NBAプレシーズンゲーム、グリズリーズ対ホーネッツの4Qに出場した河村勇輝(AFP=時事)

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 2024年上半期の全国の税関における偽ブランド品、偽グッズなど知的財産侵害物品の輸入差止件数は1万8153件で、前年同期と比べて16.2%増加し、過去最多を更新した(財務省調べ)。偽物なんて恥ずかしいという意識が日本では広がったはずが、最近は薄れているのだろうか。有名アスリートの偽ユニフォームに関わってしまった購入者や販売者に、ライターの宮添優氏が聞いた。

【写真】大谷のユニフォームまで!押収した偽物

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「河村ユニGET!NBAデビュー!」

 約一ヶ月前、自身の限定公開SNSにこう書き込んでいたのは、ついに日本人選手4人目のNBA(アメリカプロバスケットボール)プレーヤーとなった河村勇輝選手の大ファンを自称する会社員の女性(20代)だ。

 ちなみにこの投稿は、まだ河村が下部リーグでプレーしながら最大50試合に出場できるツーウエー契約をメンフィス・グリズリーズと結び、開幕を待っていた時期のもの。NBAにおける登録選手中、現時点で最も身長が低いプレーヤーとされる河村選手だが、ゲームを組み立てる力やパスセンスは、すでにアメリカのNBAファンの間でも話題になっており、日本のみならず、韓国や中国、東南アジアのバスケファンも、SNSなどを通じて河村選手の動向に、熱い視線を送っていた。女性はパリオリンピックをきっかけに河村ファンになったとも話す。

 しかし、である。問題は、女性が購入した時点で、一般人が購入できる河村選手のユニフォームは存在するはずがなかったことだ。というのも、河村選手の名前と背番号が入った正規品の発売が正式にアナウンスされたのは、10月の下旬である。女性はその数週間前に、まだ発売されていないユニフォームを入手していたことになる。

「大手の通販サイトで買ったんですよ。値段ですか? 5千円くらい」(女性)

 女性が使ったと話すのは、筆者も日常的に利用している、誰もが気軽に利用出来る超大手通販サイト。そんなメジャーなところで、存在しないはずの物が、正規品が安くとも2万円弱するのにその4分の一の価格で買えたというのだ。大手紙社会部記者が解説する。

「女性が購入したのは、主に中国系の業者が違法に作ったニセモノです。今、世界で活躍する日本人アスリートのユニフォームやグッズのニセモノが、大量にネット通販サイトで販売されているのです。つい先日も、大リーグで活躍する大谷翔平選手(ロサンゼルス・ドジャース)の偽ユニフォームを販売したとして、島根県の男が逮捕されています。男は、中国からニセモノを仕入れては、ネットなどで販売していたと見られ、すくなくともこれまでに300万円以上を売り上げていたといいます」(大手紙社会部記者)

中国、東南アジアを拠点に偽グッズを売りまくる

 あるはずがなかった河村選手のNBAユニフォームを購入した女性に、通販サイトの該当ページ(すでに削除)を教えてもらってチェックすると、確かに不自然な点が多い。掲載されているユニフォームの写真には、本物同様にメーカーのロゴやチーム名が記されているが、販売元は見たことも聞いたことがないメーカーだ。さらにそのメーカー名で検索すると、ユニフォーム以外にもサンダルや財布、化粧品などあらゆるものを販売している「メーカー」だということがわかるが、当のメーカーのオフィシャルサイトはどれだけ探しても見つからない。前出記者が続ける。

「そうした業者のほとんどは、中国または東南アジアに拠点を置いていて、スポーツ系の偽グッズの他にも、安価な化粧品や雑貨などを売りまくっているようです。しかし、どれも低品質で値段以下ともっぱら。大手通販サイトだけでなく、InstagramやTiktokなど若者に人気のSNSの広告経由、または中国系の通信販売アプリを通じるなどしてガラクタや偽物を世界中に売りつける。中には、そのガラクタから人体に影響があるとされる化学物質が検出されたりして、また別の大きな問題が発生している例もあります」(前出記者)

 都内にある大型スポーツ用品店の店主も、呆れたような苦笑いで説明する。

「大谷選手や河村選手だけじゃありません。バスケなら八村塁選手(ロサンゼルス・レイカーズ)、サッカーなら久保建英選手(レアル・ソシエダ)の偽ユニフォームまである。いや、日本人だけじゃないんです。世界中の人気アスリートの偽グッズが売られていて、そのほとんどが中国の業者が製造した粗悪品。これらはアメリカやヨーロッパにも流通していて、正規品を販売するショップの脅威になっています」(スポーツ用品店店主)

 河村選手の偽ユニフォームを購入したという女性に改めて事情を聞くと、極めてバツが悪そうに「確かに安いと思った」と俯くが、本当に「本物だと思って」購入したのか、という点については最後まで言葉を濁すのみ。では、偽物を販売している業者側の見解はどうなのか。

 筆者は、中国・河北省や雲南省にあるとされる、偽グッズを販売する「ブランド」に問い合わせたが、特に回答はなかった。

 前出の記者やスポーツ店店主が言ったように、これら販売者のほとんどが中国国内に拠点を置いているようにも思えたが、一部には、連絡先が日本国内の住所になっているものもあった。

「通販サイトのアカウント名義を貸している」

 筆者がさっそく訪ねたのは、そのうちの一軒。東京23区内、下町エリアに建つ古いマンションの一室にあるとされる「Z」という売主だ。インターホンを押し、ドアを開けて応じてくれたのは、年齢30代ほどの日本人男性で、Zについて聞いたが「知らない」「思い当たるフシもない」と強弁し「家族もいるので迷惑だ」と名刺だけ渡すと追い返された。しかし間も無く、男性は筆者に慌てた様子で電話をかけてきた。

「なぜうちがわかったんですか」

 その後、男性と落ち合うとこになったが、すでに男性は真っ青な顔をしていた。

「何年か前に、ビジネス系交流会で知り合った方から紹介を受け、通販サイトのアカウント名義を貸しているんです。名義を貸せば、売り上げの数パーセントが入ってくるとか言われました。でも、実際に何が行われているかも知らず、売り上げも最初の3ヶ月は数万円入ってきましたが、その後は音沙汰がない。何か変なことに巻き込まれていないかとビクビクしていました。中国からの輸入ビジネスに使用される、とは聞いていましたが……。先ほどは、家族がいたのでお話しできずにすいません」(男性)

 男性の名義で偽ユニフォームが販売されている事実を告げると「逮捕されるんですか、家族崩壊です」と頭を抱え、ついに泣き出してしまった。

 近年、「不労所得」や「簡単副業」などの名目で、通販サイトやSNSのアカウントの又貸し、転貸が横行している。転貸アカウントは、このように偽物販売に使われたり、詐欺に利用されたりした結果、問題の責任者として表に出てくる名前は、甘言に騙された転貸元の本名や自宅住所になる。矢面に立たされるのはうかつにアカウントを貸した側で、実際に悪事を働いている者たちは、堂々と犯罪行為に勤しんでいる。

 男性はその後、すぐに警察と通販サイトに相談し、通販サイトの当該ページはすべて閉鎖された。だが、購入者が複数人いて、今後、引き続き事情聴取を受けることになった。

 偽グッズ販売が摘発され、ニュースとして報じられるとSNSでは「許せない」「けしからん」との反応が大半だ。そのとき、どんな手口で偽物が販売されているかもあわせてアナウンスされているにもかかわらず、似たような偽物販売はなくならないどころか、最近は、フリマサイトやアプリなどを通じて増加しているようにも見える。「よくないこと」と分かっているはずなのに、なぜ増えるのか。前出のスポーツ用品店店主がいう。

「これだけ偽グッズが売られているということは、おそらく少なくない人が、偽物だとわかって買っているんです。でもそれでは、応援しているアスリートやチームの利益にならないばかりか、大袈裟にいえば、プロスポーツ自体が成立しなくなる可能性だってあります」(スポーツ用品店店主)

 偽物を作り、それを販売する人々が恥を知るべきなのは当然だとしても、それをある程度分かりながら購入するのも、プロスポーツを侮辱し貶める最低の行為なのだ。