(画像:『水曜日のダウンタウン』Tver配信ページより)
 過激なドッキリ企画を繰り返してきた『水曜日のダウンタウン』(TBS系)が、また批判にさらされています。

◆「胸が苦しく」「笑ってる出演者にも引く」水責めに視聴者ドン引き

 問題となっているのは10月30日放送回の「床屋でのシャンプー中に水責め不可避説」。お笑いコンビ「ザ・マミィ」の酒井貴士が理髪店でシャンプーのサービスを受けている間にシャンプー台に水が貯まっていき、仕掛け人の理容師が酒井の首根っこをつかんで繰り返し水面に押し付けるドッキリでした。

 あまりの苦しさに息も絶え絶え、咳き込みながら顔を真っ赤にして困惑する酒井に大ウケするスタジオの出演者たち。その中で、アンガールズの田中卓志だけが、「こんなもんテレビで放送しちゃダメです」と苦笑しつつ指摘していました。

 ネット上でも、“面白い”という声以上に否定的な人の方が多数でした。“不快すぎて胸が苦しくなった”とか“見て笑ってる出演者にも引く”など、いわゆるドン引き状態。

 筆者も番組を見ていました。理容師役の仕掛け人の振る舞いに、多少なりとも事前に打ち合わせてあったのだろうなとの手加減を感じつつも、そもそもこれを企画にすること自体に驚いてしまいました。

 ネット上の批判でも言われている不快感もありますが、それ以上に法的かつ倫理的に深刻な問題を孕(はら)んでいるからです。

◆水責めは古くから拷問に使われ、コンプラどころではない

 その理由は、古くから水責め(ウォーターボーディング)が厳しい拷問としての歴史を持ち、戦争で捕虜となった人物の自白をうながすために用いられる非人道的な行為だということ。そして、近年ではあまりのむごさにそうした拷問による聴取を禁止している国もある。それほどまでの行為なのです。

 つまり、今回の『水曜日のダウンタウン』は、いわゆる“コンプライアンスを気にしすぎてつまらなくなった”的な物言いからは明らかに外れている。そのように矮小化できる問題ではないと言わざるを得ないのですね。

 では、実際どのように行われていたのでしょうか。

 2001年のアメリカ同時多発テロ計画を立案したとされるハリド・シェイク・モハメドら5人の被告は、2002年から2003年にかけて拘束された後、CIAの秘密施設に移送されます。CIAの取り調べは凄惨きわまりないものでした。

 米上院の通告書によると、<モハメド被告は手足の自由を奪われ、顔に大量の水を注いで自白を迫る水責めを約2週間に183回受けた。その間、眠らせないように約180時間にわたって立ったままの状態にもさせられた。>(『47NEWS』2023年11月10日『水責め、睡眠妨害…テロ組織幹部への拷問で問われた米国の「正義」 愛用のG−SHOCKを外して入った機密だらけの軍事法廷には独特のルールが【グアンタナモ報告・後編】』より)とのこと。

 水責めは、こうした文脈で語られるものなのです。

 こんな企画を面白おかしく見ている風景は、海外から見たらとんでもなく異様に映るでしょう。それは演出のクオリティ云々ではなく、そもそも人を笑わせる手段として思い浮かぶはずのものではないからです。

 そうした国際的な理解や前提について、あまりにも無知なことが問題なのです。

◆坂本龍一氏が指摘したダウンタウン的な笑いの問題

 次に、倫理的な面。

 ベストセラー小説『永遠の仔』で知られる作家の天童荒太と坂本龍一の対談本『少年とアフリカ』(文藝春秋 2001)の中で、ダウンタウン的な笑いが映し出す社会の問題を、坂本氏はこう指摘しています。

<ここ二、三年のダウンタウンの芸って、年下の芸人をいたぶってるだけで、一言で言うと、「どんくさいやつをいじめてなにが悪いの」ってことでしょ?>(p.118)