「やりやがったな!」離婚後、年金機構から届いた“衝撃の封書”…年金300万円・65歳夫だけを老後破産危機に陥らせた、年下妻からの容赦ない一撃【FPが解説】
「子どもも独立したし、これからは夫婦水入らずでゆっくり過ごしたい」--そんな夫の期待とは裏腹に、妻は別の第二の人生を思い描いていることも。本記事では、Aさんの事例から、年金分割のリアルな実態について、合同会社ミコサポ代表の三藤桂子FPが解説します。※事例はプライバシー保護のため、一部脚色しています。
いよいよ定年、描いた理想の老後
Aさんは大学卒業後、いわゆるバブル世代として大企業に入社した元サラリーマンです。給与は順調に増えましたが、社内にはAさんよりスキルの高い同世代も多く、昇進するのは至極の業でした。生き残れるよう、現役時代は歯を食いしばりながら働いてきたのです。
定年が近くなり、老後が現実味を帯びてくると、退職金と年金で悠々自適な第二の人生を送ることを思い描くようになりました。妻と旅行を楽しみ、小型犬でも飼ってのんびり過ごしたい--。以前、妻に対して「子どもも独立したし、小型犬でも飼ってのんびり過ごしたいね」とそれとなく話したこともありましたが、そのときは「そうね」と聞き流されたような感じでした。
年金事務所で知った「加給年金」の存在に頬を緩める夫
Aさんは昭和36年(1961)5月生まれ。妻は8歳年下の昭和44年(1969)生まれです。
65歳からの年金受給を前に、Aさんは自分の年金がどのくらい受け取れるのか、年金事務所へ相談に行きました。そこで知ったのは、受給額が約260万円になるとのこと。
「そんなに出るのか。歯を食いしばって頑張った甲斐があったな」と、思わずにやにやしていたところ、年金事務所の職員からさらに嬉しい知らせがありました。
「Aさんの65歳時、年下の配偶者がいるので、配偶者が64歳になるまで家族手当である加給年金が加算され、合計で約300万円になりますよ」
「なるほど、妻が専業主婦だから手当てがつくのか」とAさんは納得しました。妻が65歳になれば妻自身の年金が受け取れるため、加給年金がなくなっても、夫婦合わせて年間350万円は受け取れそうです。これなら老後はのんびりできると、Aさんは軽い足取りで帰途につきました。
「今日こそは妻と、生涯設計の話でもしよう」
そう意気込んで帰宅したAさんでしたが、妻の口から飛び出したのは、Aさんが思い描いていた第二の人生とはまったく異なる、絶望的な言葉だったのです。
妻の未来に夫がいない…
妻は、自身の思い描く生涯設計を語りはじめました。
「私は家事の傍ら勉強して資格を取りました。あなたと違って、ゆっくり老後を過ごすつもりはありません。むしろこれから開業して生涯現役を目指して働きたい」
驚くAさんに妻は畳みかけます。「あなたと将来設計の考え方が違うなら、これからは、それぞれの道を歩みたい」それは、妻からの「卒婚」の申出でした。現役時代、Aさんが外で働き、妻が家庭を守るというスタイルでやってきましたが、妻は夫が仕事をしているあいだや子育ての合間を縫って資格を取得し、自分の第二の人生に向けて準備を進めていたのです。
夫婦間の意識のギャップが、退職を機に表面化し、卒婚になることがあります。現役時代は夫が外で働き妻が家庭を守るというスタイルでしたが、妻は夫が仕事している間、子育ての合間で資格を取得し、第二の人生に向かって動いていたのです。
夫婦の意識のギャップは、相手に大きな非があるわけではなくても、退職などのライフイベントを機に表面化し、卒婚や離婚につながることがあります。性格の不一致(価値観の相違)が代表的ですが、離婚となれば、夫婦で築いた財産(退職金や年金など)は一般的に半分ずつわけることになります。
老後は夫婦でのんびり安泰だと信じていたAさんの生涯設計とは裏腹に、妻の設計図からは、Aさんの存在が消え去っていました。
協議離婚の末路
妻からの離婚の申出に反対していたAさん。しかし妻は「協議が無理なら調停をする」と言い出し、離婚調停なんてしたくないと思っていたAさんはしぶしぶ離婚に応じます。
ただ、Aさんはそもそも離婚することに納得していないため、条件を付けました。婚姻期間中に築いた貯蓄等を半分にわけることには承諾するものの、年金分割には合意しないという条件です。
ところが離婚からしばらくして、Aさんのもとに目を疑うような通知書が届きます。それは「年金分割の通知書」でした。驚いたAさんが慌てて年金事務所に連絡すると、年金分割には「合意分割」と「3号分割」の2種類があることを知らされます。
合意分割は2人が合意することにより、婚姻期間中の厚生年金部分をわける制度です。一方、3号分割は婚姻期間中の国民年金第3号被保険者期間の相手側の厚生年金部分を法律上当然に半分にする制度です。3号分割は相手の合意がなくても1人で手続きできます。
妻が手続きをしたのは、この3号分割でした。この制度は平成20(2008)年4月以降の第3号被保険者期間について、「夫の厚生年金の保険料は夫婦共同で負担したもの」とみなし、厚生年金の報酬比例部分の50%を妻に分割するというものです。Aさんは晩婚だったので、3号制度が始まる5年前に結婚していました。そのため、制度開始前の5年分については分割されなかったものの、それ以降の期間については妻の単独の手続きによって分割されてしまったのです。
年金分割はしないと決めたのに、「やりやがったな!」とAさんは憤慨します。年金事務所に取り消しを求めましたが、制度上不可能であることがわかり、打ちひしがれました。
元妻に連絡すると、容赦ない一撃が返ってきます。
「年金分割は合意しないとあなたがいったので、合意を必要としない3号分割にしたのよ」
協議離婚の際、手元のまとまった老後資金はすでに半減しています。それに加えて、頼みの綱だった厚生年金までもが「3号分割」によって大幅に減額されてしまったのです。当然、離婚したことで妻を対象とした「加給年金」も受け取れません。
想定していたよりもずっと少ない年金収入と、半分になってしまった貯蓄。一方で、一人暮らしになっても住居費や基本の生活費が半分に減るわけではなく、支出の負担は重くのしかかります。このままでは、長生きすればするほど資金が底をつき、生活が立ち行かなくなる「老後破産」に転落する可能性が高い状況です。
働き方や日々の生活スタイル、夫婦の年齢差などによって、夫婦の考え方は必ずしも一致しているとは限りません。お互いが歩み寄れず、本音を隠したまま長年過ごしてしまうと、退職を機に今回のような卒婚や離婚、最悪の場合は老後破産につながる恐れがあります。
〈参考〉
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/kyotsu/rikon/20140421-04.html
三藤 桂子
合同会社ミコサポ
代表

