『おむすび』写真提供=NHK

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 『おむすび』(NHK総合)第9話は、前半が野球ものの青春ドラマ、後半で博多のギャルの家庭事情を描いた。

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 糸島東高校と福岡西高校の野球部の試合は、3対3の同点のまま9回裏ノーアウト満塁で、糸島東がサヨナラのチャンスを迎えた。結(橋本環奈)や風見(松本怜生)たちスタンドの応援もヒートアップする。ここで福岡西のマウンドに上がったのは、1年生の四ツ木翔也(佐野勇斗)。球速145キロと高校1年生離れした球を投げる右腕は、後続の打者を三振で切って取り、またたく間にツーアウトに。バッターボックスに立ったのは、結の幼なじみの陽太(菅生新樹)だった。

 結にホームランを打つと宣言した陽太は、力みすぎて翔也の速球にタイミングが合わない。これまでかと思われた3球目、大きく振りかぶった翔也のボールをバットがとらえた。『下剋上球児』(TBS系)や『ドラフトキング』(WOWOW)など、近年、野球の試合を映したドラマで、カットの構図や画角を工夫することで臨場感あふれる映像が生み出されている。本作の翔也と陽太の対決もスローモーションを活用し、迫力あるシーンとなった。

 試合は結局、延長10回表に10点を奪った福岡西が快勝。勝利を引き寄せた1年生ルーキーを地元紙は大きく取り上げ、メガネをかけた翔也は「福西のヨン様」と呼ばれる。「ヨン様」は韓国ドラマ『冬のソナタ』の主演俳優が元ネタと思われる。さて、一夜にして時の人となった翔也に結はばったり会う。今度も場所は海沿いで、聞くと翔也のランニングコースになっているとのことだった。

 福西のヨン様は結の前では「鬼怒川のカッパ」になる。メガネをかけているのは乱視だからでふだんは裸眼。スタミナが課題で走り込みをするのは陸に上がったカッパだから? トマトのお礼にとちおとめを渡す場面はカッパの恩返しだった。獲れたてのイカを持参した陽太との対決に勝利した翔也は、無意識のうちに結をめぐる男同士のバトルに勝ったことになる。栃木弁で地元のイチゴが一番と力説するくだりで、栃木出身のお笑いコンビが頭に浮かんだのは筆者だけではないだろう。なおイチゴは福岡の名産で、栃木と福岡はイチゴつながりだった。

 結は聖人(北村有起哉)の干渉をうっとおしく思い、伝説のギャルだった姉・歩(仲里依紗)に複雑な感情を抱いている。第2週ではギャルの家庭事情が明かされたが、一見すると悩みがなさそうな“ルーリー”こと瑠梨(みりちゃむ)も、家族の問題を抱えていることが描かれた。仕事で忙しい母親と家に帰ってこない父親。夕飯はコンビニパスタで、ハギャレンの仲間と会っていないとき、瑠梨の背中には寂しさが漂う。夜の中洲を歩く瑠梨にチャラ男たちが声をかけた。昼間の太陽と夜の街の対比が印象的だった第9話。結をとりまく人間模様も本格的に動き出しそうだ。(文=石河コウヘイ)