記者会見で告発状を示す告発代理人の河合弘之弁護士(9月30日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)

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中部電力が浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)の再稼働に必要な国の審査において、地震の想定に関するデータを改ざんしていた問題で、研究者や市民団体の代表ら9人が9月29日、中部電力の幹部らが国の審査業務を妨害したとして、偽計業務妨害罪で東京地検に刑事告発した。

告発されたのは、9月30日付で辞任した勝野哲会長(告発時点)と、氏名不詳の役職員ら数名。告発状によると、被告発人らは浜岡原発3、4号機の新規制基準適合性審査を早期に完了させる目的で、基準地震動(※)の評価に関するデータを人為的に操作し、改ざんしたデータを原子力規制委員会や原子力規制庁に提出することで、適正な審査業務を妨害した疑いが持たれている。

※原子力施設の耐震設計において基準となる、敷地周辺で発生しうる最大の地震の揺れの大きさ

告発人らは9月30日に記者会見を開き、強制力のある捜査によって事件の全容を解明する必要性を訴えた。

刑事告発の対象となる行為と、経営者の責任

告発状によると、被告発人らの行為は刑法233条の偽計業務妨害罪にあたる。妨害された業務は、原子力規制委員会による原発の新規制基準への適合性審査である。

問題となり得る行為は16類型に整理されている。

具体的には、被告発人らは、多数の計算結果の中から自社に都合の良いデータを人為的に選んだり、その不正を隠蔽するために後からバックデータを作成・加工したりしていた。これらの不正は2014年以降、長期間にわたって組織的に行われていたとされる。

告発人らは、一連の不正行為を了承し、隠蔽を指示したとして、当時の代表取締役社長であった勝野哲氏を「共謀共同正犯」として告発。共謀共同正犯とは、犯罪を直接実行してはいないが、主導的役割を果たすなど、自ら実行したと同視でき、正犯としての責任を負うものをいう。

実際に不正行為を実行した担当者らについては、告発状では「氏名不詳」としている。この点について、告発代理人らは、調査報告書で匿名とされているからであり特定は容易だとしている。

告発人には、総合研究大学院大学名誉教授の池内了氏、龍谷大学政策学部教授の大島堅一氏、元東芝の原子炉格納容器設計技術者である後藤政志氏、福島原発告訴団団長の武藤類子氏、原子力資料情報室共同代表の松久保肇氏ら、専門家や各地で活動する市民団体の代表が名を連ねている。

なぜ刑事告発に踏み切ったのか

9月30日の記者会見で、告発代理人の河合弘之弁護士は、今回のデータ捏造事件が「原発の安全の基礎を揺るがす大変な事件」であると指摘。これまでの第三者委員会などによる調査は、家宅捜索や逮捕といった強制力を持たず、「非常にまだ手ぬるい状態」だとし、「強制力のある刑事手続きをもって責任追及されなければならない」と告発の意義を語った。

同じく代理人の海渡雄一弁護士は、中部電力の組織的な問題を厳しく批判した。

海渡雄一弁護士(9月30日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)

海渡弁護士は、社内の内部通報制度「ヘルプライン」への通報をきっかけに、法務部や代理人弁護士から「不正にふたをしてはいけない」との意見が出たにもかかわらず、当時の社長自身が隠蔽を指示した点が極めて重要だと強調。「全容を解明するには、きちんとした捜査権限を持った捜査機関によって真実が明らかにされるべきだ」と述べた。

また、告発状の起案を担当した北村賢二郎弁護士は、不正の原因について、中部電力の組織体質にまで言及した。

北村賢二郎弁護士(9月30日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)

「福島第一原発事故という大きな教訓がありながら、南海トラフ巨大地震のリスクを抱える浜岡原発で不正を働き、さらに『規制委員会は無理難題を言っている、自分たちがやっていることは正しいんだ』という認識を、担当者だけでなく組織として共有していた」

今回の刑事告発で主導的な役割を担った、原子力資料情報室の共同代表である松久保肇氏は、今回のデータ不正が中部電力に限らず、他の電力会社でも起こりうる潜在的な問題だと指摘した。

松久保肇氏(9月30日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)

その上で、刑事告発の意義について、電力会社だけでなく委託先への調査も不可欠であり、「強制捜査権を持った検察が調査することが非常に重要だ」と訴えた。

それぞれの立場から刑事責任追及の重要性を主張

告発人らはそれぞれの立場から、事件の重大性を訴えた。

■研究者として:大島堅一氏(龍谷大学政策学部教授、原子力市民委員会座長)
「これは研究不正に相当する。研究不正は研究者にとって死刑宣告に近い」

大島氏は、単なる研究不正と異なり、人の命や環境、日本の大動脈たる交通網にまで影響を及ぼしかねない浜岡原発で不正が行われたことの重大性を指摘。「事故が起こってもいいと判断したとしか思えず、研究者として本当に許しがたい」と、告発に加わった理由を語った。

大島堅一氏(9月30日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)

■元原発技術者として:後藤政志氏(元原子炉格納容器設計技術者)
東芝の技術者としてかつて浜岡原発3、4号機の設計にも関わった後藤氏は、「耐震設計の数字というのは設計するための前提条件なので、それが間違っていたら、原発は設計も施工もできないし、してはいけない」と強調した。

技術者として福島第一原発事故を防げなかった後悔に触れ、「福島の事故とまた同じことを繰り返されたら、とてもたまらない」と思いを語った。

後藤政志氏(9月30日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)

■地元住民として:沖基幸氏(浜岡原発を考える静岡ネットワーク事務局長)
浜岡原発から至近の場所で生まれ育ったという沖氏は、長年の活動経験から「当初からこれどう考えても犯罪だよな、という気持ちが私の中にあった」と述べた。「国、原子力規制委員会側はやる気はない。そういう意味で非常に危うさを感じて、今回の行動に出た」と訴えた。

沖基幸氏(9月30日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)

■市民運動の立場から:矢部史郎氏(浜岡原発やめて! 緊急アクション実行委員)
矢部氏は、内部告発を行った技術者・労働者へ敬意を表し、この件についての責任追及へ向けての決意を述べた。

「一人の良心を持った人間が、腐敗した電力会社経営に対して強い一撃を加えた。私たちはこの行為に応えるべく、この機会に浜岡原発を廃炉に向けていくような世論を作り、圧力を強めていきたい」

矢部史郎氏(9月30日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)
事件の核心と今後の捜査の焦点

告発人らは、今回の事件が単なる現場担当者による逸脱行為ではなく、経営陣が主導した組織的な犯罪であるととらえ、その点を重視している。

河合弁護士は、勝野氏が不正を了承した際に「責任逃れ」を行ったと指摘。告発状によると、勝野氏は外部の専門家の意見を聞くことを条件に不正な方針を了承したが、実際にはその条件が履行されたかを確認していない。これは「トップが不正なことを指示する際に(責任を免れるために)よくやる手法だ」と解説した。

また、河合弁護士は、不正の動機が、再稼働で得られる利益にあったと推測する。

「大型の原子炉を1日1基動かすと1日3億ほど燃料費が浮く。ウラン燃料は化石燃料より著しく安価だからだ。利益のために何がなんでも稼働したいからこういうことをやる」

さらに、河合弁護士は、本来の計算方法であれば、基準地震動は現在想定されている1200ガルをはるかに超える数字が出たはずだと指摘する。

「正しく計算して1200ガルに収まるならば、不正をやる必要はない。正しいデータに基づいて計算されていたらとんでもない数字が出た可能性がある。本来どのような数字が出るはずだったのか、メディアが追及してほしい」

告発人らは、本件が大規模かつ複雑な企業犯罪であるとして、東京地検特捜部での捜査を求めており、検察の今後の対応が注目される。