この記事をまとめると

■ラッピングの登場でトラックの塗装が手軽になった

■デコトラの世界ではスプレーペイントが好まれる

■最近開発されて話題になったのが「オートボディプリンター」だ

ラッピングの登場で塗装が手軽に

 いうまでもないが、トラックはボディが大きい。とくに、アルミバンは平面が多い「箱車」で、いろいろなところを走りまわる。すなわち、効果が期待できる広告媒体として利用可能な素材なのだ。近年は路線バスにも広告車両が増えており、バス事業者の大きな収益の柱になっていることは間違いない。

 こういった背景のもと、大都市では風俗営業を宣伝するトラックが、法律の隙間を狙って走りまわったために大きな問題となったことは記憶に新しい。東京都知事選の選挙ポスター問題も根は同じで、性善説のルールが通じなくなったのは嘆かわしい限りだ。

 とはいえ、節度を守った広告は見る側からしても有意な情報である。トラック運送事業者が、自社の社名・ロゴ・連絡先・イメージアートなどをボディに描いている例も多い。そういった広告に一定の営業効果があることは間違いないし、ドライバーにとっては自社の看板を背負っているに等しいので、より慎重な運転を心がけるようになる (乱暴な運転をすると、ボディに書かれた連絡先にクレームが入る)。

 ただ、広告は効果測定が難しい。そのため、手間やコストがかかると敬遠されがちだ。以前は文字やアートのペイントは手描きが当たり前で、その道の職人を抱える事業者に頼む必要があった。その後、エアガンによるスプレーペイントが開発されて、対応できる職人の幅も広がり、安価なメニューも登場した。それでも、人の手を経る以上はこなせる仕事には限界がある。

 これを大きく変えたのがラッピング塗装だ。あらかじめシートに機械で印刷したものを車両に貼り付けるという方法である。このやり方は、早い・安い・貼り換えが可能などといったメリットがある。飛行機なら塗装しないぶんだけ機体重量が軽くなり、燃費がよくなるという検証結果もあるそうだ。いまでは、バスや電車の塗装はこの手法が多く用いられている。

「アナログ塗装」から「デジタル塗装」へ

 しかし、ボディペイントアートをウリにする「デコトラ」の場合は、そう簡単な話ではない。何しろ趣味・嗜好の分野なのだから、経済性・利便性などは二の次だ。ゆえに、いまでも手描きが中心で、求める効果に応じてスプレーペイントを利用するというパターンが多い。ところが、これを機械でやってしまうシステムがある。それが、リコーデジタルペインティングの「オートボディプリンター」である。

 この会社は名前から見てもわかるように、事務機・光学機器メーカーであるリコーの子会社だ。しかし、元はエルエーシーという塗装印刷の会社で、エアブラシタイプのオートボディプリンター・ガスボンベ用プリンター・ボトルプリンター・タイヤプリンターなどを開発していた。リコーの傘下入りをして以降は、粘性の高い塗料を高い精度で遠くへ飛ばすことが可能な、「独自のインクジェット塗装技術」を用い、「アナログ塗装」から「デジタル塗装」への変換実現を目指している。

「オートボディプリンター」とは、同社独自のインクジェット塗装技術を用い、大型トラックのボディなどに、直接印刷できる画期的な印刷システムである。もちろん、印刷面の素材や形状(凹凸があっても可)は問わない。使用するインクは速乾性で、紫外線に強い樹脂塗料。塗装と同時にコート処理を行なうので、3〜5年程度の屋外耐候性をもっているのだ。また、アセトンを使用して塗装を消去することが可能で、描きなおすこともできる。

 ただ、デコトラのアートはこの機械を導入すれば誰でもできるというわけではない。塗装印刷のデザインはコンピュータで編集して作るのだが、このときにデコトラ特有のデザインや書体は、簡単に描けないことも多いのだ。この分野に精通した職人が、下絵となるデザインを作成する必要があるのである。

 技術的にはそういったデザインをデータ化して、コンピュータ上で作成することも不可能ではない。しかし、そういったソフトの開発は採算が合わないという。また、ラメやマジョーラといった特殊な塗料を、機械で塗装するのは難しい部分があるのだそうだ。

 デコトラ特有のボディアートデザインは、こういった機械の発展で手軽さを増した部分もあるのだが、熟練の技を持つ職人の手はまだまだ必要なようである。