このカップは、転んでも起き上がる。

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震災が起こって、早9カ月になる。復興までの道のりは、正直言って長く険しい。しかし、逆境に強いのが日本人。苦難がある度に、それを乗り越えてきたのが日本の歴史である。

そんな“諦めない心”を形にしたようなカップが開発された。「eウインテック」(青森県)が11月9日より発売している『ホッキーのジャンカップ』は、“倒れても起き上がるカップ”。
詳しく、ご説明させていただきたい。このカップで何かを飲んでいる際に、もしも「コテン」と倒したとする。大変だ! ……と思いきや、アラ不思議。クルクルっと回転しながら、自分できっちりとバランスを取って起き上がってくれるというのだ。その上、傾いたとしても中身の全部はこぼれない。チョットだけ残る。

実はこのカップの製作がスタートしたのは、昨年の11月。震災より前の話であった。
「東北大学大学院の堀切川一男教授から、『“転んでも起き上がるカップ”のアイデアがあるんだけど、作れないか?』と提案されたのがきっかけでした」(同社・蛯沢社長)
そうして、カップ作りに着手した同社。しかし、これがなかなか難しい。設計図を描き、重心の計算をしているのに、どうにも上手く立ち上がらない。焼く工程で、重心の位置がズレてしまうのだ。
だが10個の試作品を経て、起き上がる重心の位置決めにようやく成功。このカップが立ち上がるサマは、まるで“起き上がり小法師”のようだという。

……それって、どんな起き上がり方なんだ? 見たい! というわけで、実際に見せていただきました。
まずカップに水を注ぎ、チョコンと軽く倒してみる。すると、やはりある程度の水はこぼれる。しかしそれには構わず、下部の重心を軸にクルクルっと回りだすカップ。何というか、ブレイクダンスを見ているみたいな……。そして数秒後には、“スチャッ”としなやかに起立。しかも、確かにカップ内には水がいくらか残っている。
「容積100ccが入りますが、転んだ時には15cc前後残るようにしています」(蛯沢社長)

では、どうして中身は残るのか? それは、カップの内側に“波返し”の加工をしているから。触ると、口元に近い辺りが確かに出っ張っているな……。
「酒好きの方は、カップを倒したとしても中に少しでも残っていたら嬉しい。その発想から、中身を残るようにいたしました」(蛯沢社長)

そして、もう一つ。このカップは機能性のセラミックを素材にしており、酸味や苦みのあるものを入れると味がまろやかになるそうなのだ。
私も実際に、醤油を使って実験してみた。普通のカップに入れた醤油と、『ホッキーのジャンカップ』に入れた醤油の味比べを……。すると、冗談抜きで香りから違ってくる。味がまろやかになるというか、口当たりが良くなるというか。
「セラミックが含む遠赤外線から放射される“微弱なエネルギー”により、瞬時に熟成されるんです」(蛯沢社長)
実際に、この素材でできたカップに入れての茶碗蒸しやグラタンを提供しているレストランもあるそう。やはり、明らかに味は変わってくるという。

そんな不思議な特長を持ったカップではあるが、真の目的は復興支援。昨年から製作はスタートしていたが、3月の震災発生により「何とか励みにしてほしい」と“復興支援”商品として発売することを決定した。
「このカップの売り上げの10パーセントは、仙台市と八戸市を始めとした被災地に義援金として寄付します。また、購入された方のお名前を記載して寄付先に提出。当社のホームページ上では、お写真もご紹介させていただきたいと思います」(蛯沢社長)

そして、このカップが起き上がる姿。これは「震災で被災した方に、何としても再起してほしい」という願いが込められている。“七転び八起き”の精神だ。
「私自身、今までの人生の中で挫折したことは何度もありました。そして日常の些細な出来事が立ち直るきっかけになったことも何度もあります」(蛯沢社長)
カップが起き上がる姿を見て、パワーにしてほしい。投影してほしい。蛯沢社長自身の体験があるからこそ、被災者の方にも励みにしてもらいたいのだ。
そんな同社の意志に賛同し、十個まとめ買いしたカップを被災地に送る企業も現れたとのこと。“倒れても起き上がるカップ”をプレゼントしつつ、「eウインテック」からは義援金も送られる。こういう会社が現れるなんて、世の中も捨てたものではない。

そんな『ホッキーのジャンカップ』は、同社ならびにAmazonにて購入することができる。価格は1個6,000円、2個セットで10,500円(ともに、税込み)。

ちなみにこの独特の商品名だが、これは堀切川教授の愛称「ドクターホッキー」と、「震災前より、さらに飛躍(ジャンプ)してほしい」という想いを組み合わせた、蛯沢社長のアイデアによるもの。強い想いが、込められている。
(寺西ジャジューカ)