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山陽学園大学地域マネジメント学部と東北大学大学理学研究科プラズマ・大気研究センターの共同チームによる共同研究は、木星の衛星の一つ、イオで火山爆発が起きたり収束したりを繰り返す様子を観測し、その結果をアメリカ天文学会の科学誌、「Icarus (イカルス)」に発表しました。

【写真を見る】木星の衛星「イオ」の火山は爆発や収束を繰り返している 山陽学園大学と東北大学の研究チームがアメリカの科学誌に発表

共同チーム研究者の一人、山陽学園大学地域マネジメント学部の米田瑞生さんに聞きました。

【画像①】は、イオの火山から発生したガスが、流出し木星周囲に広がっていく様子の再現図です。

ーイオはどのような星なのでしょうか。

(山陽学園大学 米田瑞生さん)
「木星・イオは、地球から遠く、また月ほどの直径しかないイオ(直径約3,600km)は、地球からは満月の1,800分の1程度の大きさにしか見えません。

その火山の観測には、大型望遠鏡や木星に接近する探査機が使われてきました」

ー工夫したところは?

(米田さん)
「研究チームは、イオの火山性ガスがイオや木星の周辺に広く分布し、淡く発光していることに着目しました」

「木星の本体の強烈な光を遮断しつつ、木星周囲の広い範囲の発光を観測できる、10cm望遠鏡を東北大学のグループが、ハワイ・マウイ島標高3,050mのハレアカラ山山頂で運用しています」

「この望遠鏡で得られた観測データを、山陽学園大学地域マネジメント学部・米田瑞生・講師(コンピュータリテラシー・宇宙科学論などを担当)が解析したところ、2017年以降、イオが火山爆発を繰り返している様子が発見されました」

【画像②】は、木星の周囲に広がるイオの火山性ガスの様子。火山爆発により、2018年2月(上)に比べて、4月(下)の方がガスの発光領域が拡大している。色は発光強度を示す。木星本体の光を避けるために、中央の木星は、黒い左上から右下に貼られたマスクに隠されている。

観測を成功に導いたのは「イオ専用の小型望遠鏡」

ー火山が爆発を繰り返す様子を観測したことは、どのような意味がありますか。

「この小望遠鏡で、イオの火山活動の爆発が確認されたのは、初めてのことではありません。しかし、2年間に渡り、火山活動が安定せず変化し続ける様子が観測されるのは珍しいことです」

「大型の望遠鏡は、様々な観測対象に使われるため、継続的にイオを観測することは困難です。イオ専用の小型望遠鏡ならではの成果が得られました」

ーイオ専用の小型望遠鏡は、どのような仕組みのものなのでしょうか。

(米田さん)
「レンズの直径が10cm程度しかありません。日本の国立天文台がハワイで運用する、すばる望遠鏡には、直径8.4mの鏡が用いられていますから、最先端の宇宙の探査に使う望遠鏡としては、最小の部類でしょう」

「しかし、イオの火山から発生したガスは広い範囲に広がり、ぼんやりしています。ですから、細かい構造を見るための性能は必要ありません。広い範囲の非常に暗いぼんやりしたものを観測するため、小さい望遠鏡を使っています。ただし、木星本体は大変明るく、観測の邪魔になっています」

「そこで、木星部分の光をブロックするマスクを備えています。また、イオの火山性ガスに含まれるナトリウムのガスは、道路にもあるナトリウムランプと同じ、オレンジ色で発光しています。余計な光を避けるため、このオレンジ色の光だけを正確に透過するフィルターを備えています。それでも木星の光は邪魔です。ですから、特殊な画像処理も必要です」

ー今回の成果を応用して、今後期待されることはありますか。

(米田さん)
「現在、NASAの探査機JUNO(ジュノー)が木星の周囲を探査しています。また、現在ESA(ヨーロッパの宇宙機関)とJAXAの共同プロジェクトである、探査機JUICEは木星に向かっている途中です」

「これら探査機は木星の周囲の環境を調査するのですが、その環境が太陽から吹き付けるプラズマの流れ、太陽風から影響を受けているのか、はたまたイオの火山から発生したガスの影響をうけているのか、探査機のデータだけではわからないこともあります。このような大掛かりなミッションを、地球にいながら小さな望遠鏡でサポートすることができます」