宝塚にアフタヌーンティー!多くの人の想像を超える「令和の三国志ブーム」はどこまで行くのか

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こんにちは。ラジオ局・ニッポン放送アナウンサーの箱崎みどりです。

仕事では、プロ野球中継の「ニッポン放送ショウアップナイター」、有働由美子さんの「うどうのらじお」のレポートなどを担当しているのですが(ラジオのAM1242/FM93や、radikoでお聞きいただけます!)、趣味で「日本で三国志がどう愛されてきたのか」を考えています。

2022年に「令和の三国志ブームが来ている」と書き、その後もブームを牽引し続ける漫画『パリピ孔明』とそのメディアミックスを中心に、三国志ブームを追いかけ現代新書Webで記事にしてきましたが、2026年は、遂に! 三国志が、宝塚とアフタヌーンティーに! ともに、女性ファンが多いことで知られる特別な体験の中で三国志が扱われています。

(ちなみに、漫画『パリピ孔明』も、大物政治家が登場し物語はクライマックス! お見逃しなきように。)

この記事では、宝塚歌劇月組「三国志炎戯『RYOFU』」と「チャイニーズアフタヌーンティー三国志」について、30年来の三国志ファン目線のレビューをお伝えしつつ、三国志から見る日本文化史について語ろうという試みです。宝塚ファン、アフタヌーンティー愛好家の方には、三国志ファンの視点で見てどんなに凄い取り組みだったのかを、ぜひ読んでいただきたいです! また、これから体験しようという方のご参考にもなればと思います。

(ネタバレを避けたい方は、この先は、それぞれを体験してからお読みくださいませ。)

アフヌンと三国志!?

まず、アフタヌーンティーからご紹介しましょう!

藤枝理子『英国式アフタヌーンティーの世界』(誠文堂新光社、2021年)によれば、1840年頃、イギリスで始まった喫茶習慣・アフタヌーンティーが、日本で注目を集め始めたのがバブル期だそうです。2022年の「第39回 ユーキャン新語・流行語大賞」の候補にも「ヌン活」という言葉が選ばれており、SNS映えすることもあって、現在もアフタヌーンティーの隆盛は続いています。

新宿にあるヒルトン東京のレストラン・中国料理「王朝」では、2026年4月28日から、「チャイニーズアフタヌーンティー三国志」がスタート。9月30日まで予約できます。

発表時から、異色の組み合わせが話題になった、三国志アフタヌーンティー。

「【まさか】斜め上すぎる「三国志」アフタヌーンティー!? 名場面を料理で再現メニューがすごい」(ぴあニュース)では、

「アフヌンと三国志!? 一見ミスマッチにもほどがあるのでは…と思ってしまいますが、そのこだわりは本物。」

と書かれ、「話題沸騰!ヒルトン東京「チャイニーズアフタヌーンティー三国志」全メニューを徹底解説」(ホテルレビューン)には、

情報解禁と同時に瞬く間に注目を集めSNSでトレンド入りするなど、今話題のヒルトン東京の「チャイニーズアフタヌーンティー三国志」

三国志を知っている人はより深く楽しめ、知らない人でも料理を通じてその世界観の入り口に立てる。そんな"食べる体験型エンターテインメント"として、SNSでも「斜め上すぎる」「ガチすぎる」と大きな話題を呼んでいます。

と、その注目ぶりがまとめられています。

私は6月の平日に行ってきましたが、「チャイニーズアフタヌーンティー三国志」を頼む方の多いこと! 11時半の開店からほどなくして5組ほどのテーブルにアフタヌーンティースタンドが並んでいました。女性同士のグループに加えて、男女ペアが散見されたのも、特徴的ではないでしょうか。

さて、「チャイニーズアフタヌーンティー三国志」の内容を紹介していくだけでも紙幅がいっぱいになってしまいそうな、品数の多さと込められたこだわりは、ぜひ公式サイトをご覧ください。

メニューをおおまかに分類すると、「天下三分の計」「桃園の誓い」「草船借箭」「江東の甘露」「天命のしずく」、そしてメインディッシュの「赤壁の戦い」と、計略や出来事、イメージをモチーフにしたものと、「貂蝉の艶」「曹操の策」「諸葛亮の一手」「呂布の一撃」「周瑜の風」「大喬・小喬の杏仁豆腐」「孫尚香のお団子」と、人物を表現したものに大別できます。

中でも、分かりやすく料理に落とし込んだと感じたのは、「草船借箭」。

敵陣から十万本の矢を“借りる”という、諸葛孔明の奇策「草船借箭」から着想。鮑を船に見立て、黄ニラともやしで矢を表現しました。(公式サイトより)

たくさんの矢が載った鮑でできた小さなミニチュアのひと船から、長江を行く船団や十万本の矢がイメージされます。さらに、この鮑が柔らかくてとっても美味しい! 黄ニラともやしの矢もまた違った食感で、見た目だけではない、調和のとれた一品でした。

また、一番衝撃的だったのが、「赤壁の戦い」。

低温調理された黒毛和牛を、四川朝天辣椒、唐辛子、山椒でスパイシーな香り炒めに仕上げているのですが、刺激的な辛さ! 激辛料理が大好きな私でも「辛い!!」と思って解説を読むと「立ち上る香ばしさと刺激が一気に広がり、水上に炎が走り戦局を覆した瞬間を想起させる、料理長渾身の一皿。」とありました。突如炎が上がり熱に翻弄された船上戦の様子を、アフタヌーンティーの場で、身体的な刺激を伴って追体験することになるとは思ってもみませんでした。

人物モチーフの料理も、「貂蝉の美貌」をバラとザクロで、「曹操の二面性」を甘エビと四川青山椒で、「周瑜の華やかさ」を白身魚のフリットと柑橘の香りで、などと、メニュー説明を読むと共感できるイメージが、複雑な旨味を複合させた美味しい料理になって口内に届く、不思議な体験でした。

「呂布の一撃」では、薄く揚げた球状の生地「パニプリ」が登場。その中に、ポークベリーが入っています。「パニプリ」はインド料理だそうですが、見た目のインパクト、食感の衝撃、そして、中のポークベリーの圧倒的な存在感! アフタヌーンティーの非日常感と、当時の人々にも衝撃を与えたであろう呂布の異次元の強さが融合しているように感じました。また、パニプリを支えるアボカドのソースも絶品で、「説明がないから勝手に陳宮にしようかしら」などと考えるとまた楽しいです。

食べ進めていくと、食べる順番も気になってきて、「曹操を周瑜と孔明で挟もうか、それとも桃園の誓いからの曹操かしら」などと、頭の中が大忙しでした。

ドリンクも、ウェルカムティーの「桃園冷茶」、ティーセレクションの「貂蝉」「孫尚香」「甄姫」「大喬」「小喬」と、こちらも世界観を支えています。

こだわりが詰まった「チャイニーズアフタヌーンティー三国志」。なぜ異色のアフタヌーンティーが生まれたのか、ヒルトン東京・広報の方に伺いました!

このページでは、ヒルトン東京・広報の方の回答を交えてお送りします。

まず、どうして三国志かというと……、

料理長とマーケティング担当者の双方が三国志のファンであったこともきっかけの一つですが、何より「三国志」には印象的な名場面や個性豊かな武将、妃など魅力的な登場人物が数多く登場し、それぞれから着想を得てメニューを考案できる点に大きな魅力を感じました。

お客様にも、いつものアフタヌーンティーとはひと味違う、中国料理「王朝」ならではの世界観とストーリー性を楽しみながらお食事を味わっていただきたいという思いから、今回の「三国志」アフタヌーンティーを企画しました。

とのこと。「三国志ファンが、三国志のストーリーや登場人物を生かして、新たな三国志コンテンツを生み出す」という、日本でよく見られる現象が、アフタヌーンティーでも起こっていたことが分かりました!

ただ、アフタヌーンティーを楽しむのは女性が多い中、題材に「三国志」を選ぶことに、抵抗感はなかったのでしょうか。

アフタヌーンティーのお客様の8割以上は女性ですので、「三国志」をどのように表現すれば楽しんでいただけるか、とても悩みました。一般的なアフタヌーンティーの「かわいらしさ」や「華やかさ」と、三国志の世界観は一見対照的です。そこで今回は見た目だけでなく、物語を楽しむ体験も大切にしたいと考え、すべてのメニューに名前の由来や誕生秘話を記したストーリーをご用意しました。今回の三国志アフタヌーンティーをきっかけに、これまでアフタヌーンティーにあまり馴染みのなかった男性のお客様にも気軽にお越しいただけて嬉しく思います。

確かに、一品ごとのストーリーが書かれたメニューは、読み応え抜群! 私も、食べながら読み返しましたし、ほかのテーブルを見ても、食べながらメニューを手に取っている方が多いように思いました。また、三国志を題材に選んだことで、男性にもアフタヌーンティーが広がっているんですね。

今回のアフタヌーンティーを楽しんだ方の感想を見ると、ゲーム「真・三國無双シリーズ」を想起した方もちらほら。料理長が何をきっかけに三国志を好きになったか、どのようにメニューを考えたのかも、尋ねてみました。

料理長は映画をきっかけに三国志のファンになったそうです。それぞれの武将や妃の人物像をまとめ、そのイメージからメニューのアイデアを膨らませていきました。また、名場面である「赤壁の戦い」は燃え盛る炎をイメージし、口の中が火事になるような刺激的な辛さの唐辛子料理で表現するなど、料理長とブレストをしつつメニューを考えていきました。

「赤壁の戦い」を食べて感じた、炎のような刺激的な辛さは、まさに、料理長の意図通りだったわけですね。

お客様の反応も大変好評とのことで、中国料理「王朝」のアフタヌーンティーとして初めてランチタイムに加え、数量限定ながらディナータイムでも「チャイニーズアフタヌーンティー三国志」が楽しめるようになったそうです。ディナータイムには、お酒と一緒に楽しむ方が多いそうです。

そもそも、「王朝」で、茶器スタンドを用いたアフタヌーンティーが始まったのは、2020年のこと。中国料理「王朝」らしさを表現するため、テーマやメニューには、イメージを膨らませやすい中国エッセンスを取り入れているそうです。確かに、過去のアフタヌーンティーには、「苺」や「花」をテーマにしたものに加えて、「紫禁城にちなんだ高貴な紫」や「楊貴妃と西太后」など、中国史をモチーフにしたものもありました。

私は、「アフタヌーンティー文化の広がりと人気を受けて、毎シーズン、メニューを考案する中で、題材が広がりを持ち、今回、三国志が選ばれたのではないか」と考えていて、その点もぶつけてみました。

2020年から年4回、新しいテーマのアフタヌーンティーを企画しているため、毎回テーマ選びには頭を悩ませています。そんな中、今回「三国志」というこれまでにないテーマに挑戦したことで、企画の幅が大きく広がったと感じています。

アフタヌーンティーと縁遠そうな題材である「三国志」。しかし、挑戦してみたら思わぬ化学反応が生じた、といったところでしょうか。三国志をお好きな方々が、三国志へのリスペクトと情熱を料理に昇華したからこそ、物語を味わう唯一無二の体験ができる素晴らしいアフタヌーンティーが誕生したんですね。

最後に、今後の展望を尋ねると、

三国志には、今回のメニューではご紹介しきれなかった武将や名場面がまだまだたくさんあります。機会があれば、また新たなテーマやメニューでシリーズ化できたら嬉しいです。

とのことで、第2弾を期待して待ちましょう! 「三国志って、アフタヌーンティーの定番だよね」と言われる未来も遠くないかもしれません。

さぁ、続いては、宝塚です!

見たことがない呂布の姿

宝塚歌劇月組「三国志炎戯『RYOFU』」は、2026年4月4日(土)〜5月17日(日)に兵庫県の宝塚大劇場でかかった後、6月6日(土)〜7月19日(日)に東京都の東京宝塚劇場で公演中です。

月組トップスター・鳳月杏が呂布を、月組トップ娘役の天紫珠李がヒロイン・雪蓮(せつれん)を演じます。公式ホームページの作品紹介は、次の通り。

時は189年。古代中国は并州(へいしゅう)にて、猛将・呂布が戦果を上げていた。并州を治める丁原に忠義を尽くす呂布だが、その狙いは并州の奪取。丁原の息子たちを葬り、娘の雪蓮を誘惑し、娘婿として并州の地と兵力を手に入れ、それを足がかりに天下を取ろうと目論んでいた──。

史上最強の武将と謳われた呂布奉先と、中国四大美人のひとりである貂蝉(チョウセン)との因果な愛憎を描く、血と愛と罪が華やかに燃え上がるピカレスクロマン!

これまで様々なかたちで描かれてきた古典・三国志演義を踏襲しながらも、オリジナリティ溢れる全く新しい呂布の物語としてケレン味たっぷりにお届け致します。(公式サイトより)

主人公は、三国志最強の武将と称される呂布。

小説『三国志演義』では、実直な丁原(ていげん)から、帝を手中に収めて暴虐を尽くす董卓(とうたく)に寝返り、さらには美女・貂蝉をめぐって董卓を殺すなど、裏切りを重ねる悪役として描かれる人物です。ただ、強さゆえの行動原理や純粋さなどが魅力的で、呂布のイメージは多面的です。中国伝統劇で人気を博したり、北方謙三『三国志』で愛妻家として描かれたりと、根強いファンを持つ人物です。

そんな呂布を描くにあたり、作・演出の粟田優香は、パンフレットの「「正史」」から「演義」へ。そして「炎戯」へ。」で「三国志には千人以上もの人物が登場しますが、呂布奉先ほど描かれ方が分かれる人物は他に見当たりません」とし、京劇をはじめとする先行作品の解釈にも触れています。そうした中で、先に引いたように「オリジナリティ溢れる全く新しい呂布の物語」を謳う意欲作で、まさに、これまでに見たことがない呂布の姿を描いています。

ではここから、三国志に魅せられて30年の三国志ガチ勢が、宝塚ファンの皆様に知って欲しい、『RYOFU』の凄いところを挙げていきます。

私は、ここ数年、近現代の三国志演劇についても調べていましたが、“日本における三国志演劇史”という観点からも、大変珍しいところが多々ありました。

冒頭に「最大級の謎」

まず、度肝を抜かれたのが、いきなり幕が開きお芝居本編が始まるということ。映画『レッドクリフ』『新解釈・三國志』、スーパー歌舞伎「新・三国志」、明治座の「三国志剣技」などで見られた、三国時代の概要説明はなし! さらに、いきなり主人公・呂布の最期から始まるとは! 観劇する方を信頼したつくりに、冒頭から感激しました。

『劇場版 名探偵コナン』で言えば、「俺は高校生探偵・工藤新一。幼馴染で同級生の毛利蘭と遊園地に遊びに行って〜」から始まる、物語の発端を説明するモノローグがないイメージです。近年の三国志の演劇・実写作品では、とても珍しいと思います。

一方で、冒頭に、曹操・劉備・関羽・張飛という、三国志の中でも有名な登場人物を揃えつつ、呂布の性格と最期を描き、さらに「今、最期を迎えたのは、呂布本人ではない?」と、観る側に最大級の謎まで残す、完璧な導入になっています。

そして、巧さに唸ったのが、呂布と貂蝉が元々夫婦という設定です! 途中まで、丁原の娘で呂布の妻・雪蓮と、貂蝉をどのように繋げるのだろうと思っていましたが、気が付いた瞬間に鳥肌が立ちました!

呂布と貂蝉、そして董卓の三角関係は、朝廷の高官・王允(おういん)が仕組んだもので、「連環の計」と呼ばれます。『三国志演義』最大のロマンスであり、かつ、帝の許で専横をほしいままにしていた董卓が亡くなる原因となる、重要な計略。『三国志演義』では、貂蝉は王允が育てた歌い女で、王允への恩返しのため董卓を討つことを志願。呂布と董卓が対立するよう立ち回ります。

実は、呂布と貂蝉が初めから夫婦だという設定は、中国の元代の雑劇や、『三国志演義』のベースになった本『三国志平話』などで見られるものです。様々な三国志の物語をまとめあげ定本となった『三国志演義』に載っていないため、呂布と貂蝉が夫婦だった設定は、日本ではあまり知られていないように思います。

日下翠『中国戯曲小説の研究』(研文出版、1995年)や竹内真彦『最強の男 三国志を知るために』(春風社、2020年)によれば、雑劇では貂蝉は元々宮女で、帝から丁原に与えられ、丁原の養子・呂布の妻となります。その後、戦乱で呂布と離れ離れになった貂蝉は王允の庇護を受け、董卓の専横が強まる中で自らが呂布の妻だと明かします。王允は、呂布を怒らせるために貂蝉を董卓に送り、怒った呂布が董卓を討って、夫婦は再び結ばれ大団円、というお話だったそうです。雑劇のあらすじだと、貂蝉の動きに不自然さがあるのですが、『RYOFU』ではストーリーの中で見事に昇華しています。

私は、長い年月をかけて紡がれてきた三国志を、現代の作家たちがどう合理化してきたのかにも興味があり調べていますが、『三国志演義』よりも古い二人の絆を蘇らせつつも違和感を除いた巧みさは、特筆すべきものだと感じています。

なお、元雑劇をベースにし貂蝉が登場する演劇に、1926(大正15)年に帝国劇場で上演された『妖婦』があり、その脚本を劇作家協會編『大正十三年版 日本戯曲集』(新潮社、1924年)で読むことができます。

その他にも、三国志ベースの登場人物が多いところも、三国志演劇としては、大変珍しいです。たくさんの人物が登場する三国志と矛盾しているようですが、舞台は時間の制約も大きく、また分かりにくくもなるからか、名前の紹介は主要人物に絞ったり、オリジナル人物を活躍させたりすることがほとんどです。

董卓配下の名乗りで、董卓の知恵袋・李儒(りじゅ)、豪傑・華雄(かゆう)だけでなく、牛輔(ぎゅうほ)・李粛(りしゅく)まで! 牛輔と李粛が日本で演劇化されたのは、管見の限り、初めてではないかと思います。一方で、丁原の実の息子など、三国志に描かれていないところはオリジナル人物で補われていて、そのバランスも絶妙だと感じました。

さらに、宝塚歌劇の凄さを感じたのが、少年皇帝・劉弁(りゅうべん)のいとけなさを見事に表現されていたこと。劉弁の母・何(か)皇后の董卓に怯えつつも強く出るところも秀逸で、この場面が、現代日本で舞台化されるとは思っておらず、とてもびっくりしながら感動しました。

劉弁もまさに劉弁なら、漢王朝最後の皇帝となる劉協(りゅうきょう)も、劉協らしさが光っていました。劉弁亡き後、皇帝に即位した劉協。董卓と丁原の間で揉め事が起こった時に、敢えて丁原を叱責し、傀儡皇帝としてできる範囲で事を収めようとする聡明さが描かれていました。一言のセリフでも、劉協の聡明さが十二分に発揮される印象的なシーンです。

最後に触れたいのが、新しい董卓像!

董卓は、丸々太っていて、残忍暴虐、酒色に溺れるイメージで描かれることが多かったのですが、近年、新しい董卓像が出てきています。杉山惇氏の漫画『暴喰の董卓』では、新たな政策を模索し国を立て直そうとした意図があったという董卓像を描いています。第1話に、呂布も赤兎馬も出てきますよ。

『RYOFU』の董卓は、王允を疑わず娘を受け入れるのではなく、王允の自分への叛意を分かった上で娘を差し出させようとする、より一層、残忍で狡猾な人物。さらに、部下たちに「変わってしまった」と語らせることで、『暴喰の董卓』にも通じる、良き為政者像まで纏っていて、董卓がどんな人物だったのかという解釈が、1800年以上後の令和の日本で歩を揃えるように深化していく不思議を感じています。

ところで、余談ですが、宝塚のチケットは激戦ですね! 販売初日に待ち構えて購入しようとしましたが、立ち見席しか取れず……。ですが、月組の皆さまの溜息の出るような美しさ、圧倒的な歌唱力、迫力ある立ち回り、そして、三国志の人物たちを顕現させるかのような圧巻の舞台に、疲れを感じずに大満足の観劇となりました。

今から観たいという方、東京宝塚劇場の千秋楽公演は、ライブ配信、ライブビューイングが行われるそうです。ブルーレイ・DVDは8月に発売されますので、気になった方はぜひ!

異色の組み合わせは必然だった

昨年、私は、明治以降の三国志演劇について論文を書き、1967(昭和42)年の東宝35周年記念「三国志」を中心に扱いました。菊田一夫の脚本によるこの劇は、貂蝉を「娥眉(がび)」というオリジナルキャラクターに置き換えています。曹操への淡い恋心を抱えながらも、曹操の野望のために「連環の計」に身を投じた娥眉の悲恋が主題です。物語の結末で曹操も娥眉への想いを自覚しますが、娥眉は、長年連れ添った呂布への情を優先させる、というお話でした。

『RYOFU』のヒロイン・雪蓮は、娥眉同様に過酷な状況に置かれながらも、娥眉と同じように、自らの意志で歩む道を選んでいきます。呂布と雪蓮の最期を観て、約60年の時を経た東京宝塚劇場に、菊田一夫の紡いだ物語も重なって、思わず涙ぐみながら観ていました。

さて、ここまで書いてきたように、三国時代の人々は実在しますが、その後の物語は膨大に紡がれて、様々なイメージを纏っています。

「チャイニーズアフタヌーンティー三国志」のように、共通のイメージを料理にすることで共感しながら味わうことができたり、『RYOFU』のように、伝承や既存のイメージを活用しつつ新たな解釈を持つ作品を生み出したりできるのが、三国志の懐の深さです。

日本では、江戸時代に『三国志演義』が翻訳され、一大ブームを巻き起こしました。絵本や歌舞伎はもちろん、パロディ小説や川柳、お祭りの山車、見世物、五月人形など、さまざまな場面に三国志が登場しました。私は、近代以降の日本における三国志の、小説・評伝・ラジオ・演劇などについて調べてきましたが、どれも、当時流行したり、娯楽の中心だったりしたもの。何か流行るもの、人気のものがあると、三国志が題材になる、という流れが、江戸時代以降続いています。いわば、三国志から日本文化史が浮かび上がってくるのです。(詳しくは、拙著『愛と欲望の三国志』をご笑覧ください!)

ともに女性人気が高い体験であるアフタヌーンティーと宝塚で、なぜか三国志が取り上げられる令和という時代。三国志から見る日本文化史の視点で考えると、必然とも言えるでしょう。いつも、人気のものに取り入れられる三国志。人々は、耳目を集める異色の組み合わせや、これまでにない新しい刺激を求めていて、三国志は、そんな現代の欲望も受け止めているのです。

【参考文献】

『TAKARAZUKA 東京宝塚劇場 月組公演』パンフレット(阪急電鉄株式会社歌劇事業部、2026年6月6日)

『ル・サンク』(vol.254、通巻413号、2026年5月号)

箱崎緑「近代日本演劇における三国志 ―東宝三十五周年記念「三国志」を中心に―」(『三國志研究』第20号、2026年)

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