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兵庫県神戸市の私立高校に在籍する男性教師が女子生徒に「痴漢している」ーー。そんな投稿が10月に入って、X上で話題になっている。投稿には動画も添えられており、男性が制服を着た女性の体を手で触る様子が映っている。

すでに削除されているが、投稿で名指しされた高校の校長は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して、教師の在籍を認めたうえ、教師を懲戒処分にするなど適切に対処したと述べた。

一方で、生徒の顔を公開して特定できるような投稿は問題だとして、警察に被害を相談していることも明らかにした。今回の投稿は名誉毀損と肖像権侵害の問題があると弁護士は指摘する。

●映像は削除されてアカウントも非公開になっている

高校によると、問題の動画は、10月1日ごろにX上で投稿されて広まったという。

投稿は、教師の名前と高校名を記載したうえで、この教師が女子生徒に「電車内で痴漢している様子」として動画も添えている。男性が制服姿の女子の身体を手で何度か触っている様子が映っていた。

当初、映像の男性と生徒の顔にはぼかしがなく、その後になって生徒の顔にぼかしを入れた動画が改めて投稿された。10月3日になると、投稿者は「目的は達した」として、投稿を削除し、アカウントを非公開にした。

●学校「行き過ぎたスキンシップで問題行動」→教師を懲戒処分

今回の投稿について、名指しされた私立高校の校長は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して、動画の男性が高校の教師であると認めた。9月8日の日曜日に撮影されたものとみられるという。

「たしかに行き過ぎたスキンシップで問題のある行動だと思う。本校としても問題と捉えている」(校長)

体を触られた生徒の保護者からは寛大な措置を求める声もあったというが、学校は教師を懲戒処分にした。なお、2人が交際・恋愛関係にあるという話は聞いていないという。

"行き過ぎたスキンシップ"に問題はないのだろうか。

学校問題にくわしいライターの渋井哲也さんは「『教員による性暴力防止法』は、教員が児童・生徒に性暴力をふるうことを禁止しています。刑事罰とならない行為も含まれており、児童・生徒の同意の有無は問われないとされています。今回の動画を見ましたが、教師の行為は『わいせつ』とまではいかないまでも、法の趣旨からはNGといえるでしょう」と指摘する。

10月1日には、学校から保護者に事案を報告しており、さらに動画の投稿者に対して法的措置を検討しているという。

「学校は生徒を守らないといけません。生徒の顔を晒して、このような動画を公開することは大きな問題と捉えています。言われのない新たな誹謗中傷を生むような行為です。警察に相談しています」(校長)

今回の投稿を受けて、SNSでは教師の行動を批判する声も上がる。しかし、女子生徒の顔まで公開したことに、「女子生徒の周辺の友人や同級生は、このポストを見て容易に個人を特定できるだろう」「SNSで拡散する必要ないでしょ。女の子の人生をなんだと思ってんの」と投稿者の行動を疑問視するものも少なくない。

●教師を名指しすることは法的に問題か? 名誉毀損と肖像権の侵害は?

インターネットの問題にくわしい清水陽平弁護士は「教師を名指しで『痴漢をしている』という指摘がされている点で、教師の社会的評価が下がると言えることから、名誉毀損の問題が生じる」と指摘する。

「ただし、投稿には、公共性や公益目的があると思われることや、動画で、生徒の体に触っているという指摘自体は真実であり、生徒が嫌がっている様子もないように見えます。そのため、『痴漢』という指摘が適切かはわからないものの、その指摘に違法性がないと判断される可能性は高いと思います」

今回のケースでは、動画によって、教師と生徒の容貌が判別できる形で公開されたことから、肖像権の問題も生じる。肖像権は「受忍限度」を超える場合、つまり、我慢すべき程度を超える侵害があった場合に問題となる。

「生徒との関係などを踏まえると、教師の行為は適切でない、とはいえます。しかし、仮に生徒の同意があるのであれば、あえてSNSに公開するのではなく、学校に通報するだけでも良かったとも考えられます。教師の受忍限度を超える侵害があるとされる余地はあると考えます。

生徒についても、当初の動画では容貌が確認できるものだったであったようであるため、肖像権の問題が生じます。また、未成年であり、仮に『痴漢』されていた場合には通常、被害者の情報まで晒すのはどうかといった配慮があることなども考えれば、受忍限度を超える侵害があるということになると思います」

【取材協力弁護士】
清水 陽平(しみず・ようへい)弁護士
インターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定について注力しており、総務省の「発信者情報開示の在り方に関する研究会」(2020年)、「誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ」(2022〜2023年) の構成員となった。主要著書として、「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル第4版(弘文堂)」などがあり、マンガ・ドラマ「しょせん他人事ですから〜とある弁護士の本音の仕事〜」の法律監修を行っている。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:https://www.alcien.jp