何かと使い勝手がいい段ボール。

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筆者の自宅には、頻繁に段ボールが届く。もとい、段ボールに詰められた物が届く。子供が生まれてからというもの、筆者の青森の実家から、妻の愛媛の実家から、鎌倉にある我が家に向けて、子供の服やおもちゃやお菓子が月に1〜2度は送られてくる。遠く離れて暮らしていても、やっぱり孫はかわいいのだろう。

そんな風に孫をかわいがってくれるのは、筆者も親として嬉しいものである。ただ、段ボールを処分する手間は当然のように増えた。筆者の親などは、必要以上にガムテープを貼りまくるので、解体してたたむのに一苦労。また、金具で底が綴じられている場合には、これを取り外すのもなかなかに面倒だったりする。

その日。筆者はストレスが溜まっていた。やり場の無い怒り。打ち震える、我が拳。くそう。この思い。どこかにぶつけたい。……ハッ! そういえば、青森から送られてきた段ボールをまだ、たたんでいなかった。こいつに、鉄拳を見舞っちゃおうかしら……。

オラッ! ウララアッ! と、段ボールをパンチで潰す筆者。ちきしょうっ! 悪かったな、●●でっ! どうせ、●●だよ! くそう! オラオラオラ〜! ……と、はしゃいでいると。「何やってるの? パパ」と、3歳になる娘が騒ぎを聞きつけてやってきた。

「あ……。いや……。いまパパね、段ボールを潰していたのさ」「ボール?」「うん? いや、ボールじゃなくて、段ボールね」「どういうボール?」「え? あ、いや……」と口ごもる筆者。ふむ。なるほど。たしかに、“段ボール”って、何かのボールみたいなネーミングではある。

そうはいっても、段ボールは何かのボールではない。が、“段ボール”の“ボール”の部分がなんとも気になって仕方がなくなった。こういうときはアレだ、コネタで書いてみよう。どこかで既出かもしれないし、もしかしたら世間的にはすでに広く知られていることかもしれない。けど、まあ、とりあえず筆者は知らないし。調べて書かせてやってくださいよ。

で、調べてみますと。まずこの段ボール、発明されたのは19世紀のイギリスとのこと。日本で生み出されたのは今から約100年前、1909年のことのようでございます。三盛舎(現レンゴー株式会社)の井上貞次郎さんという方が、綿繰り機のような道具でたくさんの段をボール紙に付けることに苦心の末、成功いたしました。電球や化粧品、薬のビンといった割れやすい商品の緩衝材として世間に広まったこのボール紙が、「段ボール」と名づけられたのでございます。

段を付けたボール紙だから、「段ボール」。思いのほか、単純明快だった今回のナゾ。いや、待てよ。ならば、「ボール紙」の「ボール」とは、どういう意味なのか。筆者は、さらに調査を続けた。すると。

ボール紙は、ワラを原料につくられた厚紙である。板のように丈夫なこの厚紙は英語で「board」と呼ばれていたが、まだ英語が大衆に定着していなかった1909年当時。「board」の発音が耳に入ったそのままに、日本人は「ボール」と呼んでいたらしい。

「と、いうわけなのだ、我が娘よ」と、3歳児に段ボールのボールについてウンチクを教える筆者。だが、娘は聞く耳を一切持ってはいない。ファ〜ア。と、アクビをする娘。興味なしか。まあ、そりゃそうか。……。筆者は、まだ潰しきっていなかった段ボールを持ってきて、引き続き拳を繰り出すのであった。
(木村吉貴/studio woofoo)