「迷惑車両をさらして撲滅する」SNSで人気を博す“正義マン”の法的リスク
迷惑行為をしている車の画像や動画が、SNSで拡散されているのを見たことはありませんか。無断駐車や割り込み、あおり運転などをした車の様子を、ナンバーも隠さずにハッシュタグ「#迷惑車両」などをつけて共有されていることもあります。
無断駐車などドライバーの顔がわからない画像もありますが、中にはドライバーの顔がはっきりとわかるようなものもあります。
迷惑車両に関する投稿のみをしているアカウントもあり、中には「迷惑車両をさらすことで乱暴な運転を撲滅する」という“正義”を掲げているものも見受けられますが、迷惑車両とはいえナンバーやドライバーの顔や姿をSNSで公開しても法的に問題ないのでしょうか。杉本拓也弁護士に聞きました。
●“一方的な正義”が問われる法的責任は小さくない
──「迷惑車両」やそのドライバー相手であれば、他人のナンバーやドライバーの顔・姿をさらしても問題ないのでしょうか
昨今、YouTubeやSNS等に迷惑車両や行為を投稿する行為が数多く見られるようになりましたが、この後述べるように、肖像権・プライバシーの侵害や、名誉毀損罪、偽計業務妨害罪などに問われる可能性がありますので、投稿は慎重になるべきだと思います。
ドライバーの顔や姿をインターネット上に投稿する行為については、肖像権(みだりに自己の容姿などを撮影されない権利)やプライバシー権(私生活上の情報を無断で公表されない権利)の侵害、及び名誉毀損となる可能性が高いです。
名誉毀損は、公共性(摘示した事実が公共の利害に関する事実であること)、公益目的(摘示の目的がもっぱら公益を図ることにあること)、および真実性(真実であるか真実と信じるに足る相当の根拠があること)のいずれの要件も満たせば、違法性が阻却される(=民事上も刑事上も責任を問われない)のですが、本件のような行為は「公益目的」がないと判断される可能性が高いです。
その結果、民事上の責任としては、民法709条に基づく不法行為責任として損害賠償義務を負うことに加え、動画や画像の投稿の差止め等の請求に従わなければならない可能性があります。
また、刑事上の責任としては、名誉毀損罪(刑法230条)が成立する可能性があります。また、投稿した車両が事業者の社用車である場合は、業務を妨害したとして偽計業務妨害罪(刑法233条)が成立する可能性も考えられます。 なお、ナンバープレートの番号だけであれば個人が特定できないことから「個人情報」には該当しないと考えられていますが、周辺の状況や車種等から運転者や所有者が特定される可能性もあり得るので、注意が必要です。
──SNS等でナンバーをさらされた事を理由に、車の買い替えやナンバーの変更をおこなった場合、投稿者に損害賠償をする事は可能でしょうか
インターネットでナンバープレートをさらされる投稿が拡散され、運転者や所有者が特定されてプライバシー権が侵害された場合や、日常生活に支障を来す事態になり車の買い替えやナンバーの変更を行わざるを得なくなった場合には、投稿者に対する損害賠償請求が認められる場合もあり得るでしょう。
過去には、高速道路で起きたあおり運転の事件で、事件とは関係がない女性の名前や顔写真が車に同乗していた「ガラケー女」だという虚偽の情報とともにSNSで拡散された件につき、SNSに投稿していた元市議会議員に対して名誉毀損を理由とする損害賠償が認められています。
この件は事件と関係のない女性でしたが、仮に事件の当事者であったとしても、名誉毀損が成立する可能性があるので、やはり安易な投稿は控えるべきでしょう。
【取材協力弁護士】
杉本 拓也(すぎもと・たくや)弁護士
弁護士・中小企業診断士。事業者向けに風評被害やレピュテーション対策を含む顧問弁護士としての活動を行う。政府系金融機関及び外資系生命保険会社で企業内弁護士の経験も有しており、実践的な法務に関する助言を行う。
事務所名:弁護士法人コスモポリタン法律事務所
事務所URL:https://www.cosmo-law.net/