Photo: 照沼健太

AIと人間の区別がつかない時代がもうすぐそこに?

Open AIが脅威の性能を誇るChatGPTの音声対話機能を公開間近。さらにはAppleがiOSやMac OSに組み込む生成AI「Apple Intelligence」を発表するなど、AI競争はさらに加速しています。

そんなAIと人間の区別がつかない未来を予見したかのような作品が、95年公開の映画「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」です。本作の関連作品として、1997年にPlayStation用ソフトとして発売されたゲーム「攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL」のサントラに参加していたデトロイトテクノのオリジネイターの一人、デリック・メイが、今年5月に東京・新宿のZepp Shinjukuで開催されたイベント「DEEP DIVE in sync with GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」のために来日。

テクノミュージックという、その名の通りテクノロジーと密接に結びついた音楽の第一人者は、今この時代の変化をどのように捉えているのでしょうか?

「21世紀のメンタリティー」を描いた作品とその音楽

──「攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL」のサントラに参加した経緯を覚えていますか?

デリック・メイ:弘石(雅和)や安藤洋子さんと共にソニー・ミュージックと一緒に仕事をしていた頃の話だね。弘石がサントラのコンピレーション担当で、彼らから依頼をもらって「To Be Or Not To Be」という新曲を書いたんだ。ストックから提供したわけじゃなく、ゲームのために作った曲だよ。

──映画「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」のことは知っていましたか?

デリック・メイ:もちろん。俺は『AKIRA』の時代から日本のコミックファンでありアニメファンだから。

弘石雅和さん:当時はまだインターネットが普及してなかったから電話とFAXが主な連絡手段だったんですけど、サントラへの参加依頼をした時にデリックはちょうど「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」のビデオを観ていたって言うんですよ。

デリック・メイ:ごめん、あれは嘘だった(笑)。

一同:(笑)。

デリック・メイ:でも「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」が好きなのは本当だよ。僕は日本のアニメにすごく関心を持っていたし、あの作品は本当に「21世紀のメンタリティー」を表現した作品だと思っていたんだ。

──そんなサントラに提供した「To Be Or Not To Be」は当時「約7年ぶりのデリック・メイの新曲」と話題となりましたが、これは一般的にイメージされるデトロイトテクノでもなければ、ダンストラックでもないですよね。

デリック・メイ:今までやってきたこと以外のことをやりたかったんだ。あの時点で「デリック・メイっぽい」ダンスフロア向けの曲や作るのは自分の中ですっかり慣れきって簡単だったからね。そのかわりもっと実験なことがしたくて、“壊れたコンピューター”みたいな曲を作ろうと思ったんだよ。

──壊れたコンピューター?

デリック・メイ:何度も再起動しようとするクレイジーな機械って感じで、周波数が上がったり下がったりする曲だよね。

──ああ、なるほど!

デリック・メイ:そういうイメージで作ったんだ。YAMAHAのDX100、DX7、OberheimのMatrix 12、KORGのSQD-1といった機材を中心に、いろんなEQエフェクトを使った。可聴範囲外の周波数もいじっていた曲だから、当時のテクノロジーはそれにうまく対応できず、上手くマスタリングできなかった。

──「To Be Or Not To Be」はハードウェア機材で作ったとのことですが、今はDAW(PC上の作曲・録音ソフト)が……。

デリック・メイ:(DAWは)好きじゃない。

──テクノロジーという点ではどちらも同じでは?

デリック・メイ:俺はビックカメラに行きたいんだ。Amazonは使いたくない!自分の手で触りたいんだ。

※筆注:インタビュー後、雑談時にデリックのiPhoneにAmazonアプリが入っているのを発見。「てへぺろ」なリアクションが見られました(笑)。

新曲を作らない理由。DJとアーティスト活動の違いについて

Photo: 照沼健太

──97年にリリースされた「To Be Or Not To Be」は、あなたにとってほぼ最後の新曲と言っていい楽曲ですよね。

デリック・メイ:うん。正直、もう長い間楽曲は作っていない。音楽業界で仕事をしている中で「これはアートではなく完全にビジネスなんだ」と理解する瞬間があり、心を折られてしまった時期があったんだ。そこから、自分で曲が作れないなら、曲を作る他の人たちをサポートしたいと思ってレーベル「Transmat」の運営に力を入れることにしたんだよ。

──その一方であなたはDJ活動は続けています。DJと作曲の違いは?

デリック・メイ:DJと曲作りは明確に違う。DJはむしろバトルするような意識でやってる。今持ってるレコードバッグの中で、目の前にいるオーディエンスたちをぶっ飛ばすという意識。

彼らが聴いたことのない音楽を一つの体験として聞かせてぶっ飛ばし、「こんな音楽があるんだ!?」と思わせたいんだ。デリック・メイのDJを聴いた後は、それが彼らの基準になって、他のDJを体験した時に毎回自分のことを思い出すようにしたい。

曲作りは……。君は音楽を作る人?

──以前は曲を作ってました。

デリック・メイ:どうしてやめてしまったんだい?

──バンドをやっていたんですけど、バンドが解散してから曲を作るのをやめました。

デリック・メイ:また曲を作りたいという気持ちはある?

──あります。

デリック・メイ:うん。俺は自分が新しい音楽を作れないことについて、君と同じ気持ちを抱いてる。「作りたい」とは思っているんだ。ずっと「いずれやろう」と考えながらも、DJを優先してきた。でも、DJで世界中を回るのはメンタルにもフィジカルにも負担になる。だから曲を作ることができなかった。そんな中、自分で曲が作れないなら、アーティスト活動じゃなくレーベル運営に力を入れたいと思って、そうしてきたんだよ。

デリック・メイが愛するテクノロジーと創造性

Photo: 照沼健太

──僕たちギズモード・ジャパンは、ガジェットやテクノロジーを扱っているメディアです。95年公開の「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」から約30年が経ちますが、その間の特に印象的なテクノロジーはありますか?

デリック・メイ:俺たちのレーベルは、もっとも最先端の曲を作っているアーティストを世に出すことをいちばんの目的としていた。だから、まだWebサイトが珍しかった頃に、グラフィックを駆使した「ホームページ(※当時のWebサイトの一般的な呼称)」を作ったんだよ。でも、当時はまだそこにオーディエンスはいなくて、せっかく美しいWebサイトを作ったのにほとんど見られなかった。まったく、お金が無駄になってしまったよ(笑)。

──(笑)。音楽機材周りでのテクノロジーの進化についてはどうですか?

デリック・メイ:DJはどんどんクリエイティブさが減っていると思う。ギターは今でもギター、ドラムは今でもドラムだけど、DJはもうDJじゃない。今のDJはボタンを押すだけで、後は機材がやってくれる。アートとしてはすっかり変わってしまったよ。スキーに例えるなら、トリックも何もせず、ただ直線的に山を降りるだけみたいな感じだ。でも、僕はまだDJをやりたい。決して「古いスタイルでやりたい」ってわけじゃなく、アートが持つ難しさや複雑さをみんなに感じてもらいたいんだ。

──最近のテクノロジーと言えば、何よりも生成AIだと思うのですが、使ったことありますか?

デリック・メイ:ChatGPTは怖いぐらい印象的だね。家で一人ぼっちになりやすいテクノロジーだと思う。

──創作における生成AIの活用についてはどう考えていますか。

それについてはこの前、カール・クレイグ(デトロイト・テクノ第2世代を代表するDJ)と話すことがあった。僕らの世代は、やっぱり自分の手でアートを作ることが基本だから、生成AIはズルしている感じがあるって話になった。これからの世代のミュージシャンがそれを使うことに文句はないし、テクノロジーの変化はすごい楽しみだけど、僕らとしてはどうしてもチートだと感じてしまう部分があるんだ。

──あなたは、現代社会のテクノロジーや進歩の方向性についてはあまり好ましく思っていない?

デリック・メイ:いや、否定したり、ネガティブになったりすることはできない。きっと「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」のメガテク・ボディ社みたいな企業が生まれて、すごいことになっていくだろうし、嫌がってもしょうがない。ただ「気にしていない」ってだけ。このまま好きなことをやり続けたいんだ。

──あなたが使うテクノロジーと使わないテクノロジーの境目があるとしたら、どういう基準ですか?

デリック・メイ:シンプルだけど良い質問だ。ちょっと考えさせて欲しい。

……例えば、クオンタイズ(ビートのテンポをより正確にする機能)は役に立った。リズムをタイトにしてくれる。でも、完全に意図していなかったものがつくられるなら、それはアーティストじゃなくAIの判断だ。うん。どれだけアーティストのチョイスや気持ち、判断が入っているかが境目だと思う。作った人間が決めていないものばかりが入ってくると、それは違うと感じる。どれだけ自分の意思が込められるかどうか。そこにDNAが宿るんだ。

──ダフトパンクのメンバーだったトーマが去年のインタビューで、彼らの解散理由について「今、現在の世界で一番なりたくないものはロボットだ」と言っていました。

デリック・メイ:ああ。俺は決して彼らのファンではないけど、その言葉には賛成するよ。

『攻殻機動隊〜ビデオゲーム・サウンドトラック MEGATECH BODY. CD., LTD.』

発売日:

2024年9月18日(水)

CDトラックリスト:

Disc1

01. Ghost In The Shell/石野卓球

02. Firecracker/Mijk Van Dijk

03. Ishikawa Surfs The System/Brother from Another Planet

04. Spook & Spell (Fast Version)/Hardfloor

05. Featherhall /Westbam

06. The Vertical/Joey Beltram

07. Blinding Waves/Scan X

08. The Searcher Part II/The Advent

09. Spectre/BCJ

10. Can U Dig It/Dave Angel

11. To Be or Not To Be (Off The Cuff Mix)/Derrick May

12.To Be or Not To Be (J.Q. Public Mix) / Derrick May ※Bonus Tracks

Disc2 01. Fuchi Koma/Mijk Van Dijk

02. Down Loader/The Advent

03. Thanato/BCJ

04. Moonriver/Westbam

05. Brain Dive/Mijk Van Dijk

06. Spook & Spell (Slow Version)/Hardfloor

07. Die Dunkelsequenz/Westbam

08. Section 9 Theme/Brother from Another Planet

09. So High/Dave Angel

10. To Be or Not To Be (The Mix of a Mix Mix)/Derrick May

11.The Searcher Part I/The Advent ※Bonus Tracks

12. To Be or Not To Be (Off The Cuff 2024 Redefined Mix)/Derrick May ※Previously Unreleased

購入:

https://lnk.to/ghost-in-the-shell-CD

『攻殻機動隊〜ビデオゲーム・サウンドトラック MEGATECH BODY. DIGITAL. LTD.』

発売日:

2024年9月18日(水)

配信トラックリスト

01. Ghost In The Shell/石野卓球

02. Spook & Spell (Fast Version)/Hardfloor

03. Moonriver/Westbam

04. Can U Dig It/Dave Angel

05. Featherhall /Westbam

06. So High/Dave Angel

07. Spook & Spell (Slow Version)/Hardfloor

08. Die Dunkelsequenz/Westbam

※トラック1の石野卓球「 Ghost In The Shell」は単曲での購入はできません。

アルバム購入には含まれます。

サブスクリプション/ダウンロード:

https://lnk.to/ghost-in-the-shell-Digital