優しい味わいの料理に心が癒される。

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メール全盛の昨今。メールアドレスを知っている旧友とは、ちょっとパソコンや携帯電話をいじってメールを送れば、連絡を取り合える。だが、筆者はなぜか、無性に手紙が書きたくなった。手書きの手紙は、メールよりも温もりや優しさを込めやすく、書いた本人もどこか心癒される。そんな手紙を、無性に書きたい(心が疲れてるのかしら……)。

などと思っていた矢先、筆者の地元・鎌倉に「手紙カフェ」なる店があることを妻が教えてくれた。なんでも、落ち着いた古民家で、ゆったりと手紙が書けるらしい。うわあ、行ってみたい。行って手紙を書いて癒されたい。さっそく筆者、妻子を連れて「手紙カフェ」を訪ねてみることにした。

店の前まで行くと、男性が話しかけてきてくれた。「お食事ですか?」とは、「手紙カフェ」が入る「藤源治ラボ」オーナーの中村拓也さん。「あ、えっと。手紙カフェを利用させていただければと思いまして……」と話す筆者に、中村さんは「すみません。手紙カフェは今やってないんです」。

聞けば、「手紙カフェ」は今年の8月に終了したとのこと。当初の目的が果たせず残念ではあったが、ちょうどお昼時。子供も空腹を訴えていたので、「あの、食事はできるんですか?」と確認してみたところ、「はい。土日限定のカフェを営業しています」と中村さん。

「すご〜い! 土日限定のカフェだって!」と、限定物に弱い典型的日本人である妻は大喜びであった。いや……。限定物に弱いのは、筆者も同じです……。「手紙カフェ」の目的を早くも忘れ、心ウキウキで店内へ。

店の外観は普通の一軒家だが、中に入ると、まさに古民家であった。古いオルガンやミシン。ちゃぶ台。昔ながらの電灯。中村さんのお母様が集めていたという、古い本や雑誌。昭和20年代、30年代といった風情だが、その時代を知らない筆者にとっては、まさに異空間。だけれども、なぜか、心落ち着く懐かしさが感じられる。

この家は元々、中村さんのご実家とのこと。その一階を、お店として利用しているという。今は、土日だけ、中村さんの知人であるシェフに場所を提供する形で営業している。月のうち二回の土日、計四回営業しているのが、今回紹介する「マイテキッチン」だ。

筆者と妻はランチメニューを、3歳になる娘は「こどもサンド」というメニューを注文。そうして出てきたのは……。ワンプレートにセンス良く盛られた、見た目に美しい料理だった。そして、食べてみると……。

ニンジンのスープは、深く優しく甘い香りが漂い、飲むとお腹の中から温かくなる。新鮮な鎌倉野菜に旬の柿も取り入れたサラダもまた素晴らしい。キッシュの中には、なんと玄米の炊き込みご飯が入っていて、実にボリュームがある。そして、特筆すべきは、天然酵母のパン。持つとズッシリ重く、噛み応えはモチモチ。そしてほのかな甘さが口いっぱいに広がる。実に美味しい。このパンで、ハム、チーズ、野菜を挟んだ「こどもサンド」も娘に少しもらったが、こちらも非常に美味しかった。

シェフの奥田陽子さんは、“ビストロブーム”“カフェブーム”のパイオニアとして知られるパトリス・ジュリアンさんの経営するレストランで修行を積んだという。その後、鎌倉に移り住んでからも、パトリスさんのアシスタントをしたり、料理教室やワイン教室などで自作の料理を振舞ううちにファンが増え、その要望に応える形で「マイテキッチン」を始めたという。ちなみに、「マイテ」とは、フランスの有名料理研究家にあやかって、パトリスさんが奥田さんに付けたニックネームだとか。

前出の中村さんによると、「藤源治ラボ」はとりあえず年内いっぱいで閉鎖するとのこと。それに伴い、奥田さんの「マイテキッチン」も2012年以降は活動未定ではあるものの、ケータリングを提供したり、カフェにケーキを卸すといったことは今後も続けていく予定だという。また、「藤源治ラボ」も、今後再開の可能性はあるらしい。

食材や調味料を厳選し、食べる人がホッと安心できる料理を提供していきたいと考える奥田シェフ。今回、手紙を書いて心癒されることはなかったものの、その優しい味わいにすっかり癒された。まずは、2011年年内。「藤源治ラボ」での土日限定カフェで、心満たされる料理を味わってみてはいかがだろう。
(木村吉貴/studio woofoo)

「藤源治ラボ」は、神奈川県鎌倉市山ノ内870-8。
ホームページは、http://www.tohgenji.com/index.html。
奥田陽子シェフのブログは、http://maithekitchen.jugem.jp/。
「マイテキッチン」の予約は、maithe@msi.biglobe.ne.jp宛てにメールをお送りください。