警察学校に迷い込んだガリガリの子猫が…数年後“警視”に昇任!? 警察官の卵たちをそっと見守る「たま警視」の物語
この学び舎には、厳しい寮生活を送る学生たちに日々癒やしを与える、アイドル的存在の“職員”がいる。
「たま警視」。
所在地の“玉柏(たまがし)”にちなんで名付けられたというこのメス猫は、もともとはどこからか警察学校に迷い込んできた子猫だった。
一体、なぜ同校の“職員”となったのか。その経緯と日々の働きぶりについて、“同僚”の教職員たちに聞いた。
無類の人なつこさでスピード出世
たま警視が同校に現れたのは、今から13年ほど前。
「ガリガリに痩せた汚い子猫がふらふらと学校に来たので、かわいそうだからと学生たちがスナック菓子などをあげていたんです。教官たちもはじめのうちは餌やりをしないようにと注意していましたが、あまりの人なつこさにそのうちかわいがるようになりました」
そう教えてくれたのは、当時初任科生として校内で寮生活を送り、現在は同校で教官を務める横山大徳さん。
晴れて校内に住むことが許可され“たま巡査”と命名されたが、癒やしの効果は絶大。そのうち寝場所が与えられ、学生間での餌やり当番制度も設けられることになり、“巡査”から“警視”へと異例のスピード出世も果たした。
近年は、玄関ロビーの一角に“たまホーム”と呼ばれる専用ベッドが用意され、教官室内には“たま警視専用椅子”や爪とぎスペースも設置されるという好待遇に。
同校のSNSでも“経験豊富な警察職員”として紹介されたり、交通安全を啓発する県警のチラシに登場したりと、れっきとした職員として認められている。
勤務態度は実直
「子猫の頃からたくさんの人にかわいがられてきたせいか、触られても抱っこされてもあまり嫌がりません」と、同校の卒業生で現在は教官を務める隈井光砂さんも、そのアイドルっぷりには感心しきりだ。
しかし、人なつこさだけがスピード出世の理由ではない。勤務態度もおしなべて実直なのだ。
始業は早朝6時半。
学生たちが起床し、庁舎玄関前で点呼と運動をスタートすると、たま警視も参加。生徒の間を縫うように歩く様子は、さながら教官が学生の活動を“監督”しているようだ。
7時から8時にかけては、出勤してくる職員を玄関でお出迎え。懇意の教官に“ちゅ~る”などをおねだりする。
昼が近づき、気温が上がってくるとロビーでひと休み。おなかが減ると通りすがりの生徒や職員にご飯をおねだりする。
学生の休憩時間には、厳しい訓練や授業で疲れた学生におとなしく撫でられるなど、アニマルセラピストさながらの活動をしている姿も見せる。
午後は自由に過ごすが、夕方になって国旗降納の時間がくると、夕空に粛々と降ろされる日の丸を見ながら物思いにふけることも…。
夜になり、学生が寮に戻り、教職員が帰宅したあとは、人恋しいのか宿直教官がいる教官室を訪問。その日の気分で“たま警視専用椅子”か、空いている教職員の椅子をベッド代わりにして就寝する。
これが、たま警視の大まかな一日の流れだ。もちろん、毎日時間通りに勤務するわけでなく、自由気ままに過ごす日もある。ただ、それでも「“私は警察学校の一員だ”という自覚があり、その職務を全うしようとしているようにしか見えません」と、職員の原美恵さんも勤勉な姿勢を称賛する。
訓練や行事にも参加
警察学校ではさまざまな訓練や行事が行われるが、たま警視の参加率は極めて高い。
例えば、学校正門のすぐ内側にある、本物の交番を模した“模擬交番“での宿直勤務。たま警視は、長時間立ったまま周囲を警戒する学生の姿を、そばでそっと見守り続ける。
また、卒業式では学生たちの晴れの姿をじっと凝視。立派になって巣立っていく卒業生をしっかりとお見送りする。
主な活動は校内パトロール
もちろん、猫らしい一面もある。
たま警視が重点を置く活動は「校内パトロール」だ。たま警視は、学生や教官が忙しいと理解しているのか、退屈しても“遊んで”とおねだりすることは少なく、もっぱら治安維持のために広い敷地内を散策。時折、野鳥やトカゲなどをハントしてくることもあるという。
まだまだ元気な警視だが、それでも今年で推定15歳。同校ではもっとも勤務歴の長いベテランになった。
最近では、縄張りに侵入してこようとするライバルの雄猫が現れると、教官室に逃げ込んできて、追っ払うよう無言で催促するという。
「昔は向かっていって、ケンカして傷だらけになることもあったようですが、歳には勝てないみたいです」と、原さんも健康を気づかう。
できるだけ長く、元気に過ごして欲しい…。
多くの生徒や職員たちに見守られながら、今日もたま警視は同校の治安維持に努めている。

