※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年10月号からの転載です。

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「最初に読んだのは30代の初めかな。当時、弱い自分が好きじゃなくって」

 さまざまな偉人たちの言葉を引用しながら、人生で勝つための哲学を説いた『男は勝たねば面白くない』。本書を手にし、「このタイトルに触発されたんでしょうね」と振り返る。

「その頃、演劇界でプロデュース公演が流行りだし、いろんな劇団の役者と共演するようになったんです。そこで自分に変化が起きた。それまでは演技を芸術の一つのように捉えていましたが、先輩の姿を見て、役者も勝負事だなと。ライバル以上に他を圧倒する存在感を出したいというのもそうだし、芝居は理想とする己の姿にどれだけ近づけるかの戦いでもある。“どんなことにでも勝ちたい、負けたくない”と自分を焚きつけるように、本書を読んでいました」

 持参した本には読み込まれた跡があり、多くの赤い線が引かれている。

「例えば〈弱者は同情されても味方はつくれない〉。役者って厳しい世界では、つねに“戦い”という気持ちは感じています。それは今でも変わりませんが、文庫版が出たのは平成元年だから、『24時間戦えるか?』と問われていた時代でもある。弱気になりそうなときにページを開いては、自分を鼓舞していました」

 その内野さんが次に挑む舞台が『リア王 -KINGLEAR-』。一つの時代を築き、勝ち続けた国王の衰退を描いた物語だ。

「シェイクスピアの四大悲劇の中でも、『リア王』は特に普遍的だと思います。王は溺愛していた娘たちの罠により荒野へ追いやられ、初めて己の愚かさに気づく。程度の差こそあれ、周囲の変化や時代の流れを感じ取れずに孤立していく愚かさは、誰もが持ちうるものだと感じました」

 近年、多くのカンパニーが『リア王』を上演しているが、「老いや格差社会など、今の日本を反映したかのようなテーマがこの戯曲に多く詰まっているからでしょうね」と内野さんは語る。そうした中、独自性を持たせるため、「僕はリア王を、とことんぶっ飛んだジジイにしてやろうと思ってます」とプランを明かす。

「何かと制約が多い時代だからこそ、言いたいこと、やりたいことをそのまま素直に全部出してやろうかと(笑)。欲にまみれていく娘たちの言動だって、現代の若者からすれば、自分に素直な人間に映るかもしれない。時代によって見え方が変わってくるのが古典のいいところですから、今までにない共感を得られるような『リア王』を目指したいですね」

取材・文:倉田モトキ 写真:干川 修

ヘアメイク:佐藤裕子 スタイリング:中川原寛

うちの・せいよう●1968年、神奈川県生まれ。2007年、NHK大河ドラマ『風林火山』で主演を務める。主な出演作に、ドラマ「臨場」シリーズ、「JIN-仁-」シリーズ、「きのう何食べた?」シリーズ、映画『八犬伝』など。現在、ドラマ 『犯罪者』がAmazon Prime Videoで配信中。主演映画『負けへんで』が11月13日より公開。



『男は勝たねば面白くない -必勝不敗の人間学-』

(邑井 操/新潮文庫)*品切れ重版未定

講談師であり、経営評論家でもある著者が1982年に発表し、話題を集めた自己啓発本。会社組織や人間関係の中で自分を客観視し、他とは違う“何か”を身につけていくことがいかに大事かを力強く説いている。過去の偉人や成功者たちの名言、行動が数多く引用され、明日からの自分を変えていくためのヒントが満載。



舞台『リア王 -KING LEAR-』

作:ウィリアム・シェイクスピア 訳:松岡和子 演出:森 新太郎

出演:内野聖陽/前田公輝、井之脇 海、清水くるみ、川上友里、内田 慈、杉本哲太、山路和弘 ほか 9月21日(月・祝)より東京芸術劇場ほか、新潟、愛知、兵庫、岡山、福岡で上演

●絶対的権力を持つリアは王位と領土を娘たちに譲ることを決意。長女と次女の言葉に親子の愛の深さを感じたリアだったが、領土を分け与えた後、非道な仕打ちに遭う。行き場を失ったリアはやがて荒野の中で狂乱していく。