斎藤元彦兵庫県知事(写真・馬詰雅浩)

 兵庫県斎藤元彦知事は、9月6日に行われた県議会特別委員会(百条委員会)に証人として出席、これまでの発言同様自らの正当性を繰り返し述べた。

 3月中旬、元西播磨県民局長が知事によるパワハラなどを訴える告発文書を報道機関に配布。4月には県の公益通報窓口にも通報した。ところが、県は元局長を公益通報の保護対象とせず、5月に停職3カ月の懲戒処分とした。そして7月に元局長は自殺している。

 消費者庁のHPによれば、労働者などが事業者の内部や外部へ公益通報をした場合、それを理由に解雇その他不利益な取扱いを受けることのないよう、公益通報者保護法により守られる。

 しかし、この日の百条委員会で、通報者を保護対象にしなかったことについて改めて問われた斎藤知事は、「手続きに瑕疵はない」と突っぱねた。しかも、公益通報の窓口に通報しているにもかかわらず「公益通報に該当するとは思っていない」と強弁した。

 はたしてこうした知事の対応は「刑事罰」に相当しないのか。公益通報に詳しい弁護士はこう話す。

「そもそも、公益通報窓口に通報しているのに、公益通報には当たらないという理屈は通らないでしょう。最初に告発文書をマスコミに流した段階では、公益通報に当たらない可能性があります。ただ、その後公益通報窓口に通報したので、そこで公益通報者保護法が適用されるはずです。

 問題は、知事が告発文書を書いた職員を特定し、そのパソコンを押収するなど、プライベートな部分まで勝手に引き出したこと。これは不法行為にあたるでしょう。しかし現行法では、通報者が不利益を被ったということに対しての刑事罰や行政処分は規定されていません。当事者が民事訴訟で損害賠償等を求めるにとどまっているのが現状です。

 しかし、同法律では、公益通報者の氏名などを漏らすと、守秘義務違反の刑事罰として30万円以下の罰金が科せられます。兵庫県として内部告発者を特定し、その職員に対して懲戒処分を下したことで、実質的に告発者の氏名がわかってしまった、となれば、この罰則が適用される可能性があります」

 斎藤知事を刑事罰に問えれば、事態は大きく変わるはず。同弁護士によると、もう一つ、斎藤知事を法的に処罰できる可能性があるという。

「公益通報した内容を第三者機関が調査もしないで、停職3カ月の懲戒処分を下した。その処分と自殺の因果関係を遺族が問えば、民事で国家賠償を勝ち取れるかもしれません」

 今回の百条委員会では、5日に上智大学の奥山俊宏教授が参考人として出席、職員に対する県の対応は不適切だったと指摘した。また、6日に参考人として出席した消費者庁公益通報者保護制度検討会委員の山口利昭弁護士も、県は告発した職員が不利益な取り扱いを受けないための措置を講じる義務があり、「今も違法状態が続いている」と指摘した。

 この問題の解決への道のりは遠そうだが、そうした手段を取らないと、知事自らが自身で何をやったのか気付くことはなさそうだ。