浜本吉郎・みずほ証券社長

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「危機の時に連絡があるかないかで、お客様からの信用が全く違ってくる」─みずほ証券社長の浜本吉郎氏はこう話す。2024年8月5日の日経平均株価の暴落は、新NISAで市場に参入してきた投資家を青ざめさせた。その後、株価が回復したため、結果的には「買い場」だったが、その危機の時に顧客にいかに寄り添えたかで、その後が変わる。個人向け営業をいかに強化するか、強みを持つ債券引き受け、米国事業をさらに成長させるための方策は─。


海外投資家から日本市場が注目される理由

「世界経済の行方を決めるのは、やはり米国経済であり、それを基にした米株式市場。米国のファンダメンタルズには強さがある」と話すのは、みずほ証券社長の浜本吉郎氏。

「世界経済の行方はロシア・ウクライナや中東での紛争など地政学リスクもあり混沌としている。それを左右する米国経済はインフレ懸念は完全には払拭されてはいないが、FED(米連邦準備制度)は利下げのコンフィデンス(確信)を持っている」(浜本氏)

 市場では、米国の利下げについて年内3回、来年4回という見通しもあるが、これには「やや楽観的過ぎるのではないか。こうした見方は要注意」と浜本氏。ただ、米国経済の底堅さはあり、大きく需要が喪失する、景気の〝クラッシュ〟のような事態は考えにくいと指摘する。

 米国株は今後も堅調だというのがメインシナリオだと見る。そのため、グローバル投資家のリスク許容度はあり、米国に次ぐ資産の振り向け先として、株価にまだ割安感のある日本が注目されている。

 ただ、日本では2024年8月5日、日経平均株価が暴落、前週末比4451円安の3万1458円を付けた。この下落幅は、1987年に起きた世界的株価暴落「ブラックマンデー」を超えた。

 7月の雇用統計で米国の失業率が市場の事前予想よりも大きく悪化、利上げを見送ると見られていた日銀が短期の政策金利を0.25%に引き上げる追加利上げを行った上、総裁の植田和男氏がさらなる利上げを示唆する「タカ派」発言をしたこと、市場で超低金利の円を借りて高金利のドル資産に投資する「円キャリー取引」の急速な巻き戻しが起きたことが要因。

 それでも、その後、日経平均株価は回復。浜本氏は、日本株が世界の投資家から注目される理由を3つ挙げる。

 第1に、日本が30年続いたデフレから、持続的なインフレに向かっていると見ているから。その表れとして24年9月の1週間、欧米、中東、アジアの約300社の投資家が来日し、200社以上の日本の上場企業、20社程度のスタートアップとミーティングを行った。過去に例を見ないくらいの海外投資家の参加だったという。

 第2に、そうした日本の変化を裏書きするように、日銀が金融の正常化に向けて踏み出したこと。8月5日の暴落で痛手を被った投資家もいたが、長期投資家はむしろ、値下がりのタイミングで買いに入ることができた。この時、みずほ証券のコールセンターでも7割が買い注文、3割が売り注文だった。

 第3に、日本企業がPBR(株価純資産倍率)やガバナンスの改善、「モノ言う株主」を始めとする投資家との対話に力を入れ、企業価値向上に注力していること。そのためにM&A(企業の合併・買収)、MBO(経営陣による買収)など、様々な手法を駆使している。

「海外の投資家から見て、日本市場が欧米のような『普通の資本市場』になってきたという期待感がある」(浜本氏)

 今後為替が140円台、多くの上場企業が想定する145円前後で推移して、利益を上方修正する企業が相次げば、再びの日経平均4万円が見えてくる。みずほ証券では24年10―12月に4万円、25年1―3月に4万1000円という見通しを持つ。