ジムに通い、プロテインを欠かさない。たんぱく質を意識して肉を食べている――。それなのになぜか筋肉が思うようにつかない、むしろ年々落ちていく気がする。そんな人は少なくないだろう。実は、筋肉量を左右するのは、「たんぱく質をどれだけ摂るか」ではないという。長寿地域の研究や、国内外の報告が指し示すのは、私たちが日常的に口にする「ある飲み物」の存在だ。

■虚弱な人は、豆不足

国内有数の「長寿地域」として知られる、京都府の北部に位置する京丹後地域。京都府立医科大学大学院医学研究科の内藤裕二教授らは、「なぜ京丹後地域の住民は長生きなのか」を調べるため、2017年から疫学調査「京丹後長寿コホート研究」をスタートした。すると京丹後地域の2市2町(京丹後市、宮津市、与謝野町、伊根町)では、サルコペニア(筋肉量減少や身体機能の低下)、フレイル(身体能力低下に加えて、精神的・社会生活面にも衰えがみられる虚弱状態)、そして認知症のグループが極めて少ないことがわかった。

つまり単なる長生きでない、“元気な”住民が多いのが特徴なのだ。

年を取ってもサルコペニアやフレイルにならないということは、加齢とともに低下しやすい筋肉量を維持できているということでもある。

「長生きしたいなら、肉を食べよ」とよくいわれる。だが、京丹後地域では肉類の摂取量は決して多くない。たんぱく質の摂取源として圧倒的に多いのは、魚類なのである。次に全粒穀物、3番目に肉類だ。しかも肉類では、大腸がんリスクを増加させるといわれるレッドミート(牛肉、豚肉、羊肉)ではなく鶏肉が中心という。そして4番目に、なんと豆類が続く。

筆者撮影
京都府立医科大学大学院医学研究科の内藤裕二教授 - 筆者撮影

内藤教授らは京丹後地域の65歳以上の786人の住民の虚弱と栄養摂取、食事パターン、および腸内細菌叢などを分析し、「フレイルの人は、豆摂取が少ない(※https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39345290/)」という、興味深い論文を2024年に発表している。

「豆類には食物繊維をはじめ、たんぱく質、ビタミン、ミネラルなど幅広い栄養素が含まれます。日本では豆といえば大豆ですよね。もちろん大豆からつくられる豆腐や納豆もいいですし、京丹後では分厚い厚揚げが親しまれています。私は今年のGWに世界トップクラスの平均寿命として有名なコスタリカに行ってきましたが、そこではガチョピントと呼ばれる料理が朝食の定番。ワンプレートには米と豆がのっていたのです」(内藤教授)

■筋肉が落ちる原因のもっとも重要なこと

内藤教授は、そのまま食べられる蒸し豆や煮豆のパックを活用し、それらをサラダに振りかける、味噌汁に入れる、カレーで肉の代わりに入れるなどを勧める。

私はその説明を聞きながら、元気な長寿を目指すなら「たんぱく源に豆類を含めることがポイントなのか」と感心していた。しかし、続いて次の言葉に仰天してしまう。

「京丹後長寿コホート研究ではまだ発表していませんが、筋肉が落ちる原因のもっとも重要なことはたんぱく質摂取が足りないことよりも、砂糖の摂取です」

内藤教授によれば、砂糖の摂取量が多ければ多いほどサルコペニアになるリスクが上がる、というのだ。

「これは京丹後地域だけでなく、世界的な報告からも“砂糖が筋肉を減らしている”というのは間違いありません」

ここでいう砂糖とは、炭水化物に含まれる糖質や、果物の果糖を指しているのではない。ジュースや菓子類、加工食品に含まれる「添加糖」である。主食(炭水化物)や果物には糖質とともに食物繊維など他の成分が含まれているため吸収がゆるやか。ところが添加糖を含む食品の中でも、特に「飲み物」にしてしまうと、糖が過剰になる上に吸収もされやすい。

管理栄養士の望月理恵子氏がある論文「日常的に砂糖入りの飲料を飲む頻度が高い人ほど、筋肉量が不釣り合いに減少している」(https://www.mdpi.com/2072-6643/14/22/4917)を紹介しつつ、こう話す。

「近年、世界中で砂糖入り飲料の消費量が増えています。これは特に青少年への影響を調べたものですが、男女ともに砂糖入り飲料の摂取頻度が高いほど筋肉量指数が低く、筋肉量減少と関連していることが明らかにされています」

本人提供
管理栄養士の望月理恵子氏 - 本人提供

■なぜ筋肉を減らすのか

なぜ砂糖が筋肉を減らすのか。メカニズムは大きく二つある。

ひとつは「糖化」だという。望月氏が続ける。

「砂糖の摂りすぎは体内のたんぱく質と糖が結合してしまい、たんぱく質の正常な働きが損なわれて、進行すると老化物質AGEが発生します」

つまりこういうことだ。

飲食で摂りすぎて血中に余ったブドウ糖(糖質)が、体の重要な構成因子であるたんぱく質にくっつき、たんぱく質が劣化してしまう。これを糖化反応といい、このとき老化を促進するAGEという悪玉物質ができる。

糖化が初期の段階であればたんぱく質は元の形に戻ることができるが、糖化が長期間続くとたんぱく質は劣化、変性し、AGEとなって元の正常な形のたんぱく質に戻れなくなってしまう。

AGEは筋肉だけでなく、肌のたるみや血管の硬化など全身の老化やさまざまな機能障害に関わることが知られている。砂糖が、筋肉の元になるたんぱく質そのものを劣化させてしまうということだ。

もうひとつの砂糖が筋肉を減らす理由は、「インスリン抵抗性と炎症」だ。糖分を多く摂取すると、筋肉に炎症が生じて血糖値を下げるインスリン(ホルモン)が過剰に分泌され、やがて筋肉の細胞がインスリンに反応しにくくなる。これをインスリン抵抗性という。

「インスリンには血糖を下げるだけでなく、アミノ酸(たんぱく質)を筋肉に送り込む重要な役割もあります。この働きが衰えると筋肉が合成されにくくなるのです」(望月氏)

■コンビニや自動販売機で当たり前に手に入る

長年、平成横浜病院で総合健診センター長を務めてきた東丸貴信医師も、「過剰な糖分摂取は、炎症とインスリン抵抗性を引き起こす」と説明する。

「健康な人なら、体内に取り込んだ糖の多くをインスリンによって筋肉細胞に取り込み、たんぱく合成、そして筋肉細胞の成長と増殖を促進して、筋肉を増やす方向に働きます。ところが炎症とインスリン抵抗性が引き起こされると、筋肉組織が分解される方向に傾くのです。体はより多くの脂肪を蓄えようとし、筋肉量は減ってしまいます」

いくらたんぱく質を意識して食べても。それを筋肉に変える仕組みのほうがうまく働かなければ、効率は上がらず、それどころか筋肉が分解されてしまうのだ。

平成横浜病院総合健診センター長の東丸貴信医師(本人提供)

「特に砂糖入り飲料はそのリスクが高いでしょう」と東丸医師も言う。

「砂糖入り飲み物」とは特別なものではなく、加糖された炭酸飲料やスポーツドリンク、エナジードリンク、缶コーヒー(もちろん微糖もだ)、果汁飲料など、コンビニや自動販売機で当たり前に手に入るものばかりだ。プロテイン飲料も糖が添加されていることもある。仕事の合間に、またジムのトレーニング後に毎日無意識に飲んでいないだろうか。

専門家の指摘を統合すれば、結論はシンプルだ。筋肉を守りたいなら、まず砂糖入り飲料を日常的に飲む習慣を見直すこと。これが、たんぱく質や運動の効果を活かす土台になる。

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笹井 恵里子(ささい・えりこ)
ノンフィクション作家、ジャーナリスト
1978年生まれ。本名・梨本恵里子「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、プレジデントオンラインでの人気連載「こんな家に住んでいると人は死にます」に加筆した『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)、『老けない最強食』(文春新書)など。新著に『国民健康保険料が高すぎる! 保険料を下げる10のこと』(中公新書ラクレ)がある。
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(ノンフィクション作家、ジャーナリスト 笹井 恵里子)