自分の肌の細胞を使い医療や美容に役立てる。セルバンクすなわち自己細胞バンクは、高度先進医療のシンボル的な企業だ。細胞ビジネスを立ち上げたセルバンク社の問題意識、今後の展開戦略、細胞バンクが拓く医療の可能性などを探る。



第2回
「企業の価値創造機能とは」


■企業の真価は利益の使い方に現れる

「マーケットサイズが小さすぎないか。直感的に思いました。ビーシーエス社の先行きに不安を感じた理由は、やけどというマーケットの規模だったんです」

確かにやけど治療において培養皮膚に対するニーズは明らかにある。ニーズは極めて明確に捉えられているにもかかわらず、競合はほとんど存在しない。その意味では確かにブルーオーシャンなのだが、実は致命的な問題も潜んでいたのだ。

「やけどのマーケットについて試算してみたんです。どうしても培養皮膚に頼らなきゃならない患者さんは意外に少なくて、統計データから推定されるマーケット規模は年間20億円ぐらい、多くて30億ていどだろうというのが結論でした」

それぐらいの市場に対してビーシーエス社は、25億円以上もの資金をつぎ込んでいた。これではいささかバランスが悪い。早晩経営が行き詰まるリスクが高まっていくことは、恐らく予想できたのではないだろうか。

「気持ちは痛いぐらいわかるんですよ。自分の研究がビジネスになる。それによって多くの患者が救われる。これはある意味、研究者の究極の夢なんです。でも、夢だからこそ、徹底的にシビアな目で採算性を見通しておかないとはかなく消えてしまう」

その北條氏が考える企業の本質とは『価値を創造し、その価値と対価を交換すること』これに尽きるという。


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