【森林学者が教える】「森林の保護=手つかずのまま残す」だけが正解ではない。では、ほかにどんな方法があるのか?
いま世界中の森林で大規模伐採が行われ、急速なペースで自然が失われている。私たちの暮らしに木材や用地は不可欠だが、森林の回復を上回るスピードで伐採が進んでいるため、このままでは地球の豊かな自然を未来に残せないおそれがある。
そんな現状に警鐘を鳴らしているのが、米・タイム誌の「世界で最も影響力がある100人」に今年選ばれた、森林生態学者のスザンヌ・シマード氏の著書『マザーツリー 森に隠された「知性」をめぐる冒険』だ。樹木たちの「会話」を可能にする「地中の菌類ネットワーク」の存在を解明し、発売直後から大きな話題を読んだ本書は、アメリカではすでに映画化も決定しているという。
今回は、一般財団法人「地球・人間環境フォーラム」主催のセミナーに合わせて来日したシマード氏に、「森林の保護」のために必要な行動・考え方について伺った。(聞き手・構成/ダイヤモンド社コンテンツビジネス部)
「森林の保護」には、人間の手入れが必要
――シマードさんは今年、米・タイム誌の「世界で最も影響力がある100人」に選ばれました。これまで以上に、シマードさんの研究や活動に注目が集まっていると思いますが、今後特に注力していきたいことはありますか?
スザンヌ・シマード(以下、スザンヌ) まず、タイム誌の著名なリストに名を連ねることができたのは、大変名誉なことだと思っています。
生まれてこのかた、私の人生は常に森林とともにありましたし、森林の存在がいつも私を支えてくれました。ですので、今後も引き続き、「森林の保護」を第一に活動していきたいと思っています。
しかし、「森林の保護」といっても、ただ単に手つかずのまま残しておくのではなく、人間が世話・管理をしなくてはならないケースが多いです。なぜなら、急速なペースでの大規模伐採によって、森林が自律的に回復するサイクルを人間が破壊してしまったからです。
――となると、具体的にはどのような行動をとればいいのでしょうか?
シマード たとえば、樹木の密度を調整する「間伐」によって、樹木が病気に感染するリスクを下げられますし、日光が地表に届くようになるので下生えが回復し、生物多様性を豊かにすることができます。
また、老齢の大木を皆伐して、同一種の樹木を大量に植えるような行為も止めなければいけません。
なぜなら、老木は森林の生態系を維持する「ハブの役割」を果たしているとともに、「森のレジリエンス」、すなわち自然環境の変化に対する耐性も高めているからです。
森林と人間は助け合わなければならない
――森林資源を活用する場合は、どのような心構えが必要でしょうか。
シマード 森林資源は、住宅の資材や紙の原料、燃料など様々な用途に使えますが、いずれにしても「畏敬の念」をもって自然に接することが非常に重要です。
人間の利益だけを考えて、好き勝手に森林から資源を搾取するのではなく、「この行為は、森林の再生能力を損なわないだろうか」ということを常に考えながら、資源を利用しなくてはいけません。
森林を保護するためにやるべきことはたくさんあります。しかし、実行可能なことばかりだと私は考えています。
――まずは、森林に対する考え方を改めないといけないですね。
シマード その通りです。この何十年にもわたって、森林管理においては「木材がどれだけ確保できるか」ということばかりが注目されてきました。
これは、森林の価値を経済的側面でしか考えていない、非常に偏った視点です。森林が生態系を維持したり、二酸化炭素を吸収したりする機能は全くといっていいほど顧みられてこなかったのです。
その帰結として、現在の私たちは「生物多様性の喪失」や「気候変動」といった深刻な課題を抱えることになり、人間を含めて多くの生き物の命を危険にさらしています。
ですので、いまこそ「森林と人間は互いに助け合わなければならない」という考えを私たち全員が持ち、そして具体的な行動に移していくべきなのです。
終わり
(本稿は、『マザーツリー』の著者スザンヌ・シマード氏へのインタビューから構成しました)
カナダの森林生態学者。ブリティッシュコロンビア大学 森林学部 教授
カナダ・ブリティッシュコロンビア州生まれ。森林の伐採に代々従事してきた家庭で育ち、幼いころから木々や自然に親しむ。大学卒業後、森林局の造林研究員として勤務、従来の森林管理の手法に疑問を持ち、研究の道へ。木々が地中の菌類ネットワークを介してつながり合い、互いを認識し、栄養を送り合っていることを科学的に証明してみせた彼女の先駆的研究は、世界中の森林生態学に多大な影響を与え、その論文は数千回以上も引用されている。研究成果を一般向けに語ったTEDトーク「森で交わされる木々の会話(How trees talk to each other)」も大きな話題を呼んだ。『マザーツリー』が初の著書。