さらに、試合前からチームメイトに色々といじられるなど、底抜けの明るさをロイ・スミスは持っている。「一度コスタリカから海外でプレーすることが自分の新しいチャンスになると思った。日本のサッカーはスピード感があるが、そこはしっかり対応していきたいし、ピッチの中でも外でも楽しんでチャレンジしていきたい。最終的には個人どうこうよりもチームで戦えるようにしていきたい」と陽気な笑顔をたたえて話す様は天真爛漫そのもの。指揮官が課題として指摘する「細かいチャレンジ&カバー」さえマスターできれば、彼自身の性格は日本に順応できるものを十二分に有しているといってよいだろう。

■「物静かな仕事人」ケニー・クニンガム

と、ここまでで普通であれば「鳥取コスタリカコンビ」レポートは終了なのだが、今回、鳥取のクラブスタッフは嬉しいサプライズを用意してくれた。2次キャンプ地の淡路島へ移動するわずかの時間を割き、FWケニー・クニンガムへの単独インタビューを許してくれたのである。

12月23日に開催されたベネズエラ代表との親善試合にも右サイドハーフとしてフル出場したバリバリのフル代表経験者。吉澤監督も「持ち味の個の突破で得点を取ってほしい」とフィニッシャーとして大きな期待を寄せる男の実像とは?心臓の鼓動が高まる中、彼は颯爽と現れた。

「新しい文化を学びたかったし、海外でプレーしたい想いから鳥取への移籍を決意した」と日本へやってきたきっかけから話し始めたケニー・クニンガム。その口調は「コミュニケーション取るには同じ国から来たから助かっているけど、チームメイトの1人」と自身が評した同僚のロイ・ホワイトとは対照的に、山岳地にある首都サンホセ育ちらしい落ち着いたものであった。

加えて「コスタリカよりも寒さは感じるが鳥取ので多かった雪も他の国で見ていたものだし、代表のコーチをしているワンチョペからは日本の物価が高いことなどは多少電話で聞いていたが、サッカーはどこに行ってもサッカーなので問題はない。勝つためには点を取ることは必要だし、どこの国でも外国人選手が注目されることもわかっている。点を取ることが自分の仕事だとは感じているので、チームの中でそれができることを考えたい」と最後まで自信の面持ちを筆者に向け続けたケニー・クニンガム。コスタリカにもあるという温泉好きを満面の笑顔で「アイ!」とカミングアウトした以外は、格好を崩すことすらなかったのである。

その後、2月29日にウェールズ代表とアウェイの親善試合に臨むコスタリカ代表に選出されたため、3月4日の開幕戦・岐阜とのアウェイ戦までその全貌はベールに包まれたままとなった彼であるが、その威圧感は十分大物ぶりを漂わせるもの。昨シーズン終盤だけでなく、30分4本計2対4(0-0、1-3、1-1、0-0)で敗れた讃岐戦でも多く見られた「攻守で策に溺れて本質である得点を最優先できない」チームの問題点を一気に打開するためにも、ケニー・クニンガムの「仕事人」ぶりが待たれるところである。

■待たれる「コスタリカコンビ」本領発揮の日

ただし、プロは結果が全て。特に外国人は影響力の即効性をチーム内で求められるものだ。では贔屓目なしに彼ら2人に成功の可能性はどの程度あるのだろうか?最後はJFL・HondaFCで11年間現役生活を過ごす中で、DFサンドロ(FC東京→大分)、FW呂比須ワグナー(名古屋→FC東京→福岡。現:G大阪ヘッドコーチ)、FWマルクス(新潟→川崎F)など後にJリーグで大成功を収めた外国人と多く接してきた吉澤監督の評で締めたい。

「2人には人間的にうまくなろうという想い、力を尽くす、そして勤勉な姿勢がある。これはこれまで僕が見てきた外国人も含め、日本で成功するための資質です。そうすると、我々も受け入れるにあたって全くストレスを感じないんですよ。ここはトレーニングで変えられない部分ですかから、期待していいと思います」。

実際、2人にかかる期待は鳥取の浮沈にそのままかかわるもの。シーズン前には勇伏の時を過ごした「コスタリカコンビ」がその本領を発揮する日がやってきたとき。それは鳥取の歴史にとっても大きな転換点となるはずだ。

■著者プロフィール
寺下友徳
1971年、福井県生まれの東京都東村山市育ち。学生・社会人時代共に暗中模索の人生を経験した末、2004年にフリーライターに。さらに2007年からは愛媛県松山市へと居を移し、「週刊サッカーダイジェスト」、「中学サッカー小僧」、「スポーツナビ」、「高校野球情報.com」、「ホームラン」、「野球小僧」など様々な媒体に四国のスポーツ情報を発信している。