ごみや不要な家具などをため込んでしまいごみ屋敷を作ってしまう人や、不要なデータがなかなか捨てられない「デジタル・ホーディング」などは、精神医学の分野で「強迫的ホーディング」、日本語では「ためこみ症」と呼ばれています。なぜ人はためこみ症になるのか、ためこみ症になるとなぜものを捨てたり整理したりできなくなるのかについて、ニューサウスウェールズ大学シドニー校の心理学教授であるジェシカ・グリシャム氏が解説しています。

Why do people with hoarding disorder hoard, and how can we help?

https://theconversation.com/why-do-people-with-hoarding-disorder-hoard-and-how-can-we-help-208102



ためこみ症には、同じタイプの物への執着、所有物への過度の依存、所有物から離れられないことなどが伴うとされています。2016年の研究では、ためこみ症には遺伝的要因が関与していることが示唆されていますが、ためこみ症を引き起こす単一の遺伝子は特定されていません。代わりに、さまざまな心理的、神経生物学的、社会的要因が影響している可能性が考えられています。

2022に発表された論文では、「買いだめ」や「ためこみ」をしやすい人は、注意欠如多動症(ADHD)との関連があると示されました。また、同じ研究によると、買いだめ障害は生活の質の低下とうつ病、および不安の増加に関連していたとのこと。

ADHDの人は「モノを捨てられない傾向が著しく強い」という研究結果 - GIGAZINE



そのほかのためこみ症を引き起こす原因として、グリシャム氏は「感情的な剥奪」を挙げています。2010年にキングス・カレッジ・ロンドンの精神医学者らが発表した論文では、「トラウマとなるような人生上の出来事や幼少期の物質的剥奪は、病的な溜め込み行動を発症させる潜在的な環境的リスク要因として特定されている」と示されました。感情的な剥奪とは、幼少期の親から受けた愛情が希薄だったり、他者とのつながりに難しさを感じていたり、なんらかのトラウマ的な経験を訴えたりする人が該当すると考えられます。グリシャム氏によると、感情的な剥奪を経験した人は「人間は信頼できず信用できない存在であり、安心感や安全のために物に頼る方が良い」と考える可能性があるそうです。

物を収集して捨てられなくなる理由は、ためこみ症の人たちの中でも様々です。対象物をコントロールし保護したいという欲求がある人や、認知障害により整理するというタスクができない人もいます。また、物や環境に対して強い責任を感じすぎているため、壊れた物や使い捨ての物を捨てることに苦悩を感じるような人もいます。そのため、ためこみ症を精神医学的な問題として治療する場合には、原因と傾向を見定めて個別的なアプローチをとることが重要だとグリシャム氏は述べています。



グリシャム氏はためこみ症について、「治療には、溜め込み症に特化した認知行動療法(CBT)で、人々が所有物についての信念を理解し、徐々にそれに疑問を投げかける形式が適切です。しかし、ためこみ症は他のほとんどの精神障害とは異なるため、複雑なケースでは、異なる機関が協力して取り組む必要がある場合があります。私たちは、複雑なためこみ症に対する理解と治療を継続的に改善し、支援を受ける上での障壁に対処しなければなりません。これは最終的に、ためこみ症が個人、その家族、そして地域社会に与える壊滅的な影響を軽減するのに役立ちます」と語っています。