「AI活用」時代は長く続かない?AIに確実に奪われる仕事と残っていく仕事。キーワードは「正解がある領域」

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AIが生活に浸透していく中で、自分の仕事がAIに置き換わってしまうことに脅威を感じている人は多いだろう。そこで、仕事が出来る人は「AIを使いこなせるようにならなければ」と努力しているかもしれない。ところが、人工生命やAIに詳しい千葉工業大学大教授の岡瑞起さんは、AIと人間が協働する期間は案外短い、と指摘する。

AI時代の仕事はどうなっていくのか?最新の知見を岡さんの著書『AIの時代に頭がよくなる人悪くなる人』(日経BP)から抜粋して紹介する。

確実に消えていく仕事

まず、確実に消えていく仕事です。

データ入力、型にはまった翻訳、税務申告書の作成など「正解が決まっている」作業は、いち早く、AIに置き換わる可能性が高いでしょう。すでにマネーフォワードのようなサービスでは、レシートを撮影するだけで自動的に仕訳してくれます。確定申告まで、ほぼ自動化できる時代が来ています。

エンジニアの仕事も、大きく変わりつつあります。

特にテストやデバッグ、保守といった領域では、すでに自動化が進んでいます。業務委託や経験の浅いエンジニアの仕事は急速にAIに置き換わっています。

意外かもしれませんが、「残る仕事」の中には、従来給料が低い仕事が含まれています。ベビーシッター、ハウスキーピング、看護師、介護士などです。

ベビーシッターの時給が倍に?

こうした「身体性」を伴う仕事は、AIには置き換えられません。そして、これらの仕事の単価は、今後上がっていくと私は考えています。他の多くの仕事がAIで効率化される中で、「人間にしかできない仕事」の希少価値が高まるからです。

今、ベビーシッターの時給は、東京都では2500円から3000円程度です。でもこれが5000円、6000円になっても不思議ではありません。英語ができるシッターさんは、すでに時給6000円になっているという話も聞きます。

看護師の仕事を考えてみてください。医療分野では画像診断はAIがするかもしれませんし、薬の処方もAIが提案するかもしれません。

ただ、患者さんに寄り添い、不安を和らげ、日々のケアをする仕事は人間にしかできません。看護師の仕事の重みは増すはずです。

医師も同じです。診断という「頭脳労働」がAIに移ることで、医師の仕事の中身も変わるかもしれません。

コールセンターはどうでしょうか。「よくある問い合わせ」はAIに置き換わります。

ただ、コールセンターの問い合わせはクレーマー、感情的になっている顧客も少なくありません。ですので、「やばい」案件だけは人間が対応することになるかもしれません。

それはそれで過酷な仕事になるのでコールセンターの仕事も時給が上がる可能性はあるでしょう。

「AIを活用」の時代は短い?

ここまで、「消える仕事」と「残る仕事」について見てきました。

では、その中間にある「変わる仕事――つまり、AIと人間が協力して行う仕事」はどうなるのでしょうか。

「AIを使いこなせる人材が求められる」「AIと協働できるスキルが重要だ」――最近、こうした言葉をよく耳にします。AIにすべてを任せるのではなく、人間がAIをうまく活用して成果を出す。そんな働き方が、これからのスタンダードになると言われています。

ところが、OpenAIのCEOであるサム・アルトマンさんは、興味深い指摘をしています。AIと人間の協働が効果を発揮する期間は、実はとても短いかもしれないというのです。

彼が例に出したのはチェスです。

1997年、IBMが開発した「ディープ・ブルー」というコンピュータが、当時の世界チャンピオンであるガルリ・カスパロフさんに勝利しました。「コンピュータが人間のチェス王者を破った」というニュースは、世界中に衝撃を与えました。

その後、「アドバンスドチェス」という新しい形式が生まれました。

人間とコンピュータがチームを組んで戦います。人間の直感や創造性と、コンピュータの計算力を組み合わせたのです。

この形式は、しばらくの間、最強でした。コンピュータ単独よりも、人間単独よりも、人間とコンピュータのチームが一番強かったのです。

ところが、2005年頃には、その時代は終わりました。コンピュータ単独のほうが、人間とコンピュータのチームよりも強くなってしまったからです。

人間が加わることが、むしろ足手まといになってしまったからです。

アルトマンさんは、この歴史をふりかえり、人間がコンピュータに初めて負けてから、「協働の時代」を経て、コンピュータ単独が最強になるまで、わずか8年ほどだったと述べています。

これを今のAI全般に当てはめると、少し不安になります。「AIを使いこなせる人材が求められる」と言われていますが、その期間は意外と短いかもしれません。

AIは「正解がある」領域に強い

今は「AIを上手に使える人」が重宝されていても、ある時点で、「AIを使いこなす人間」より「AI単独」のほうが優れた成果を出すようになる。チェスで起きたことが、他の領域でも起きる可能性を、否定できません。

もちろん、チェスと現実の仕事は違います。チェスには明確なルールがあり、「正解」が存在します。勝ち負けがはっきりしています。

だからこそ、コンピュータが圧倒的に強くなれました。

一方、現実の仕事の多くは、そこまで単純ではありません。

正解がひとつに決まらないことも多いですし、その仕事にあった価値観や好みが入り込むことが、いい成果に結びつく場合もたくさんあります。人間関係も複雑に絡み、感情への配慮も必要になります。

そうした領域では、まだしばらく人間の出番があるでしょう。

ただし、「正解がある」領域から順番に、AIが人間を追い抜いていくことは間違いありません。

たとえば、経理です。

数字の計算や仕訳には正解があります。法務もそうです。法律の解釈や契約書のチェックにも、ある程度の正解があります。

特許出願も過去の特許との類似性判断に明確な基準があります。こうした領域では、すでにAIのほうが精度が高くなりつつあります。

「自分の仕事には正解がないから大丈夫」と思っている人も、油断はできません。

今は正解がないように見える仕事でも、AIの進化によって「実は正解があった」と判明するかもしれないからです。

岡 瑞起(おか・みずき)
博士(工学)。千葉工業大学大学院デザイン&サイエンス研究科教授。Artificial Life Institute(人工生命国際研究機構)創設者・代表理事。