公正取引委員会の庁舎

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 組織に属さず働くフリーランスの保護に向けた新法「フリーランス取引適正化法」が11月1日に施行される。

 フリーランスは新たな働き方として社会に定着する一方、立場が弱く仕事を発注する企業などとの間で様々なトラブルが起きている。新法の施行で労働環境の改善につながるかが焦点となる。(小林泰明)

弱い立場

 「3〜4か月かけて作ったシステムを納品しようとしたら、急に発注者と連絡が取れなくなった」

 「追加で多くの仕事を頼まれても報酬は増えず、難色を示すと取引打ち切りを示唆された」

 フリーランスのITエンジニアとして約8年、働いてきた東京都内の男性(42)が経験したトラブルだ。男性は「仕事をもらう側なので、どうしても立場は弱くなる。報酬や条件は発注者側の意向に大きく左右されてしまう」と話す。

 新法を所管する公正取引委員会などが5〜6月、フリーランスを巡る取引の実態を調査したところ、「多くは口約束で、事前に契約書を作るのはまれ」「足元をみた報酬額や条件、休日返上の納期を求められることが多い」といった不満の声が多く寄せられた。

 新法では、仕事を発注する側の企業などがフリーランスに不当な要求をすることがないよう、特定の行為の禁止や義務を定める。

 例えば、大幅に低い報酬額を定める「買いたたき」や、報酬額を後から減らす「報酬の減額」の禁止、報酬額や支払期日などの「取引条件の明示」の義務が盛り込まれている。

 こうした問題行為は横行しているのが実情だ。公取委などの実態調査で、買いたたきについてはフリーランスの67%が「報酬額を一方的に決められたことがある」などと回答。取引条件の明示に関しても、45%が「明示されなかったことがある」などと答えた。

罰則も

 パワハラやセクハラなどの被害にあうフリーランスも多い。人材仲介会社「ランサーズ」の調査では、対象者(400人)の49%が何らかのハラスメント被害を受けていた。新法では企業などに対し、相談窓口や事後対応などハラスメント対策の体制を整える義務も課す。

 違反行為があった場合、公取委などが指導や勧告を実施。勧告に従わない場合は命令や社名公表に踏み切り、命令に違反すると50万円以下の罰金が科せられる。公取委はフリーランスの労働環境改善に向け、「迅速に違反の取り締まりを進める」(武田雅弘フリーランス取引適正化室長)構えだ。

 フリーランスらが加入する「プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会」の平田麻莉代表理事は「口約束で働かされ、後から報酬を減らされるなど、フリーランスの取引は無法地帯だった。新法施行による抑止効果への期待は大きい」と話す。

 もっとも、企業側の意識改革はまだ進んでおらず、「臨機応変に仕事内容を変更できなくなる」などとして条件明示などを渋るケースもあるという。平田氏は「違反企業を政府がしっかり取り締まり、『これは守らなければならない』と企業に思ってもらうことが大事だ」と指摘する。

 ◆フリーランス=会社などに属さず、主に個人で仕事を引き受ける人を指す。ITエンジニアやアニメーター、ライター、通訳などが代表的。「ウーバーイーツ」など料理宅配の配達員も新法の保護対象になる。リクルートワークス研究所によると、フリーランス人口は副業も含め約390万人(2023年)で全就業者の約6%を占める。