地頭の良い子を育てるにはどうしたらいいのか。現役東大生ライターの清野孝弥さんは「“成績がよい”という条件でお小遣いを渡さないほうがいい。子供を現役で東大に合格させるような家庭は、別のやり方を実践している」という――。
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■「テストで満点を取る方法」は存在しない

「子どもにとにかく勉強してもらいたい」「もっと子どもには良い成績をとってもらいたい」。そんな子どもの勉強を応援したい気持ちから、「テストで満点を取ったらお小遣いをあげる」という制度を作る家庭があると聞く。

制度というほどお堅いものではなくても、例えば「この間の学校のテストで満点取ったんだって? ご褒美にお小遣いあげるよ」といった具合に、子どもとの日常のコミュニケーションの一環としてお小遣いの話をするレベルなら、どの家庭でも一回くらいはそういった経験があるはずだ。

しかし、テストで満点を取ったらお小遣いをあげるという仕組みは、子どもの勉強に対するモチベーションに繋がらないどころか、子どもの学力を下げる危険性がある。なぜ危険なのかは、子どもの視点に立って考えると分かる。

テストで満点を取れと言われた子どもは、真っ先に、テストで満点を取る方法を考える。しかし、「○○さえすれば必ずテストで満点が取れる」といった劇薬は存在するわけではない。

例えば、ノートを綺麗に取ること、教科書を何回も読むこと、重要な部分をマーカーで引くことなどは、勉強方法の代表例なのだが、実は成績向上に効果がないと言われている。そのため、成績を伸ばすためには何をすれば良いのかが分からず、子どもたちは困惑してしまう。

宿題を丁寧にこなしたからと言って、テストで満点を取れるわけでもないし、一生懸命学校の授業を復習したからといってテストで満点を取れるわけでもない。

こうした無力感は、結局子どものモチベーションを下げることになる。だからこそ「テストで満点を取ったらお小遣いをあげる」というこの方法は、実は教育におけるタブーなのだ。

■「塾へ行ったら」「ドリル終わったら」は無意味な勉強を促す

実は、お小遣いのあげ方に関するタブーは他にも存在する。例えば、「塾へ毎日頑張って通っているからお小遣い」というのも教育上悪影響を及ぼす可能性のあるタブーである。

塾へ行く子どもにお小遣いをあげる親の気持ちとしては、お小遣いをあげることをきっかけに、子どもが自発的に塾へ行くようになって、一生懸命勉強するようになってほしいと思っているのだ。

しかし、子どもからすれば、「塾へさえ行けば、お小遣いがもらえる」と思って、「塾で勉強すること」自体には興味関心がなくなってしまう。これでは、本末転倒である。

それなら、勉強すること自体を褒めたら良いのかと「ドリル1冊終わったらお小遣い」という仕組みを思いつく人がいるかもしれない。

しかし、これもまたタブーである。「ドリルを解くこと」を目標にしてしまうと、子どもたちは、適当に問題を解いて無理やりドリルを終わらせたり、乱雑に丸つけをしてドリルを終わったことにしようとしたりするものだ。

これでは結局、お小遣いを渡すと言ったがために、子どもたちは意味のない勉強をすることになってしまうから、悪影響である。

実は、ここまでで紹介したお小遣いの渡し方の例は、どれもインセンティブの設定方法に問題がある。子どもがメリットを感じるものをどのように設定するかは、子どもに勉強習慣が付くか否か、そして子どもの地頭力が伸びるか否かを決定的に左右していくことになる。

■「遊び」の延長で暗唱テストをしてみる

それでは、東大生を輩出する家庭ではどのようにお小遣いを渡しているのか。実は東大生の家庭でのお小遣いの渡し方には、教育上効果的なあるコツが隠されている。

例えば、筆者の家庭では「元素周期表の元素を全て暗唱できたらお小遣い」「47都道府県名を全て暗唱できたらお小遣い」といった具合に、具体的な事項を暗唱できるようになったか否かでお小遣いを渡す仕組みが存在した。

当初は、筆者がポケモンのキャラクター名を覚えることにハマっていたのだが、暗記をするのが好きなら勉強に活かせないかと、両親が勉強に関連した内容を暗記してみることを勧めてきたのがきっかけだった。

そこから次第に「ポケモンのゲームが出来るように漢字を覚える」「ポケモンの属性にちなんで元素を覚える」というように勉強していく内容が拡大していった。

そして、勉強に関連した内容を暗記して、食事の時間や車での移動時間などに披露することができれば、お小遣いをもらうことができるという文化が生まれていった。最初は遊び感覚で暗記していたものが、気づいたときには「お小遣いがもらえる勉強」に変わっていた。

すると子ども側の心境としては、「お小遣いが欲しい!」「ゲームが欲しい!」となったら、必死に勉強をして、両親の前で暗唱してみようという発想になる。テストで満点を取るということよりもっとシンプルな仕組みだからこそ、子どもは迷いなく勉強ができる。

■「何を覚えたらお小遣いがもらえるのか」を明確にする

異次元の話にも聞こえるが、そうした環境のおかげで、筆者は幼稚園児のときに元素周期表を全て暗記して説明できるようになっていた。別に化学に興味を持っていたわけではない。

しかし、それでも化学の知識が身についたのは、「インセンティブの設定方法」が上手だからである。ただ暗記ができる子どもを褒めるのではなく、具体的に「何を覚えて欲しいのか」そして、それができたら「何が貰えるのか」を伝える。

そして、これに子どもの興味関心のあることを組み合わせるだけで、お小遣いの渡し方は劇的に改善できる。

ただ「塾のテストで満点を取ってきなさい!」と伝えるよりも、「塾のテストで高得点が取れるように、この塾のテキストを、これくらいやりないさい!」と伝えた方が良いし、「内申点でAを取ってきなさい!」と伝えるよりは、「内申点を上げるために、この学校の課題を、こういう風にやりなさい!」と伝えた方が良い。

ここにインセンティブとして、「お小遣いをあげる」「好きなゲームを買ってあげる」ということが付け加われば、子どもはより積極的に勉強に取り組めるようになるのだ。

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■「暗記」には抜け道が存在しない

なぜこのように直接暗記するべき内容を伝えた上で、お小遣いをあげるのが効果的なのか。これは勉強の本質と密接に結びついている。学校のテストや塾のテストのように、複数の問題形式が用意されているスタイルのものは、問題形式や出題方法によって子どもの努力が実らなくなることが多い。

事実、テスト勉強や受験勉強を頑張っていたのに、思うように成果が出なかったという経験をしたことのある人も多いのではないだろうか。

このように努力したことが成果に直結しづらいものについては、目標を設定されても本人が辛くなるだけである。

一方で、暗記に関しては、努力をしたことがストレートに結果に結びつきやすい。効率よく暗記をしていくためには、ただ文字列だけを見たりするのではなく関連する知識との繋がりを考えてみたり、イメージ化をしてみたりなど勉強を工夫する努力が必要である。

そのため、子どもが頑張ろうと思えば思うほど、勉強において大切な思考法を身につけることができる。ここが「テストで満点を取ったらお小遣い」と決定的に異なる点である。

テストで満点を取ろうと思った子どもであれば、カンニングをしたり、学校の先生にテストの内容を直接聞いたりなど、悪知恵をはたらかせる可能性がある。しかし、暗記に関しては、「暗記パン」が存在するわけではないから、抜け道を使うことができない。

そのため、効率的に暗記をしようとすれば、すなわち勉強に最も効果的な学習法を子どもが自分たちの手で考えていくことになるのだ。

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■効率的な暗記方法は「反復」と「連想」

暗唱テストの仕組みを使って、筆者が元素周期表を暗記していった過程を参考として紹介する。

まず筆者は、「元素周期表を見る」という王道の方法を試してみた。ただ、水素、ヘリウム、リチウム……と単純に一つ一つ覚えてみようとしたのだが、全く上手くいかなかった。幼少期にはありがちのことだが、当時の筆者は「時間が経てば忘れる」ということを知らなかった。

記憶の仕組みがよく分からないから、一回見たものはそのまま覚えているものだと思っていたのである。しかし、そんなことはあるはずもない。

そこで、発想を転換した筆者は、時間が経てば忘れてしまうなら、一定時間が経つ前にもう一度元素記号を見ておけば、忘れないのだということに気づいた。そして、何度も繰り返し元素周期表を見ることで最終的に全ての元素を暗記することができたのだ。

意外かもしれないが、実は幼稚園児の頭で考えても、直線的にここまでの方法には辿り着ける。

また、文字列だけの元素周期表では覚えにくいと思った筆者は、元素名の音からイメージを連想して覚えてみたら、暗記しやすくなるということも、暗唱練習しているうちに発見した。

「ネオンって音は、猫の鳴き声みたいだな。でもネオンってライトに使われてるんでしょ? それなら、ネオンは光る猫ってイメージだ!」という具合である。

■親は「がむしゃらに暗記できる環境」を整えるといい

これらは幼稚園児の勘で身につけていったものだったのだが、実はどちらの話も脳科学研究などで判明している効率的な勉強法を体現しているものなのだ。

これは決して、筆者に特別な話ではない。柔軟な頭を持っている幼稚園児や小学生であれば、誰にでも起こりうる話だ。お小遣い欲しさに、がむしゃらに物を覚えようとする子どもは、勉強方法や暗記方法に対する固定観念がない。

ノートを取る、教科書を読むという勉強法は、先生や両親に言われて身につける勉強法であって、子どもが先天的に習得しているものではない。そのため子どもは、とにかく本能そのままに、暗記をしようとする。

だから自然と自分の脳の機能に適合した、理想的な形で物事をインプットしていくため、結果的に効率的に暗記する方法が身につくのである。

この話は、どんな子どもにも当てはまる。だからこそ、子どもの可能性を開花させるために、大人は「子どもががむしゃらに暗記できる環境」を整えてあげる必要があるのだ。

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■「幼少期の暗唱テスト」は大学受験の基礎になる

ここまで読んだ読者の中には、「暗記が重要という話なら、別にお小遣いの話とは関係なく、塾でとにかく詰め込み教育を受けた方が良いんじゃない?」と思った人もいるかもしれない。

しかし、お小遣いを渡すことには、塾へ行く以上の意味がある。そもそも、子どもは小学校や中学校に通っている段階で、本当の意味で「勉強が大切だ」とは実感できない。

「勉強していてよかった」と思えるのは、大学進学後だったり、社会人になってからだったりと、勉強するタイミングと勉強の効果を実感するタイミングにはとても時間差がある。

実際に、筆者が47都道府県名を覚えたり、元素周期表を暗記したりしていたときには、勉強の意義などは一切感じていなかった。

しかし、暗唱テストのおかげで覚えたものは、東大受験において重要な科目の基礎となるものだった。後になってその勉強の意義を知ったし、その恩恵を受けることができた。

後から恩恵を受けるものということは、その分長期的な思考が発達していない子どもからすると、勉強の効果や意義を感じにくいということだ。だからこそ、大人に求められる役割としては、勉強をしたことを正しく報いて、子どもが勉強にメリットを感じられるようにすることである。

社会に出て役に立つのは、「テストで満点をとる力」でもなければ「塾へ行く力」でもない。大切なのは「学ぶ力」だ。だからこそ、子どもが学んだことに対して大人側から適切にメリットを提示することが重要なのである。

■親も暗唱テストのために学び直す

ただ「学ぶ力」を適切に評価してお小遣いをあげるというのは難しい。そもそも、出題する側の大人が内容を理解していないとテストすらできない。

だからこそ、「普通の家庭では子どもを塾に行かせて、塾講師にテストをしてもらっているのではないのか」と思われるかもしれない。しかし、これは逆である。逆であるというのは、親が全ての知識を持っていないからこそ、子どもに暗唱テストを出してみると良いということである。

筆者の両親も、あらゆる分野に精通した博学だったというわけではない。むしろ、子どもにテストを出すために、親の側が勉強をしていた。

当たり前の話であるが、日本の歴代総理大臣の名前や慣用句・故事成語といった細かい知識は、学校を卒業すればすぐに忘れてしまう。だからこそ、子育ての中で親が学び直しをしていき、勉強する姿勢を子どもに示していくことが必要だ。

子どもにとって最も身近で、最も信頼できるロールモデルは、親である。

その親が、子どもの前で積極的に勉強する姿勢を見せたり、地理や歴史に関するテストを課している姿勢を見せたりすると、子どもは自然と「勉強するのは当たり前のことだ」という感覚を身につける。

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■子供は「親の姿勢」を見ている

これは、子どもが小学生、中学生、高校生と成長したとしても変わらない。

いきなり暗唱テストを始めることに抵抗感がある親御さんは、まずは親の姿勢を変えてみることからおすすめしたい。

仮に暗唱テストという形でなかったとしても、親が積極的に本を読む姿勢を示したり、学び直しをする姿勢を示したりすることで、子どもの勉強に対する当たり前は変わっていく。

塾から帰ってきた子どもの質問に対して、「そんなこと分からないよ。塾の先生に聞いて!」と返答するのか、「それはね、高校の物理で学ぶ○○と関連している話で……」と返答するのか。こうした一つ一つの会話を通じても、子どもの勉強に対する当たり前は変化していく。

そういう意味では、お小遣いの渡し方に関する制度設計の話とも共通していて、「どれほど親が子どもの学びに寄り添えるかが、子どもの学力に影響する」ということが言える。

とりあえず「テストの結果だけを確認してお小遣いを渡す」のか、それとも「本当に子どもが理解できているか親がテストをしてからお小遣いを渡す」のか。

たとえ親にとっては苦であったとしても子どものことを思いやった行動が取れるかどうかが、実は地頭の良い子どもが生まれるかどうかの分岐点なのかもしれない。

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清野 孝弥(せいの たかや)
現役東大生ライター
2003年生まれ。東京大学法学部の現役学生。公立高校から塾や予備校に通わず、独学で東京大学の文科I類に現役合格。独学で培った勉強法や各科目のノウハウをYouTubeなど数々のオンライン媒体で公開し、授業動画は100万回再生超え。現在は、明豊高校九大専科コースなど全国の高校現場で学習指導や進路指導などを提供している。
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(現役東大生ライター 清野 孝弥)