毎日朗らかにご機嫌に暮らす人がいる一方で、いつもむすっと周囲にイライラを発散させる人もいる。医師の和田秀樹さんは、「いつもにこやかで愛想がいい人は、社会性が高く頭もいい。反対に、いつも相手を否定的かつ攻撃的で、委縮させてしまう人は自ら頭の悪さを露呈しているようなものだ」という――。

※本稿は、和田秀樹『脳と心が一瞬で整うシンプル習慣 60歳から頭はどんどんよくなる!』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/Angel Santana Garcia
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Angel Santana Garcia

■朗らかさや愛想のよさは、社会性の高さを物語る

ポジティブな考え方は幸福に通じますが、社会的な面や対人関係の面から言っても、明るく、朗らかでいるということには大きなメリットがあります。

明るく、感じのよい人は、周囲の人たちから支持されやすいのです。若い世代の人たちにとって、「人生の先輩」とも呼べる年代に差し掛かったのなら、そのことにいち早く気が付く必要があります。私自身も若い時に比べてずっと、感じよくするということを意識するようになりました。

愛想がよいということは、そのまま社会性の高さにつながります。

一つの傾向として、高級なマンションほど、住民同士がきちんと挨拶を交わすことが多いようです。また住民同士でなくても、たとえば外部の業者の方などにも、気軽に会釈や挨拶をする様子が見られます。

一方、それほど高級とは言えない集合住宅では、住民が訪問者を明らかに警戒するような目つきで見たり、故意に無視をしたりするといった現象が見られるのです。

こういったことから、社会的な成功の度合いと感じのよさとの間には、深い相関関係があるのだと言えるでしょう。

朗らかでいるということは、ヘラヘラとしたり、相手に媚びたりするということではありません。それでは単なるお調子者になってしまいます。

明るい微笑みや優しい言葉、そういったものを相手に向けるということは、「私はあなたを否定しない」「あなたを受け入れる」というサインを表明するということです。

そこに、相手をヨイショしたり、迎合したりするという、卑屈な要素はないでしょう。あるのは、相手への好意や信頼、尊重の思いです。

アメリカの臨床心理学者であるカール・ロジャーズが、カウンセリングやコーチングの技法として、「傾聴(相手の話を真剣に聞くこと)」「受容(相手が話す内容を受け入れること)」「共感(相手の話す内容に賛同すること)」を挙げていますが、「感じ良く接する」という行為には、この3つの要素が内包されていると感じます。

明るく、感じよく振る舞うということは、相手と真剣に向き合い、肯定し、理解しようと努力するという、とても知的な行為なのです。

あなたがなりたいのは、相手を否定し、萎縮させ、気持ちを萎えさせるようなシニアですか? それとも、相手を肯定し、気持ちを照らして、時には生きる希望を与えられるようなシニアでしょうか? 答えは聞くまでもないでしょう。

■感情のコントロールができない人は、頭が悪く見えてしまう

にこやかで朗らかな人からは社会性の高さがうかがえると言いました。

逆に言えば、いつも不機嫌でむすっとした人は、それだけで「自分は社会性の低い人間です」と宣言しているようなものだということです。

思い当たることがある人は、今からでも遅くありませんから、自分のネガティブな感情をまき散らして周りの人たちを不快な気持ちにさせるのはやめましょう。自分自身の感情と上手に向き合いながら、穏やかに過ごせるよう心がけてみてください。

感情をコントロールできず、いつも不満げな表情を浮かべている人は、「人間的に未熟な人」という印象を周囲に与えます。

どんなにほかのスキルが優れていたとしても、不機嫌な人は、残念ながら、それだけで幼稚に見えてしまうのです。そして、せっかく優秀なところがあったとしても、その能力すらも過小評価されてしまう……という、なんとももったいないことになってしまいます。結局、不貞腐れた表情をしていることで、自分自身が一番損をするのです。

むやみに不機嫌にならないために大切なことの一つは、これまでにもお話をしてきたように、自分の信念とは相容れない意見や出来事も、「それもそうかもね」と言って受け入れられるような器の大きさを備えることです。

心理学の世界に、「曖昧さ耐性」ということばがあります。これは言葉通り、物事の曖昧なところ、つまりグレーな部分にどれだけ耐えられるかということで、これが高いほど、認知的に成熟しているということになります。

白か黒か、敵か味方か、好きか嫌いか。物事をすべてこういった二択ではっきりさせたがる思考の持ち主は、認知的に成熟しているとは言えません。

そしてこのような人は、「○○以外は認めない」「○○はすべきではない」といった極端な考え方に陥りやすくなるため、どんどん許容範囲が狭まっていきます。また、自分にも相手にも完璧を求めがちなので、結果的に、不機嫌になりやすくなるのです。

一方、いつもご機嫌でいられる人は、この曖昧さ耐性が十分に備わっている人です。

こういう人は、不機嫌な人が「0点か、100点か」でしか物事をジャッジできないでいる状況でも、「まあ、65点とれたからいいよね」「40点だけど、こんなこともあるよね。次回、頑張ればいいか」とサラリと受け止めることができます。

あるいは、白黒思考の人が、「あいつは俺の味方だと思っていたのに裏切られた!」と憤っているような場面でも、「まあ別にあの人は、敵とも味方とも言えないものね」と軽やかに受け流すことができるでしょう。

グレーゾーンを許容できる人は、みだりにカリカリせず、いつも落ち着いているので、結果として周囲に知的な印象を与えます。

和田秀樹『脳と心が一瞬で整うシンプル習慣 60歳から頭はどんどんよくなる!』(飛鳥新社)

歳をとるということは、さまざまな人と出会い、さまざまな経験を重ねていくということですから、グレーゾーンや人それぞれの事情、人生観を受け入れられる度量が広がっていくということだと思います。

けれどその一方で、感情を司る前頭葉の働きが鈍くなるため、感情のコントロールがしにくくなることがあるのもまた、事実です。

だからこそ、「毎日を意識的に過ごす」ということが必要になるのです。意識して前頭葉の働きを活性化させる、意識して自分の気持ちが明るくなるような考え方を取り入れる、意識して自分が喜びを感じられるようなことをやってみる。そんなふうに、意識的に自分が幸せになれるよう、工夫を施しながら毎日を過ごしてみてください。

「よい気分」は、もちろん自然と湧き上がってくる場合もありますが、意図的につくることができるものです。ご機嫌になるのに必要なのもまた、ちょっとしたテクニックと意欲なのです。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)