「オジサンは自分の家がないの?」姪っ子の無邪気な問いにショック。実家暮らしを続ける45歳会社員の未婚男性「夏休みよ、はよ終われ」とぼやくワケ【FPが解説】
物価が上がる一方で、据え置きの賃金。「とても暮らしていけない」と、40代50代になっても実家暮らしを選択する人も少なくないでしょう。一人暮らしよりも固定費を削減できたり、生活環境を家族に整えてもらえたりと、メリットは少なくありません。「ずっと実家暮らし」を選択する人も増えていますが、とあることがきっかけで、そろそろ出るべきかと悩むケースもあるようです――。本記事では、波多FP事務所の波多勇気氏が、高橋誠さん(仮名)の事例から、ミドル世代における親との同居のリアルに迫ります。※紹介する事例は、相談者より許可を得て、プライバシー保護の観点から相談者の個人情報および相談内容を一部変更して記事化しています。
48歳、実家のリビングで固まった…姪の無邪気な一言
地方都市の実家で両親と暮らす会社員の高橋誠さん(仮名/48歳)。父は79歳、母は74歳で、ともに年金生活です。誠さんの年収は約450万円。手取りにすると月23万円ほどで、そこから家に3万円を入れる以外は、自分の裁量で使える生活を20年以上続けてきました。独身で、住まいは学生時代から変わらない2階の自室。食事は、いまも母が整えてくれます。
「家賃もかからないし、飯も出てくる。正直、出ていく理由がなかったんですよね。会社と家の往復で、気づいたらこの歳になっていました」
そんな誠さんの日常が揺らいだのは、7月下旬のことでした。子どもの夏休みが始まり、隣県に嫁いだ妹の由紀さん(仮名/44歳)が、小学1年生の姪の芽衣ちゃん(仮名/7歳)を連れて実家に泊まりに来たのです。
夕食後のリビング。芽衣ちゃんは、テレビを観ている誠さんの隣にちょこんと座り、こういいました。
「ねえ、オジサンは自分の家がないの? どうしてずっとおばあちゃんの家にいるの?」
悪気など、あるはずもありません。芽衣ちゃんにとって、大人は自分の家があるのが当たり前。ただそれだけの質問でした。しかし誠さんは、なにも答えられなかったといいます。妹夫婦が慌てて話題を変え、両親は聞こえなかったふりをする。その気遣いが、かえって胸に刺さりました。
「7歳の子に、一番痛いところを突かれた気がしました。妹一家はお盆にもまた来る予定で……。正直、夏休みなんてはよ終われ、と思っちゃいました」
数日後、誠さんは勤務先で開かれたライフプランセミナーのあと、講師を務めていた筆者のもとへ個別相談にやって来ました。
貯金が120万円しかなくて実家を出られない
相談室で誠さんが最初に口にしたのは、意外にも前向きな言葉でした。
「先生、そろそろ家を出ようかと思うんです。ただ、貯金が120万円しかなくて。この歳で、この額って……やっぱりまずいですよね」
「まず、位置を確認しましょうか。金融経済教育推進機構の2025年の調査では、40代単身世帯の金融資産の中央値は100万円。約3人に1人は金融資産ゼロです。数字のうえでは、誠さんは真ん中より上にいます」
「え、そうなんですか。ちょっと安心しました」
「ただし、です。同じ調査では1,000万円以上を持つ40代単身も2割いて、貯まっている層とそうでない層に、はっきり二極化しています。そして誠さんが本来いるべきなのは、間違いなく前者の側なんです」
国税庁の「令和6年分 民間給与実態統計調査」では、給与所得者の平均給与は478万円。誠さんの450万円は、ほぼ平均どおりの稼ぎです。一方、総務省の「2025年 家計調査」をみると、一人暮らしの生活費は月17万円前後。この数字には持ち家の人も含まれるので、賃貸を借りれば実際は20万円近くかかります。
「つまり一人暮らしの同僚は、手取り23万円からそれだけ払って生活している。では、家に3万円しか入れていない誠さんの手元には、毎月いくら残っているはずですか」
「……計算上は、20万円ですね」
「そうです。仮にその半分の10万円を貯めていたとしても、年120万円。20年なら2,400万円です。でも実際の貯金は120万円。差額はどこへ消えましたか」
誠さんは、しばらく黙り込みました。車のローンに月3万円、趣味のゲームと動画配信への課金、同僚との飲み会、週末の外食。一つひとつは小さくても、家賃という重石がない家計は、支出の総量を意識する機会そのものがありません。
「実家暮らしはお金が貯まる、とよくいわれます。でも私の相談経験では逆のケースが目立ちます。家賃ゼロという安心感が、財布の見張り番を眠らせてしまうからです。しかも誠さん、もう一つ大事な視点があります。ご両親の年金額と、ご実家の維持費がいくらか、ご存じですか」
「いえ、聞きづらい話題ですので……」
「誠さんの食費も、光熱費も、住む場所も、実際にはご両親の年金が支えています。言い換えれば、見えない家賃を親御さんが肩代わりしている状態です。お父さまは79歳。この構造は、あと何年続けられるでしょうか。相続や介護が始まったとき、固定資産税も修繕費も光熱費も、全部が誠さんの120万円に襲いかかってきます」
念のため申し添えると、48歳で独身であること自体は、いまや特別なことではありません。2020年の国勢調査ベースでは、50歳時点の未婚割合は男性で24.6%。およそ4人に1人です。問題は独身でも実家暮らしでもなく、その生活を支える家計の構造を、本人が把握していないことなのです。
「出る・出ない」より先にやるべきこと
筆者が誠さんに提案したのは、次の3つです。
1.今日から自分に家賃を課す
誠さんの場合、引っ越しはまだしなくていいと思います。ただし、給料日に7万円を先取りで自動積立に回し、残りで暮らしてみると、これは貯蓄であると同時に、一人暮らしの家計に耐えられるかの予行演習をしてみましょう。年84万円。新NISAのつみたて投資枠を併用すれば、5年後には独立資金にも老後資金の種にもなります。
2.家に入れる3万円の意味を変える
金額そのものより、両親と家計の話をする入口にすることを勧めました。年金はいくらか、この家の維持費は年いくらか、介護になったら誰がどう動くのか。芽衣ちゃんの一言より、本当はこちらのほうがずっと重いテーマです。親の家計を知らないままの同居は、いずれ準備のない相続と介護に直結します。
3.期限を決める
実家を出るなら何年後、残るならなんのために残るのか。介護を見据えて同居を続けるのも、立派な選択です。ただしその場合も、家賃相当の積立と家計の見える化はセット。ずるずる続く実家暮らしと、目的のある同居は、家計的にはまったくの別物です。
相談を終えるとき、誠さんはこういいました。
「お盆に、また芽衣が来るんです。今度あの質問をされたら、オジサンはいま、自分の家を持つ準備をしてるんだよ、って答えます。嘘にならないように、今日、積立の手続きをして帰ります」
「早く夏休みが終わってくれ」というぼやきの正体は、姪への気まずさではなく、自分の将来から目を背けてきたことへの後ろめたさだったのでしょう。
実家暮らしは、それ自体が悪いわけではありません。恐ろしいのは、親の年金という見えない仕送りに支えられた家計を、点検しないまま50代を迎えることです。子どもの無邪気な一言は、ときにどんなライフプラン表よりも正確に、家計の急所を突いてきます。もし胸がざわついたなら、それは家計を見直す合図なのかもしれません。
波多 勇気
波多FP事務所 代表
ファイナンシャルプランナー

