『酒のほそ道 宗達直伝・呑兵衛レシピ100選』(ラズウェル細木/日本文芸社)
「のせるだけ」「切るだけ」「焼くだけ」「あぶるだけ」といった簡単レシピからシチュエーションに合わせたおつまみまで。晩酌が楽しみでしかたがない酒肴レシピ集!

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「うまい“酒”を引き立たせるために“つまみ”がいるのか。
 おいしい“つまみ”を深く味わうために“酒”がいるのか。」

私ごとでなんなのだが、以前知人とこんなことで晩酌時に口論をしたことがある。我ながらくっだらないなぁと思うけど、食い道楽な自分は絶対につまみ・肴が第一優先なのだ。だから、「この酒とマリアージュするのはぁ」みたいな『神の雫』ごっこみたいなのはまっぴらごめんな訳ですよ。なのに世の中、酒にあわせるツマミ&ごはんの紹介の方がなんだか幅を利かせてやいないか? いや、もちろんお酒も大好きだよ。毎晩飲んでるよ。でも、主従が私的に逆なのだ。
そんな「つまみ派」な酒好きの私にぴったりのレシピ本を発見してしまった。しかもあのラズウェル細木監修、『酒のほそ道』シリーズとして。『酒のほそ道 宗達直伝・呑兵衛レシピ100選』。これは期待せざるをえない!

一応、宗達って何? という方のために説明しておくと、グルメ漫画の第一人者・ラズウェル細木の呑兵衛道楽漫画『酒のほそ道』の主人公が岩間宗達。仕事帰りの一杯が何よりも楽しみな宗達が、会社の同僚や友達と、そして時には一人で四季折々の酒と肴をタップリじっくり楽しむ作品だ。そんな宗達が作中で舌鼓を打っていたツマミや酒の肴、〆の逸品の数々を、ラズウェル細木のあのイラストで解説してくれているのが『宗達直伝 呑兵衛レシピ100選』だ。
実はこの本、2009年に刊行された『酒のほそ道 おつまみレシピ』を再編集したもの。レシピも被っているので前作を持っている人は不要かもしれないのでご注意を。でも、前作よりも様々な点で工夫が施されているので、むしろ今回が「決定版」と言っていいと思います。その一番の変更点が、各レシピに「この料理と合わせたい酒はコレ!」という風に“料理からのお酒検索”がよりわかりやすく、大きくデザインされた点。「おいしいツマミを深く味わうために酒が欲しい」、まさに私のために編集されているのです。ありがとう!

例えば、試しに作ってみた「里芋磯辺焼き」なら<ビール/白ワイン/熱燗/焼酎お湯割り>、「グリル豆腐」は<ビール/熱燗/焼酎お湯割り>、「みょうが味噌焼き」なら<どんな酒にも合う!>といった感じ。冷蔵庫を物色しながら、今日はどの酒を買ってこようかなぁなんて思いを馳せるのもよし。居酒屋で似たようなツマミを見つけたら「このツマミ頼むんならこの酒も頼もう」なんてしたり顔で語りだすことも出来てしまう。
そしてレシピ本として特徴的なのが、「作り方がざっくりしている」という点だ。ほとんどのレシピにおいて、調味料は<適量>表記。だから作ってみた「みょうが味噌焼き」なんかしょっぱすぎて酒が進むことすすむこと。でも、このユルさこそが<酒を飲むのに堅苦しさは不要。好きな材料、好きな分量で、好きな味に仕上げればいいのだ>というラズウェル細木師匠の教えだと思うのです。

ラズウェル細木作品の魅力は、対象への愛情が並々ならぬ深さと熱さであるにもかかわらず、それが決して押し付けがましくないところだ。毎回ウナギだけを題材にする『う』にしても、あれだけウナギ愛に溢れる主人公がひたすらウナギを追い求めるだけの話なのに決してくどくなく、知らぬ間にウナギが食べたくなっている不思議。同様に『酒のほそ道』にしても、毎度毎度の酒や肴のウンチクはむしろ頭に残らずに(それはそれで、なんか読み手として申し訳ないけど)、知らぬ間に酒が飲みたくなるのだ。
そんなラズウェル細木愛読者にこそオススメしたいレシピ本であり、「うまい“酒”を引き立たせるために“つまみ”が欲しい」というお酒優先派にも役立つ一冊だ。

ラズウェル細木や『酒のほそ道』をよく知らない……という方もちょっと待って! 本書には各レシピの合間に、箸休め的に『酒のほそ道』セレクションと題して5つのエピソードが収められてるので、ラズウェル細木入門書としてもピッタリだと思いますよ。

あ、言い忘れてた。『酒のほそ道』手塚治虫文化賞短編賞受賞、おめでとうございます!
(オグマナオト)