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社長が役員報酬を設定する際、自身の所得を多く確保したいという理由から高額な金額を支給するケースは少なくありません。しかし、役員報酬は受け取る金額が上がれば上がるほど、所得税、住民税、社会保険料の負担割合が急激に上昇する構造になっています。本記事では、税理士法人グランサーズ共同代表の黒瀧泰介氏が、支給額設定前に知っておきたい、「役員報酬」の仕組みとその実態について解説します。

役員報酬を高額に設定した経営者が被る「重い税負担」

役員報酬にかかる個人負担の具体的な割合を確認すると、年収5,000万円を設定した場合、実際の負担割合は約44%に達し、額面のほぼ半分が国への支払いで消えることになります。また、年収2,000万円の場合でも、負担割合は約35%を占めており、大きな経済的負担を強いられます。

この年収2,000万円というラインが、社長個人の給与として受け取るか、会社にお金を残すかを判断する重要な境界線となります。中小企業に適用される法人税の実効税率は、一般的に約25%から34%の範囲に収まります。

そのため、役員報酬を2,000万円以上に設定して個人で多額の所得税を支払うよりも、役員報酬の額を抑えて会社の利益として残し、法人税を支払ったほうが、トータルの税負担率を低く抑えられる利点が生じます。

個人の手元資金を圧迫する3つの直接的な要因

役員報酬を上げることで、個人の手残り額が極端に減少する原因は、3つの具体的な負担要因が同時に重なることにあります。

1つの目の要因は、所得税に適用される「超過累進税率」の仕組みです。課税所得が増加するにつれて税率が段階的に引き上げられるため、最低税率である5%から始まり、課税所得が4,000万円を超えると最高税率は45%にまで達します。

2つ目の要因は、一律で課される10%の住民税です。所得税の最高税率である45%にこの住民税の10%を加算すると、個人の所得に対する最大の税率は55%という高い水準に達します。

3つ目の要因は、個人と会社で折半して支払う社会保険料です。健康保険や厚生年金保険料は、個人の役員報酬の額面に応じて決定されます。上限枠は設定されているものの、役員報酬を引き上げると、個人が支払う社会保険料が増加するだけでなく、会社側が負担する折半分の社会保険料も同時に増加します。経営者にとっては、個人と法人の双方で二重にコストが膨らむ原因となります。

期中の役員報酬変更に課される税法上の厳格なルール

役員報酬の決定をさらに難しくしている要因が、税法によって定められた変更制限のルールです。

一度決定した役員報酬は、事業年度の途中において原則として変更することが認められていません。変更手続きを行うことができるのは、新しい事業年度が開始してから「3ヵ月以内」の期間に限定されています。この期間に決定した金額を、その後の12ヵ月間にわたって毎月同額で支給し続ける必要があります。

この制限が設けられている理由は、事業の途中で利益が予想以上に発生した際、役員報酬を自由に変更して利益を減らし、法人税の課税を意図的に操作することを防ぐためです。

このルールにより、期中に予期せぬ売上の減少や資金繰りの悪化に直面した場合でも、社長自身の給与を引き下げて会社のキャッシュを守るという柔軟な調整を行うことはできません。

ただし、例外として期中の減額が認められる事情も存在します。役員としての地位や職務内容に重大な変更が生じた場合、主要な取引先の倒産、著しい自然災害の発生といった、誰が見てもやむを得ないと判断される急激な業績悪化の事態に限り、変更が容認されます。

しかし、単に「今年の売上目標を達成できなかった」「手元の運転資金が不足してきた」という理由での減額変更は、一切認められません。高すぎる役員報酬を設定することは、会社経営全体の自由度を奪い、最終的に赤字転落を招くリスクがあります。

資本金の規模別に見る中小企業のリアルな役員報酬相場

多額の税負担や期中の変更リスクを考慮し、世間の中小企業の社長は、役員報酬を一定の範囲に抑えて設定する傾向があります。

国税庁が公表している令和6年の調査データから、資本金の規模に応じた役員報酬の年間相場は以下のようになっています。

・資本金2,000万円未満の企業:約700万円弱

・資本金2,000万円以上5,000万円未満の企業:約900万円前後

・資本金5,000万円以上の企業:約1,200万円前後

多くの社長がイメージするよりも、実際の役員報酬相場は控えめな金額に留まっています。

この結果は、経営者が税金や社会保険料の負担増を正しく把握し、意図的に支給額をコントロールしている実態を裏付けています。これに加えて、個人の所得を増やすことよりも、会社にお金を残して自己資本比率を高め、将来の成長投資に備えるという経営上の堅実な判断が反映されています。

個人・法人のトータル手残り額を最大化するには?

役員報酬の金額を決定する実務において、最も手残り額を多く確保するための具体的なシミュレーション方法を解説します。

金額を設定する際は、役員報酬を支払う前の利益である「経常利益」と「役員報酬」の合計額から逆算を行い、個人が支払う税金と会社が支払う法人税、そして社会保険料の総額が最も低くなるバランスを探り当てます。

例として、役員報酬支払前の利益が3,000万円である会社において、役員報酬を100万円刻みで変動させた場合のシミュレーションを行います。個人と会社を合わせたトータルの手残り資金がどのように変化するかを追うことで、最適なゾーンが明らかになります。

この利益3,000万円という条件下では、役員報酬を年間「500万円」に設定した際、個人と法人の手残り合計額が最大となります。このときのトータル手残り額は約2,026万円に達します。

一方で、役員報酬を500万円から「1,200万円」までの範囲で引き上げた場合でも、トータルの手残り合計額にはそれほど劇的な差異は発生しません。これは、役員報酬を増やすことによって個人の所得税や社会保険料は増加するものの、その支給額がそのまま会社の経費(損金)として算入され、法人の所得が減少して法人税が引き下げられるためです。個人と法人の負担が互いに相殺される結果、500万円から1,200万円までの範囲は、手残り額に大きな変化が生じない「最適なゾーン」として機能します。

しかし、役員報酬の支給額が「1,200万円」を超えて高額になると、トータルの手残り資金ははっきりと減少し始めます。個人の税負担率が、会社が節税できる法人税のメリットを大幅に上回ってしまうためです。

極端な例として、利益3,000万円の全額を社長の役員報酬として3,000万円支給した場合の推移を確認します。この設定にすると、個人と会社を合わせたトータルの手残り資金は約1,615万円にまで激減します。

役員報酬を500万円に設定した場合のトータル手残り額(約2,026万円)と比較すると、まったく同じ3,000万円の利益を生み出しているにもかかわらず、給与の取り方の違いだけで約411万円もの手元資金を消失させる結果となります。

社長が取るべき「役員報酬」の賢い決め方

役員報酬を高額に設定して個人で受け取ろうとする判断は、超過累進課税や会社負担の社会保険料の増加を招き、結果として最も手元資金を減少させる危険な選択となります。

経営者が取るべき最適なアプローチは、将来の事業拡大や設備投資計画を考慮しつつ、まずは個人と法人のトータル手残りが最大化される「500万円から1,200万円」の範囲内で金額を微調整することです。

会社の財務基盤を強固に保ち、将来的な銀行融資を円滑にするためにも、役員報酬を過度に引き上げることなく、手元資金が最大化される合理的な基準に沿って慎重に支給額を決定していきましょう。

黒瀧 泰介

税理士法人グランサーズ共同代表/公認会計士・税理士