『すごい文房具エクストラ』(KKベストセラーズ)
2012年4月27日発売。表紙には「あなたの知らないところで、文房具はもっと進化していた!」というキャッチフレーズが踊る。シリーズ第3弾になってもまだまだ話題は尽きない。文房具好きは今回も必読です!

写真拡大

三菱鉛筆の水性マーカー「ポスカ」というと、学校の発表やPOPを書いたりするのに使うものという印象がある。このように日本での一般的なイメージは文房具の域を出ないポスカだが、海外ではグラフィティライターが使う画材としてとらえられているという。

《インクを詰め替えたり、色を混ぜられたり、色やペン先のバリエーションも豊富。日本でもイージーな画材として手にするアーティストが結構いて、ペン先をなめしたり、墨汁みたいなものを混ぜてドリップするように改造してりする人もいます》

そう語るのは、ライブペインターとしてクラブなどで即興的に作品を描いている山尾光平だ。先頃刊行された『すごい文房具エクストラ』には、山尾の談話とともにその作品もいくつか掲載されているのだが、ポスカでここまで描けるのか! と驚かされる。

今回の『エクストラ』で3冊目となる『すごい文房具』シリーズは毎回、このような意外な文房具の使い方をはじめ、さまざまな切り口から文房具の世界へといざなう。ちなみに第1弾の『すごい文房具』、第2弾の『すごい文房具リターンズ』の刊行はそれぞれ一昨年と昨年の秋だったが(リンク先に示したとおり、いずれもエキレビ!で紹介済み)、今回は前作から1年も置かず春の刊行と、書店で見つけて不意打ちを食らった。

「春のペンまつり2012」「このノート100冊がすごい!」「BunBum 文房具使いこなしコーデ」などといったタイトルが並ぶパロディ精神、それも単なる言葉遊びには終わらずいちいち本気なので、毎度のことながらうならせる。とりわけ、本シリーズ常連である文具評論家&作家の古川耕と編集部がセレクトした「このノート100冊がすごい!」のページには、ずらりとノートの表紙が並び壮観だ。

この企画では、「正統派ノート」「特殊罫線ノート」「単機能ノート」「デジタル共存ノート」「高級ノート」「特殊ノート・その他のノート」に分類のうえトータルで100冊のノートが紹介されている。さらにそのまとめとして、前出の古川と他故壁氏(たこ・かべうじ。会社員&文房具トークユニット「ブングジャム」のブンボーグA)による「現代ノートの傾向と対策」と題する対談が掲載されている。その冒頭ではまず「総論」が語られていて、ざっくりと要約するとこんな感じ。

・対談冒頭の「総論」では、ここ数年でノートの種類は爆発的に増えた。古川はこれを“ノートビッグバン”と呼び、源泉のひとつとして2008年の『東大合格生のノートはかならず美しい』の発刊をあげる。同書およびコクヨS&Tとのコラボ商品のヒット以降、各社から新製品が大量に投入され、一気に供給過多になったという。
・さらに近年の傾向として、世の中全体で書類がA判で統一されつつあるのにともないノートも“A判化”が進んでいることや、“嗜好品化”“ファッションアイテム化”があげられる。
・特定の種類のペンに適した紙を用いたノートが現れるなど、高性能ボールペンのブームに牽引されるように、ノート界も活性化してきたという見立ても興味深い。

対談ではさらに、各カテゴリーでの傾向が語られている。たとえば「正統派」の代表格であるコクヨの「Campusノート」は昨年10月にリニューアル、1975年発売の初代から数えて5代目が発売されたものの、このカテゴリー全体での動きは比較的おとなしいという。あるいは、罫線の配置や種類に工夫をほどこした「特殊罫線ノート」のカテゴリは、前出の『東大合格生の〜』のヒットにより一大ジャンルとなった。ただし、この手の商品は、どれも普通のノートに自分で工夫すればいいものばかりで、考えた人は頭いいかもしれないけど、買った人はべつに頭よくならないんじゃないか……といったミもフタもない指摘も。この「特殊罫線ノート」ブームの流れはさらに先鋭化し、さまざまな用途に特化した「単機能ノート」群を生むことになる。朝日新聞社の「天声人語書き写しノート」や、これに対抗して読売新聞社が発売した「読売新聞編集手帳ノート」などはその代表格だ。

「デジタル共存ノート」は、スマホなどのデジタルツールとの連動を打ち出したもので、非紙メーカーであるキングジムの「ショットノート」がその草分け的存在。紙メーカーも続々と参入してはいるものの、現実にはデジタル機器の進化にアプリを対応させ続けるだけの体力がないと新規参入はなかなか難しいようだ。同じく現在のノートシーンでもっとも激しい動きを見せている「高級ノート」のカテゴリーでは、目下「モレスキン」のブームが最大の潮流となっている。

……と、おおまかな傾向としては上記のような感じなのだが、各カテゴリーで選ばれた商品のなかには、ちょっと毛色の変わったものもちらほら。たとえば「特殊罫線ノート」のひとつとして紹介されている「まっすぐノート」。この商品名は多分に反語的なニュアンスを含む。というのも、このノートの罫線は斜めに引かれているから。たしかに文字を斜めに書いちゃう人っているけど――ほかならぬわたしもそう書きがち――、選者のコメントにあるように、マジなのかネタなのか、発売元がツバメノート(65年前の創業以来、かの「大学ノート」を販売し続ける由緒正しい会社)だけに受け取り方に困る。

珍品といえば、「単機能ノート」のうち「受験勉強専用ノート」というのもそうとうだ。紙には「もっとも集中力が持続する色彩」としてイエローグリーンのものを採用、さらに表紙の裏には、脳の活性化を促すレモンの香りが仕込まれている。うん、これなら志望校突破も間違いなしだね!?

同カテゴリーでちょっと食指が動いたのは、これまたコクヨが販売している「リサーチラボノート」。公式サイトによれば、《ページの抜き差しが視覚的に分かりやすくなる「改ざん防止パターン」がノートの側面に印刷》されるなどといった工夫がほどこされているんだとか。しかも耐薬品・耐水性。よくわかんないけど、すごい。まあ実際にわたしが買っても、持て余してしまうに違いないのだが。

持て余すということなら「高級ノート」もきっと同じだろう。だって、イタリア・モレスキン社の“伝説的ノートブック”とされる「ルールド ラージ」は本誌によれば2730円、ドイツの世界的製紙メーカー・グムンドの「GMUND ノートブック プレーン 無地」にいたっては3600円というお値段なんですぜ。ノートの用途のほとんどがメモ書きというわたしには、やっぱりもったいない。……いや、そんな固定観念など捨て去ったほうがよいのかもしれない。対談での他故の次の発言を読んで、そう思った。

《私、そういう自分じゃ怖くて使えないノートは、5歳の息子にあげちゃうんです。で、息子が適当に使うのを見て、「自由だ!」と感動する(笑)。そうやって活かさないと無意味ですからね》

『すごい文房具エクストラ』ではこのほか、「懐かしの学童文房具」という特集が組まれ、サンエックスからかつて発売されていた文房具シリーズ「エスパークス」シリーズがとりあげられている。ノートやカンペンのあらゆるところにマンガやミニゲームが描きこまれ、男子小学生たちの人気を集めたこのシリーズは、スーパーファミコンのソフトや「コロコロコミック」でのマンガ連載などメディアミックスも展開された。だがPTAの横槍により持ち込みを禁止する学校が増えるなどしたため、最終的にシリーズ終了に追いこまれてしまう。発売期間は1989年から95年だというので、世代的にわたしは知らなかったのだが、きっとある年代には懐かしいはず。

それにしても、いくら文房具の世界が奥深いとはいえ、シリーズも3冊目ともなればさすがにマンネリになるんじゃ……と一瞬思ったのだが、実際に読んでみるとまったくの杞憂であった。毎回毎回、新しいネタを探し出してくるスタッフには頭が下がる。

「仮面ライダーオーズ/OOO」のヒロイン役などでおなじみの高田里穂クンのグラビア(セーラー服姿がまぶしい!)が載っているというのも、このシリーズでは新たな趣向であった。ただ、パロディ精神にあふれる本誌なんだから、このグラビアでも月並みなキャッチフレーズではなく、もっとアイドルアイドルしたポエムが入っていたら面白かったのになー(里穂クン自身、趣味は詩を書くことだというし)、とふと思ったりしました。(近藤正高)