ワールドと日本政策投資銀行によって買収、子会社化されることになったライトオン。1株231円のところ、110円での売却となったのは、会社側のギブアップのサインだったのかもしれない(編集部撮影)

ライトオンが買われるのか――。

ライトオンでジーンズを「買った」経験のある人は多いだろう。その同社が他グループの傘下へと「買われる」ことになった。「Right-on」の看板で有名かつ馴染みの衣料品チェーンに対する買収が報じられた。

買い主は、タケオキクチなどを手掛けるアパレル大手・ワールドと、日本政策投資銀行だ。さきほど私は「買われる」という表現を使ったが正確には、両社が有している投資会社を主人公として、ライトオンを子会社化するため、同社の株取得を12月頃から進めるという。

業績悪化で事業継続が困難となったためであり、いわゆる友好的TOBだ。

1株231円なのに110円で売却

当稿の執筆時点である10月10日夜時点では株価は231円だが、1株110円での買い付けを進めるようだ(編集部補:買収の報道が流れた後、246円まで急騰)。

さらに全株買い取りと非上場化を目的とするものではないため、買い付けの下限を設定しており株式の約52%とした。上場の維持を目指すためのものだという。

ライトオンは声明を発表しており、「本公開買付けが開始された場合には、本公開買付けに賛同する旨の意見を表明する」ものの「当社の株主の皆様のご判断に委ねる」とした。

通常、子会社化による経営再建では、上場廃止が検討されることが多いが、上場維持の意思は投資家や市場への信頼感を保つ狙いがある。

ライトオンはワールド傘下で再建を図りつつも、外部からの資金調達や成長機会を確保し続ける可能性があるだろう。さらに、東証スタンダード市場におけるガバナンス強化のため、透明性の向上も期待される。


なお、8日夜のライトオンの2024年8月期決算説明会では、販管費の削減にも言及された。具体的な数こそ明かされなかったものの、「不採算店舗の大規模な退店」を断行するという。

ライトオンは現在、全国で340店舗あるが、最盛期の2015年8月期には516店舗を数えていた。24年8月期も、2店舗の出店と35店舗の退店で純減33店舗だったが、この先、どの程度まで減ることになるのか。


2020年に創業家から新社長が就任した。ただし新社長でも業績を改善させることはできなかった、というわけか。

決算の推移を見ていくと…

そこで、単独決算での推移を見てみよう。ここではあえて、本業の強さを見るために、売上高と営業利益を調査した。

10年の推移を見たものだが、ライトオンは新型コロナのだいぶ前から好調とは言いがたい。2015年には売上高が782億円で営業利益が23億円だったところ、2024年には売上高388億円、営業利益▲50億円(営業損失50億円)となっている。ライトオンは長期にわたる不振に悩んでいるといっていい。

他のファストファッションの台頭、そして消費者からするとジーンズやアメリカンな品揃えに対する訴求性の低下があったのは否定できない。細かなことは多々あるかもしれない。

しかし、何より売上高が減少している一点において苦境が伝わってくる。10年で売上高が半減してしまっており、これは助けを求めるのが自然といえるだろう。

ところでライトオンがワールドの傘下になるとして、どのような効果が考えられるだろう。発表資料等を強引にまとめると次のようになる。

(鄯)人材・業務支援面でのシナジー

経営層や人事・総務・経理など、バックオフィス業務の効率性と品質を向上させる

(鄱)MD・仕入れ・調達面でのシナジー

ワールドグループのMD設計や生産管理ノウハウを活用し、仕入れ・調達コストの改善を図る

(鄴)情報システム・物流面でのシナジー

基幹業務システムや物流網の整備・統合し、効率化を実現する

(鄽)店舗開発・運営面でのシナジー

店舗開発や運営ノウハウを共有し、効率的で高精度な店舗設計や出退店を可能にし、売り上げ拡大や機会損失を防ぐ狙いがある

(酈)新規事業開発面でのシナジー

ワールドグループのオリジナル商品企画やEC事業と、ライトオンの路面大型店運営の強みを融合し、相互に新規事業の開発を目指す

(酛)マーケティング・顧客管理面でのシナジー

ワールドグループのデジタル顧客情報とライトオンの店舗顧客情報を活用し、マーケティングの効率化と顧客管理のシームレス化を図る

問題は売上高の低下だ。もちろん他の施策も否定されるべきものではない。ただ、このなかで売上高の上昇に寄与するものは、(鄽)や(酈)だろうか。とくにプライベートブランドを増やす利益率の向上が期待される。

個人的な話だが、私の出身県である佐賀県にもライトオンがある。帰省のたびにぶらぶらとショッピングモールを歩くことがよくある。ライトオンもよく見に行く。しかし、購入にはいたっていない。

低価格競争に追随できなかったことが、業績不振の一理由ではあるだろう。ただ、それよりも、他のファストファッションの隆盛により、迅速に市場ニーズに合致した商品を供給できなかったり、他社の商品サイクルがより速かったりするために競争力を大きく損なったのが要因ではないかと私は思う。

さきほど挙げたとおり、ワールドが子会社化後に目指すのは、ライトオンの既存の店舗網を生かしつつ、自社のサプライチェーンのノウハウを導入することによる、ブランド価値の上昇だ。また、コスト面でもシナジー効果により、効率的なサプライチェーン・在庫管理体制を構築し、業績回復を狙っている。

もちろん、日本政策投資銀行との協力により、資金面での安定性が確保される点もライトオンの再建に向けた重要な要素となる。

ワールドとの連携で期待したい点

そのうえで、ワールドとの連携で期待したい点を述べる。そして、以降は凡庸な内容だ。しかし、凡庸な内容こそがもっとも重要なのかもしれない。くだらない進言がもっとも真実であるように。

まず、商品開発の迅速化と柔軟性が必要だ。ワールド傘下に入ることで、MD(マーチャンダイジング)ノウハウの活用は、ライトオンの商品開発において大きな強みとなるはずだ。

これにより、ファッション市場のトレンドを迅速に反映し、競合他社に負けない商品を提供できる可能性が高まる。

大事なのは消費者のニーズを満たすことができるか


さらに融合により生まれるプライベートブランドや限定商品などは、価格競争に巻き込まれるのではなく、品質やデザイン、ブランドストーリーといった付加価値を持たせることで、消費者にとっての魅力が高まる。

また、ライトオンは店舗網を生かした新しい顧客体験の提供も可能だ。ワールドとの連携で、デジタルマーケティングや顧客管理システムの強化が進められると、顧客の購買行動データを基にした個別の提案や、パーソナライズされた商品展開が実現する。

これにより、既存の顧客を維持するだけでなく、新たな層の顧客獲得にもつながる。

ライトオンが再建に向けて魅力的な商品開発を行うには、消費者との接点を増やし、彼らのニーズに迅速かつ的確に応える仕組みが不可欠だ。ファッション市場は常に変動しており、トレンドの移り変わりも速い。ワールドグループの支援を受けることで、商品開発のスピードアップやコスト削減のシナジー効果が期待でき、これが業績回復への道筋となるだろう。

ライトオンの社名は、英語で「まったく正しい」「本当に信頼できる」「進歩的な」という意味があるという。その意味で、ワールドとの連携が「まったく正し」かったね、といわれるよう祈念したい。

そうそう、私が若い頃はライトオンに「最新流行の」イメージもあった。スラングでは、Right-onにその意味もあるらしい。

(坂口 孝則 : 未来調達研究所)