6割の女性が感じる「更年期症状」。密かに進む“卵巣の老化”と現役医師の体験談
内科医として58年間、男性社会とされていた医学界を生き抜き、3人の娘を育て上げた、医師・天野惠子さん。自身も更年期症状に悩んだ経験から、日本における「女性外来」の発展に尽力し、81歳になった現在も診療に精力的に取り組んでいます。今回は天野先生に、更年期障害の原因と、ご自身が経験された症状について教えてもらいました。
更年期症状がなくても、密かに進む「卵巣の老化」
女性ならではの不調や病気として代表的なのが、「更年期」症状です。多くの女性は、50歳前後で閉経を迎えます。更年期とは、閉経前の5年、閉経後の5年、計10年間をいいます。この間は、心身にさまざまな異変が表れます。
突然、顔がカーッと熱くなったり、上半身だけが一気に熱くなってのぼせたようになったりするホットフラッシュは、更年期の初期によく見られ、異常発汗を伴うこともあります。
このほか、めまいや頭痛、関節痛、不眠、慢性疲労、動悸、手足の冷えなど、更年期にはじつにさまざまな症状が出てきます。イライラ、抑うつなど、精神的に不安定になるのも、更年期の典型的な症状です。
以上のような症状が「エストロゲン」の分泌量が減ることによって起こります。エストロゲンは、30代半ばくらいまでが分泌のピーク。30代後半以降は徐々に減っていき、更年期に入る40代半ばからは、アップダウンをくり返しながら急激に減少します。
エストロゲンが減少してくると、脳はそれを察知し、「もっと分泌しなさい」と卵巣に指令を出します。最初は卵巣もそれに応えてがんばりますが、だんだん応えられなくなってくるのです。でも、脳は「もっともっと」と指令を送り続けます。
こうして脳と卵巣との連携プレイが乱れ、指令を送る脳の視床下部にあるホルモン中枢は混乱。そのことで、同じ視床下部にある自律神経の中枢にも影響が及び、ホットフラッシュ、冷えや動悸など、自律神経に関係するさまざまな不調が出てくるのです。
とはいえ、すべての人に不調が表れるわけではありません。更年期症状を感じる人は全体の6割程度で、残りの4割はこれといった不調は覚えず、月経周期がバラつく、ついに月経が来なくなった、といった変化を感じる程度です。
また、更年期症状を感じる人のうちの3割弱は、生活に支障が出て、治療が必要なほど重い症状を訴えます。このような場合、「更年期障害」と呼ばれます。
更年期に症状がなく過ごせた人も、エストロゲンが減少して体質が変化していますから、アフター更年期、そして老年期に、体を整える習慣をつけるよう心がけることが大切です。
子宮と卵巣を“摘出”して起きた人生の一大事
私の場合、40代に差しかかった頃に、更年期の前触れのような症状に見舞われました。一年じゅう風邪を引いているような調子の悪さを感じるようになったのです。
風邪薬や抗生物質を飲んだりしていたのですが、調子の悪さはまったく改善されませんでした。今にして思うと、この頃には、すでにエストロゲンの値が下がりはじめていたのでしょう。
「おかしいな」と思いながらも、効果が感じられないので、1年ほどで薬の服用をやめると、今度は夜寝ているとき、喘息のような息苦しさに襲われるようになりました。ステロイドの入った薬を飲むと、症状は軽くなり、それほど深刻でもなかったのですが、今、自分の40代を振り返ってみると、「あれ? ちょっとおかしいな」ということが、ちょくちょく起きていたのです。
そして迎えた48歳。この頃から生理時の過多出血が始まりました。突然、大量の出血が起きるため、常に夜用の生理用品を持ち歩かなければならないほど。
婦人科では「機能性出血」と診断され、処方されたホルモン剤を服用すると、大量出血は治まったので、それでなんとかやり過ごしていました。
次に異変を感じたのは50歳で閉経したとき。排尿時に突如、おしっこが止まってしまうという現象が起きるようになりました。子宮にできた筋腫が尿道を圧迫しているに違いない。
ほとんど確信に近いものをもって婦人科を受診したところ、やはり子宮筋腫と診断されて手術を受けることになりました。子宮を全摘することになったのです。
それだけではありません。「卵巣がんになる人が増えているから、取りましょうか」と主治医からいわれ、両側の卵巣も摘出することになったのです。卵巣は、初潮を迎える思春期から閉経までの約40年間の“期間限定”で働く臓器。
当時の私は50歳。年齢的には卵巣はもう役目を終えようとしていたわけですし、がんのリスクを避けられるなら、と前向きな気持ちで手術を受けました。
しかし、まさかその後、壮絶な日々が待ち受けていようとは想像だにしていませんでした。卵巣を摘出することで、私は突如として更年期の荒海に放り出され、さまざまな症状に苦しめられることになったのです。
※ この記事は『81歳、現役女医の転ばぬ先の知恵』(世界文化社刊)より一部抜粋、再構成のうえ作成しております