東大生TikTokerとして名を馳せた“いぶ”さん。従来の東大生のイメージを覆すような、ホスト風のヘアメイクを施している。

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言わずと知れた日本の大学の最難関である、東京大学。卒業後は大企業や士師業、官僚の職に就く者も多いことから、「東大卒」の肩書はいわゆるエリート街道を歩むための“特急券”だと思われがちだ。
しかし、なかにはそんな特急券を放棄し、我が道を貫く「クレイジー」な東大卒もいる。それが、いぶさん(25)だ。物理オリンピック日本代表候補選考という実績を引っ提げ東大に推薦入学するも、在学中はTikTokインフルエンサーとして活動。卒業後にはシーシャバーで店長を務めているという。彼の軌跡を追った。

◆『サマーウォーズ』に憧れ、数学オリンピックに出場

――現在、いぶさんはどのような活動をされているのでしょうか?

いぶ:卒業と同時に、今年からシーシャバー・PukuPuku恵比寿店店長として働いています。学生時代にシーシャにドはまりし、系列店にアルバイトとして入社。あまり知られていませんが、シーシャは同じ材料を使っても作り手によって味が変わる。コーヒーやカクテルに似た世界です。

好きなものは極めたくなる性格の僕は、系列店3店舗を渡り歩き修行。昨年行われた「第一回Shisha-1グランプリ」で初代王者となり、個人的にもっともシーシャのレベルが高くかねてより異動を希望していた恵比寿店で、晴れて店長として働いています。

――東大卒シーシャバー店長という、異色の経歴を持ついぶさんですが、そもそも東大進学を志したきっかけはなんだったのでしょうか?

いぶ:東大を本格的に目指すようになったのは、高3のとき。きっかけは過去2年間、地元・栃木からの東大推薦合格者がいないと聞き、「じゃあ俺が受かってやるよ」と思ったからです。

小学校は普通の公立校でしたが、県内トップの中高一貫校に進学。中高では、数学オリンピック出場を目指す主人公・健二が、ヒロインである夏希先輩との関係を深めていく映画『サマーウォーズ』に憧れ、「女の子にモテモテの学校生活を送りたい」という不純な動機で数学オリンピック出場を決意。

その他、物理オリンピックや化学オリンピック、科学の甲子園にも出場し、物理オリンピックでは日本代表候補にも選ばれました。現実はモテモテとまではいきませんでしたが(笑)、東大には全国上位レベルのアカデミックな実績を残している人を対象に推薦入試が設けられていることを知り、一般入試と併願で受験することにしました。

本番の面接は、東大の教授たちが物理に関してさまざまな質問をしてくるというものでした。大学レベルの問いかけもあり、3分の1はちんぷんかんぷん。それでも、わからないことには堂々と「わかりません」と答え、面接の終わりには「合格させてください」と熱意を伝えました。不思議と、落ちる気はしませんでしたね。

◆挫折&コロナにより、「現役東大生TikToker」が誕生

――事実、いぶさんは見事東大に合格。大学生活は、どのようなものでしたか?

いぶ:「かっこいい」という理由で工学部機械情報工学科に入り、AIやVR分野を専攻。当初は研究者を目指して毎日12時間ほど勉強していましたが、この分野について知れば知るほど発展途上で、僕が生きているうちにやりたいことが実現できるかさえ怪しいということがわかってしまいました。

また、僕以外の推薦生はバケモノ級の天才ばかり。生物学オリンピックの国際大会で金メダルを取った人は、猫と会話できるか研究しているといって話しかけても「にゃー」しか言わない。脳科学の全国大会に出場していた人は、「見ると落ち着く」といって常に脳のCTスキャンを持ち歩いていました。「物理は好きだけど、僕はここまでできない。学問の未来はこういう人たちに託したほうがいい」と思った僕は、徐々に“大学生のモラトリアム期間”を楽しむ方向にシフトしていったんです。