申請しないと「年42万円」の損…ねんきん定期便には載っていない「隠れ年金」をもらえる人の"2つの条件"

■「家族手当」の年金バージョンがある
会社員(58歳)。子どもは独立し、パート勤務の妻と2人暮らし。定年が近づき、「退職金はどう受け取るのがいいのか」「年金だけで暮らせるのか」と気になることが増え、定年前後のお金に詳しいみなみ先生に相談することになった。
チャ太郎さん、夫婦世帯に限られますが、通常の年金にプラスしておよそ年約42万円も受け取れる年金があるのをご存じですか?
――初耳です! そんな仕組みがあるんですか?
「加給年金」という制度があります。会社員時代に「家族手当」をもらっていた人も多いと思いますが、加給年金はその年金バージョンと考えるとわかりやすいでしょう。家族を支えている世帯を国がサポートするという趣旨で設けられた制度です。
――年金にもそんな仕組みがあるんですね。
しかも、この年金は申請しないともらえないので、知らずに取りこぼしてしまう人が少なくありません。ここが非常に大事なポイントです。さらに注意してほしいのは、「ねんきん定期便」にはこの加給年金の情報が書かれていないということです。だからこそ、知っているかどうかが将来の受取額を大きく左右するんです。
■加給年金をもらえる「2つの条件」
――そんな大事なことが「ねんきん定期便」には書いてないんですね……。どんな人が対象なんでしょうか?
実際、「そんな制度があったなんて」と驚く人が結構います。加給年金は、厚生年金や共済年金の加入期間が20年以上ある人が、一定の条件を満たす配偶者や子どもがいて、そのご家族がご本人によって生計を維持されている場合に支給されます。対象となる家族や収入の条件などは図表1をご覧ください。

――要件がいろいろあって複雑なような……。
少し複雑に見えますが、簡単にいえば、65歳未満の配偶者や成人していない子ども(18歳になった年度の3月31日までの子)がいて、配偶者や子どもの年収が850万円未満(※)であれば受給できます。
※子どもも制度上、年収の上限があり、障害のある子どもについては20歳未満が対象
■65歳まで毎年約42万円が支給される
――なるほど。年齢だけじゃなく、年収の条件もあるんですね。うちは妻が3歳年下で、年収100万円くらいなのですが……。加給年金を受け取ることはできますか?
チャ太郎さんのケースでは、チャ太郎さんが65歳になる時点で奥さまが65歳未満ですから、要件を満たします。申請すれば加給年金を受け取れる可能性が高いですね。ちなみに、「配偶者」の性別は問いません。年金は「世帯」で考える制度ですから、夫婦どちらが受給者でも同じように扱われます。
――なるほど。よくわかりました。実際、どのくらいの金額が上乗せになりますか?
配偶者分が24万3800円。さらに受給権者の生年月日に応じて「特別加算」という上乗せがあり、1943年4月2日以後生まれの人は17万9900円が加算されます。つまり、年間で42万3700円(2026年度)になります。申請さえすれば年に約42万円が上乗せされます。これを放置するのは非常にもったいないですね。

――なんと約42万円! それは大きいですね。
しかもこの金額は、配偶者が65歳になるまで毎年支給されます。配偶者が65歳になると終了しますので、夫婦の年齢差が5歳なら5年間、10歳なら10年間分が加算されます。チャ太郎さんのご夫妻の場合、約3年間でおよそ127万円受け取れる計算になります。
■「年の差夫婦」ほど長くもらえる
――ということは、同じ歳の夫婦だと、もらえる期間は短いんですね。
その通り! 同じ歳のご夫婦の場合、誕生日のタイミングによってはほんの数カ月しか支給されません。だからこそ、年齢差や家族構成をしっかり確認しておくことが大切です。家族の年齢を意識しておくと、思わぬ形で老後の年金額が増えることもあるんです。
――知らなかったら、まるごと取りこぼしていたかもしれません。
加給年金は「知らないともらえない」制度です。もう1つ大事なのが判定のタイミング。原則として65歳時点で一度だけ判定されます。
――えっ、一度きりなんですか? そのときに要件を満たしてないとダメってことですね。
そうなんです。65歳の時点で、配偶者が65歳未満で生計を維持していれば対象になります。でも、そのときに死別や離婚していたり、内縁関係で証明書類がない場合は対象外になります。
――じゃあ、結婚のタイミングとかも影響しますか?
はい。これも意外な盲点です。例えば中高年で再婚を考えている場合、65歳までに婚姻関係が成立していないと、加給年金は加算されません。
■「厚生年金20年以上」に満たない場合
――つまり、タイミング次第で約42万円もの差が出るんですね。
もう1つ知っておきたいのが、厚生年金の加入期間です。原則20年以上必要ですが、65歳時点で足りなくても、65歳以降に働いて厚生年金に加入すれば、在職定時改定制度により毎年10月に加入期間が反映されます。在職定時改定時(※)に20年に達した時点で、要件を満たせば加給年金が支給されます。
※65歳到達後(または定額部分支給開始年齢に到達した後)、被保険者期間が20年以上となった場合は、在職定時改定時、退職改定時(または70歳到達時)に生計を維持されている配偶者または子がいるときに加算される
――つまり、リタイアするのを遅らせることでもチャンスがあるということですね!
最近では65歳を過ぎても働く人も増えていますから、要件を満たせる可能性が高いですよ。

――ところで、申請手続きはしないと受け取れませんよね?
はい、必要です。申請は、年金事務所や街角の年金相談センターで行います。65歳の約3カ月前に届く「年金請求書」に、配偶者や子どもの情報を正しく記入してください。書き漏れがあると支給されないこともあるので、注意が必要です。
■5年の時効を過ぎるともらえない
――うっかり書き忘れると、もらえるはずの年金を逃す可能性もあるんですね。もし、申請を忘れたらどうなりますか?
加給年金には「時効」があって、申請が遅れても5年以内ならさかのぼって受け取れます。ただし、5年を過ぎた分はもらえなくなってしまうので、できるだけ早めに手続きすることです。
――つまり、70歳までに申請すれば間に合うってことですか?
正確には、65歳から5年以内、つまり70歳の誕生日の前日までに申請すれば間に合いますよ。
――わかりました。事前に該当するかどうかチェックしておくことで、申請忘れが防げそうですね。
そうですね。年金は「納めたら終わり」と思われがちですが、申請することでプラスになる制度もあります。加給年金はその代表格。いわば「もらい忘れ年金」の要です。
――大事なことだから、同世代の友人にも伝えておきます!
ぜひそうしてください。年金を「もらう権利があるものは、確実にもらう」。それが老後資金を最大化するコツです。知っているだけで安心が1つ増えますし、世帯単位でしっかり備えておけば、老後の選択肢が広がりますよ。
■65歳から上乗せされる「振替加算」
――みなみ先生、加給年金は配偶者が65歳になるまで支給される「家族手当」のようなもの、ということでしたが、65歳を過ぎたらこの年金はなくなってしまうのでしょうか。
はい、たしかに加給年金は、配偶者が65歳になると支給が終わります。ですが、条件によっては完全に終了というわけではないんです。配偶者が65歳になったときに、今度はその配偶者の年金に「振替加算」が上乗せされるようになります。
――上乗せされる……? 具体的にはどうなりますか?
例えば夫の年金に加算されていた家族手当のようなお金が、終了のタイミングで妻自身の年金に移動する、というイメージです。
――完全になくなるわけではないんですね。
ただし、誰でも対象というわけではありません。そもそも振替加算は専業主婦が多かった世代への配慮として設けられた制度です。そのため、現在50代の人たちは対象外になる人が多いと思いますが、知っておいて損はしないので覚えておいてほしいです。
■国民年金がなかった世代への救済制度
対象者は、1966年4月1日以前の生まれの配偶者で、配偶者自身の厚生年金(共済組合などを含む)の加入期間が240カ月(20年)未満であること。これらを満たす人が対象になります。


――妻は1971年5月生まれの今年55歳なので……。
残念ながら振替加算の対象外ですね。1966年4月2日以降に生まれた人は、20歳から国民年金に加入する制度が整っている世代です。つまり、すでに自分の年金が確保されているという前提で、この制度は適用されなくなったんです。
――うちは加給年金まではもらえるけど、振替加算はないんですね。
チャ太郎さんのケースでは、チャ太郎さんが65歳のときに奥さまは62歳です。奥さまが65歳になるまでの約3年間、加給年金は受け取れるのですが、それ以降の振替加算は対象になりません。
■今年60歳の人には年1万6235円
――振替加算はいくらくらい加算されるんですか?
加算される金額は配偶者の生年月日によって変わってきますが、若い世代ほど受け取れる金額が少なくなります。2026年以降65歳を迎える人が加算される額は、年間約1万6000円になります。

――少しでも上乗せがあるのはうれしいですよね。
たしかに加給年金に比べると少額に感じるかもしれませんね。ですが、一生涯加算され続けますよ。さらに、振替加算は加給年金の受給者本人が亡くなったとしても、配偶者は振替加算を一生受け取ることができる点もポイントです。
■「つい申請を忘れてしまう」落とし穴
――加給年金と同様に請求しないともらえないのでしょうか?
年金請求時に夫婦の基礎年金番号や生年月日を正確に記入していれば、原則振替加算が行われるのですが、例外として申請が必要なケースもあります。こういう人、申請漏れが多いんですよね。
――申請を忘れやすい人は、どんなケースですか?
まずは、「配偶者が年上のケース」。図表6の例のように、加給年金は受け取れませんが、夫が65歳になった時点で要件を満たしていれば、振替加算を受け取ることができます。このタイミングでの申請が必要です。

――加給年金は対象外でも、振替加算は対象になるんですね。
もう1つは、「あとから要件を満たすケース」。先ほどご説明した通り、受給者が65歳時点では加入期間が不足していても、のちに加給年金の支給対象となり、それに伴って振替加算も受けられることもあります。この場合も申請が必要です。
――なるほど。意外な落とし穴があるんですね。
そうなんです。対象外と決めつけず、可能性があれば年金事務所で確認してくださいね。
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社労士みなみ(しゃろうしみなみ)
社会保険労務士 YouTuber
年金の最大化と、社長・従業員の退職金設計、企業型DCの導入支援を専門とする社会保険労務士。登録者29万人を超えるYouTubeチャンネルを運営し、主に50代〜60代の会社員に向けて、定年前後のお金の不安を解消する情報を発信している。大手銀行で資産運用アドバイスに携わり、20代から長年にわたり資産運用を継続。50代で社労士として開業し、主婦としての実感を生かした「生活者目線」の解説が支持されている。著書に『年金最大化生活』(アスコム)、『50代からのお金の新常識』(かや書房)がある。
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