鈴木多田野数人に続き3人目だが、田澤が獲得したのはメジャー契約。田澤は、わが国球界を経ずにメジャー契約を手にした初の日本人アマチュア選手になった。

 そんな田澤のレッドソックス入団を巡り、わが国の球界が揺れたことは、記憶に新しい。田澤はアマチュア時代の2008年9月、メジャーリーグ挑戦の意思を表明すると同時に、12球団あてに、ドラフト指名を見送るよう求める文書を送付した。
 ドラフト会議での1位指名が確実視されていたアマチュア選手が、事前に12球団に指名を見送るよう通知したのも、これが初めて。日米間にはそれまで、互いの国のドラフト候補選手とは交渉しないという紳士協定があった。
 そんな中での田澤のメジャー挑戦に、球界は騒然。田澤ははたして、憲法で保障されている職業選択の自由から、例外的に渡米が認められたが、日米間のアマチュア選手の獲得に一石を投じた。中には「帰国後のドラフト指名を、一定期間凍結する」といった暴論や、「アマチュア選手がメジャーで通用するはずがない」とのにわか評論家の声も挙がった。

 一連の「田澤騒動」から4年。将来を期待された金の卵が、ようやく孵化しかけている。
 4年という歳月は決して短くはなかったが、レッドソックスは契約当初から、田澤を長い目で育成する方針だった。
 
 田澤の成長を受け、メジャー球団はこれまで以上に、わが国の球界に触手を伸ばすのではなかろうか
 代理人の活躍で、メジャーではアマチュア選手でも契約金が高騰している。また、アマチュア時代に複数のスポーツを経験するアメリカでは、メジャーはアマチュア選手の獲得を巡り、他のプロスポーツと争わなくてはならない
 日本球界ではここ数年間、スター選手のメジャーへの流出が止まらないが、プロを経験した選手は、実績はあるものの、勤続疲労のリスクも伴う。
 それならば、メジャーが、日本の若いアマチュア選手を安く獲得し、数年間マイナーで育てる方が効率的だと思うのは、ごく自然なことだ。

 わが国のアマチュア選手も、メジャー挑戦を選択肢の1つにしている。
 現在埼玉西武ライオンズで活躍している菊池雄星はアマチュア時代、日本球界か、メジャー挑戦か、最後まで悩んだ。
 今年のドラフト会議の目玉選手の一人である、花巻東高等学校大谷翔平投手も先日、プロ志望届の提出を表明したが、日米の球界のどちらを希望するかについては、「まだ五分五分」と、揺れる心境を告白した。

 金の卵を奪われないために、わが国の球界には対策が急務だ。田澤騒動の際に挙がった、ドラフト会議での指名を一定期間凍結するような暴論は論外だが、アマチュア選手を惹きつける改革が、わが国球界に求められる。

 「田澤のケースは例外。日本人のアマチュア選手が、そんな簡単にメジャーで通用するはずがない」との声が挙がるかもしれない。 
 だが、そんな風にしてあぐらをかいていた中、突如冷水をかけられたのが、2008年の田澤騒動だ。事が起こってからではもう、遅いのだ。