ベテラン歌手の自宅が「中国製バッテリー爆発」で全焼 被害は4,500万円だけじゃない…本人が語る喪失と“ネット通販の闇”
「娘が犬の散歩に出かけた、わずか20分間の出来事でした」
【衝撃】“灼熱でエアコンが溶け”“和室は跡形もなく”…「防災用バッテリーがまさかの爆発」の悲劇。ありし日の室内の様子と「爆発バッテリー」写真も
こう語るのは、1994年にイギリスでデビューし、30年以上にわたって第一線で活動してきたソウルシンガー、ZOOCO(ズーコ)さん。ゴスペラーズや三浦大知、V6など数々のアーティストへの楽曲提供、コーラス参加でも知られる実力派だ。
2025年12月8日の午後4時55分。彼女の人生は一変した。
その日、ZOOCOさんと夫はそれぞれ仕事で外出中だった。帰宅したばかりの15歳の娘が愛犬を連れて散歩に出た、ほんの20分足らずの間に、東京都内の自宅マンションが火災に見舞われた。

「リハーサルをしていたら、電話がずっと鳴りやまず、近所の人たちから『家から煙が出ている』と連絡がありました。急いで帰ると、マンションの前に消防車と救急車が何十台もいて……」(ZOOCOさん、以下同)
幸い、マンションの他の部屋への延焼はなかった。だがZOOCOさん一家が暮らしていた4LDKは全焼。消防が発火源として特定したのは、「大容量バッテリー家庭用蓄電池」だった。
一瞬で燃え尽きた「わが家」
購入履歴を辿ると、当該バッテリーは『777SYD』というブランドのもので中国製。サイズは縦12センチ、横30センチほどで、バッテリー容量は200W。Amazonに出品していた中華系の代理店から2020年9月、コロナ禍の頃に購入したものだったという。
キャンプや娘のストリートライブで計4回使用したものの、基本的には災害時の持ち出し用備蓄として、物置部屋にしていた和室で保管していた。最後に充電したのは火災の約2か月前だった。
「充電中であれば事故の例も多いのですが、あの時は“ただ置いていただけ”。12月ですし、部屋が高温になったわけでももちろんありません。災害時のために備蓄していたバッテリーが、まさか……」
消防によると、バッテリーが爆発し、瞬間的に350〜400度まで達した火と熱が、物置だった和室から全室へと滞留したという。炎のみならず灼熱が照明やエアコン、家具を溶かし、風呂場のドアまでも変形させ、真っ黒な煤が89平方メートルの自宅のすべてを使用不能にした。消防署が発行した罹災証明書には「15平方メートル及び天井1平方メートルが燃え、73平方メートルが汚れた」とあった。
熱と煤、そして消火による浸水。その夜から始まった「喪失」のリストは果てしなかった。
娘の制服、教科書、思い出にとっておいたランドセル。娘が幼いころからの膨大な写真データ。デザイナーに一点ずつ仕立ててもらった、歌手歴30年以上分のステージ衣装。すべての譜面、音楽機材、データ。母と同じ道を選び、歌手デビューを控えていた娘の大事なピアノとギター……。
「思い入れのある家具や食器などもさることながら、お金を払っても買えないものがこんなにあると気づかされました。何より悔しかったのは、15年間、柱に刻んできた娘の身長の記録が灰になってしまったことですね」
暗い年の瀬
そんなZOOCOさんを更なる悲しみに陥れたのは、“自分の家が燃えたという現実”を受け入れられずにいる娘の姿だった。
「泣きながら、燃え残った煤だらけのピアノの鍵盤をひとつずつ拭いていました。煤ってあんなに臭いものなのですね、一生忘れられない匂いです。そんな匂いが染みついたボロボロの楽器を、娘は“燃えていない”と言い張って手放さなかった。学校でも火災のことを一切口にせずにいたそうですが、さすがに“娘さんの様子がおかしい”と帰される日も多くなりました」
当時、自宅が火災になっていると知らずに戻って来た娘は、消防士たちが鉄のドアをカッターで切り、吹き出す煙の中、水をかけながら突入している場面に遭遇した。ショッキングな光景を目撃したことで、PTSD(心的外傷後ストレス障害)になり、全身に湿疹が出るなどの症状がしばらく続いたという。
折しも年の暮れ。不動産業者が休みに入ると、一時的な仮住まいも探せなくなった。またペットのトイプードルも神経過敏になって、受け入れ可能なホテルが見つからない。それから約100日間、キッチンも風呂もない、マンション内の会議室を借りて避難生活がスタートした。
「まずメガネ。それからパンツを買いました」
住所がないのでネット通販も容易にできない。着替えを買いに行こうにも着ていく服がない。コインランドリーと銭湯に通う日々。東京都の銭湯は1人1回550円、10回の回数券で5,400円だ。そんな地味な出費が辛かった。ライブの仕事はあっても、火災についての一切を告げられないまま舞台に立ち続けた。
クリスマスシーズン、みんながハッピーな気持ちの中、「火事にあったかわいそうな人が歌うクリスマスソング」--そんな重い空気を客席に持ち込みたくなかった。何より、娘が「誰にも言わないで」と懇願していた。
暴発するリチウムイオン電池
なぜ、充電もしていないバッテリーが突然発火したのだろうか。
東京消防庁のデータによると、リチウムイオン電池関連の火災は近年急増しており、令和5年だけで都内167件を数える。そのうち「いつも通り使用していたが出火」というケースが39件、全体の23.4%に上る。充電中だけでなく、非充電中(待機中含む)の発火も65件(38.9%)あった。
責任の所在を明らかにするため動き始めたZOOCOさん。リチウムイオン電池は、充電していない状態でも内部に微量の電荷が残り続けることがあり、基盤の不具合が重なったりすることで、突然ショートし、数分で400度近くまで達する爆発的な発火を引き起こす可能性があると知った。
「何万個に1個かもしれないけれど、誰がそれに当たるかわからない。犬が娘を散歩に連れ出してくれたことで、奇跡的に全員の命が救われましたが、家と家族の思い出は全焼しました。本当に危機一髪で恐ろしいことです」
また、消防と専門家が分解・X線解析を行い、約50ページにわたる「リチウムイオン電池の自然発火の理由」報告書を作成。2026年3月に総務省消防庁に提出されたという。
だが、問題はバッテリーそのものだけではない、とZOOCOさんはいう。
真の闇深さ
自分の被った被害を周知しようと、販売していたAmazonに「爆発事故の原因となった同型製品」購入者への注意喚起を何度も求めたが、ただ「購入代金1万4,499円の返金」とする回答が繰り返されただけだったという。
「Amazonには1月から2月にかけて10回の連絡を試みています。はじめは“小売店なのでAmazonでできることはありません”という対応で、そのうちに一方的な自動送信のメールのみの対応となり、最後は代理店のメールアドレスのみ機械的に、返信できないアドレスから送られてきました。最終的に私がバッテリーの危険性を消費生活センターに訴え、消費者庁に報告してもらったところ、その日のうちに突然、Amazonから一斉に、該当のブランドの商品が消えました」
損害賠償も考え、メーカーや代理店への連絡も試みたが、Amazonに記載のあった電話番号はつながらず、Amazonが伝えてきた「代理店のメールアドレス」も架空のもので叶わず、泣き寝入りするしかなかった。
「わが家では、燃えた家の中のものの総額が約2,000万円、リフォーム費用で約2,500万円かかる損害がありました。心の傷は残りましたが、思い出の品は戻ってきません」
命には代えられないものの、計4,500万円以上の重すぎる金額が吹き飛んだ。
「でもそれより“同じバッテリーを今も使っている人がいるかもしれない”という恐怖のほうが何倍も苦しかったですね」
ZOOCO さんが国民生活センターなどに問い合わせると、Amazonでの購入品による事故はZOOCOさんのケースに限らず、死亡事故も起きており、手続きの複雑さや精神的疲弊からやはり泣き寝入りするケースが多いことを知らされた。
「誰も責任を取らない。でもその間にも、被害に遭う人がいる。これをなんとかして食い止めたい。私にできることは危険を伝えて注意喚起を促すことだけ」
ZOOCOさんが今、伝えたいことはとてもシンプルだ。
「皆さんの身の回りにある充電式製品を、少し見直してほしい」
東京消防庁は、リチウムイオン電池搭載製品の火災を防ぐために次のことを呼びかけている。取扱説明書の確認、純正充電器・純正バッテリーの使用、膨らみや充電不良などの異常が出たら即使用中止、そして購入する際には製造事業者の連絡先が明記された製品を選ぶこと。特にネット通販で購入した格安品には、PSEマーク(電気用品安全法の適合証明)の有無を確認する習慣が求められる。
「キャンプやアウトドアで使う大型バッテリー、モバイルバッテリー、電動アシスト自転車、コードレス掃除機--普通にご家庭にあるものが自然発火して火災を引き起こしています。消費者庁のサイトには信じられないくらい多くの事例があります」
新しい一歩を
「あわただしい12月に近所にも仕事先にも多大なご迷惑をかけてしまったし、私も家族も心身に不調をきたした。何をどう気を付ければよかったのか、ずっと自分を責め続けました」
だが、同じマンションの住人らは一家を責めることもなく、温かい食事や差し入れを届けてくれた。年末年始だというのに、休み返上でライフラインの設備に尽力してくれた業者もいた。
「たくさんの方に支えていただきました。やはり生きていてよかった」
娘が落ち着くのを待ち、デビュー32周年の4月21日に、ZOOCOさんは被災をブログで公表した。同時に、ストレスによる突発性難聴--両耳の一定音域(4KHz前後)の聴力を失ったことも明かした。自身のことを後まわしにしながら復旧作業と娘のケアに奔走するうちに、治療の機会を逃し、娘との会話が聞こえづらいことで発覚したという。
歌手として致命的ともいえる打撃。それでも彼女は「聴こえる倍音でハモるトレーニング」を始めている。4月には虹の写真とともに、ブログにこう綴った。
《俯いてばかりだったら見えない景色だね》
デビュー32周年のライブは中止になり、32年間支えてくれたファンに説明もできないまま、活動休止を告げた。それでも今、少しずつ歌への道を歩き始めている。
取材・文/木原みぎわ
デイリー新潮編集部
