泉房穂が聞いた斎藤兵庫県知事の仰天発言「知事になって特にやりたいことは別にない」「なぜ兵庫に住まないとあかんのですか」…本当に問題なのは知事ではなく、62年に及ぶ兵庫県の“官僚主義”と語る理由

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新刊『わが恩師 石井紘基が見破った官僚国家 日本の闇』を刊行した泉房穂は、明石市長時代に斎藤元彦兵庫県知事から着信拒否された過去があるという。パワハラ疑惑に揺れる斎藤知事の素顔、そして「腐り切っている」と指摘する、62年に及ぶ兵庫県の官僚主義とは。

〈画像〉泉房穂が師匠と仰ぐ故・石井紘基氏

兵庫県は62年間官僚が行政を仕切っている

──現在取り沙汰されている斎藤元彦兵庫県知事のパワハラ問題について、泉さんはどう見ていますか?

私は知事個人というよりも、兵庫県庁の組織そのもので見たほうがいいと思っています。兵庫県は1962年から62年間、脈々と総務官僚が行政を仕切っています。チェック機能が働いていない、相当腐り切っている組織なんです。

──確かに斉藤知事も、前知事の井戸敏三氏も総務省出身です。

前回の県知事選は、公用車をセンチュリーに変更した井戸前知事の後継の総務官僚か、センチュリーに乗らない若手の総務官僚(斎藤知事)か、どちらを選ぶかやったんですよ。結局センチュリーに乗らない代わりにカニや牡蠣を持って帰る人が知事になったんやから、一緒やねん。知事に忖度しまくる組織風土があるから、彼がこうなってしまった面もあると思います。

──まさに官僚政治の弊害だと。

官僚政治には良さと悪さがあるんです。決められたことは無難にこなすけど、時間の経過ととともに組織として肥大化していく。

官僚の特徴は上に従う「お上主義」と、「横並び主義」、そして「前例主義」で凝り固まっている。これが漫然と続くだけだから、時代に即した方針転換ができません。今回の問題は、官僚出身者における県政全体の課題が浮き彫りになったと思います。

「なぜ引っ越さなあかんのですか?」

──明石市長時代に泉さんが実際に目にした斎藤知事の仕事ぶりは?

知事選前に彼と食事をしたことがありますけど、「なんで兵庫県知事になりたいの?」と聞いたら、「自分の名前が元彦だから」と言われてビックリしました。

彼が生まれたときに、おじいちゃんが当時の兵庫県知事の金井元彦氏から名前を取ったらしく「おじいちゃんのために知事になる」と言うんです。意味わからん(笑)。「知事になって何がしたいの?」と聞いても「特にありません」と言ってました。

当時彼は大阪に住んでいたので、「知事になるなら早く(兵庫に)引っ越したほうがいいよ」と言ったけど、「なぜ引っ越さなあかんのですか?」と言う始末。まさに官僚や。出向と一緒だと思っている。

兵庫県にも兵庫県民にも政治にもさほど興味がない。知事のポストが欲しかっただけや。だから今も知事の座に固執している。県政が停滞して県民に不利益が生じようが関係ないし、「県民が苦労するから辞めなきゃ」という思考にもならない。

──泉さんは明石市長時代、斎藤県知事から着信拒否をされたことがあるとか?

彼は私だけでなく、他の市長や政治家となかなか会おうとしない人でした。議論が嫌いやし、言い負かされるのが嫌だったんでしょう。前井戸知事なんか普通に電話でやり取りできていたのに。だから周りも困っていましたね。

彼の携帯に直接電話して「知事になったんやから、県内の市長や町長と連絡取り合わなあかん」と言ったことがあるんですけど、その直後に着信拒否されてしまいました。

まあ、今回の事態については、知事個人の資質の問題と、62年間も総務官僚の天下りが行われてきた兵庫県の構造の問題とが重なり合って招いた結果のように感じています。

取材・文/松山梢

『わが恩師 石井紘基が見破った官僚国家 日本の闇』

泉房穂

2024年9月17日

1,045円(税込)円(税込)

新書判/256ページ

ISBN: 978-4-08-721330-0

2002年10月、右翼団体代表を名乗る男に襲撃され命を落とした政治家・石井紘基(こうき)。当時、石井は犯罪被害者救済活動、特殊法人関連の問題追及等で注目を浴びていた。その弱者救済と不正追及の姿勢は、最初の秘書・泉房穂に大きな影響を与えた。

石井は日本の実体を特権層が利権を寡占する「官僚国家」と看破。その構造は、今も巧妙に姿を変え国民の暮らしを蝕んでいる。

本書第I部は石井の問題提起の意義を泉が説き、第II部は石井の長女ターニャ、同志だった弁護士の紀藤正樹、石井を「卓越した財政学者」と評する経済学者の安冨歩と泉の対談を収録。石井が危惧した通り国が傾きつつある現在、あらためてその政治哲学に光を当てる。